21限目
この部屋は多分罠部屋だ。何度か同じような部屋に入ったことがある。
「それはつまり、まだ中間地点ってことだけどな」
『そうなのか?』
とにかくたくさんの罠と幻覚で、探索に来ている人間を確実に消耗させるための部屋だ。
魔獣の幻覚が襲いかかってきたり、それと同時に護謨 弾や丸太が飛んできたり、壁や地面から飛び出す虎挟み が襲いかかってきたり。あとは浅くて転ばされる落とし穴とかもあったな。
とりあえず進むしかないんだけど……
(何らかの消耗があっても、ちゃん対応できるかってことを確かめるためには)
『実際に消耗させなきゃダメってことか』
なかなか理不尽な話だと思う。消耗しないでどこまで集中力が持つかって試験じゃだめなんだろうか。
もちろんあまりひどい怪我をさせるわけでもない。虎挟みは歯がなくて発条 も弱いし、どれも単体ならさほど大きな怪我をする心配のない罠……なんだけど、でも大勢の人間が狂乱状態に陥っていると折り重なって倒れたりすることもあるし、ちょっと転んだだけでも踏まれる危険もある。虎挟みで挟まれた足を後ろから蹴られるのもなかなか勘弁願いたい。
……全部体験したけどな、初めて試験闘技場 に放り込まれた時に。狂乱 状態の級友 達にめった打ちにされたのも、今となってはいい思い出……にはならないな。どうもあれ以来俺は罠というものと相性が悪いらしく、警戒していれば外すのは難しくないのに、ちょっと気を緩めると連続で引っかかり続けるようになってしまった。
うーん、まず壁沿いは避けたい。罠というのは当然、壁や床にくっついてるものだ。だからといって部屋の真ん中を突っ切るのはな……幻覚はわかってても結構怖いし、振り子の罠は干渉しやすい壁のそばよりも真ん中のほうに多い。
(でもこの施設、途中退場 できないんだよ)
『……そういえばそう言ってたな』
(夜になったら一応確認とるから、それで何とか見つけてもらえるとは思うけど……)
『夜しか確認しないのか?』
(しないよ)
要するに朝ここで倒れて一日中倒れたまま……みたいなこともあるといえばあるのだ。それでも普通は死なない程度の怪我しかしない程度の罠だといえばそれまでだけど、逆にいえば怪我をした人間とかが放り込まれるような事態は想定していない。今の所そんな例はないけれど、ぼこぼこにされた挙句一人でここに放り込まれたら……まあ、犯人はすぐに暴露 るけれど、被害者はまず助からないかもしれない。
動けば罠にひっかかり、傷ついた体を引きずるのも一苦労。恐ろしい限りだ。
落とし穴につまづいて倒れたところを虎挟み4つに次々引っかかって地面に磔にされた挙句、転がる岩に三連打された時はもはや笑うしかなかった。もちろん生まれつきなのかもしれないけど、少なくとも一人で罠の扱いを学んでいた時や、危険予知訓練をしていた時はそんなことなかったしなぁ。
転がる岩も、岩に見えるだけで結構軽いからいいけど、これって逆に危機感が薄れたりするんじゃないだろうか。それとも振り子の罠が見た目より重いことで帳尻をあわせてるのか? あれ、位置が高いから今は本当に食らいたくないんだよなぁ。高確率で肩に直撃……避けよう。何としても。
これで腕を縛ることでもできるなら、手足をついて四つん這いならぬ三つん這いにでもなって進むんだけど、腕が地面に当たったらそれだけで肩痛いし……
『でもさぁ?』
(ん?)
『結局その怪我に何がぶつかろうが、お前死なないだろ?』
(むむむ)
『完全物理耐性を発動してれば、怪我が悪化する心配もないわけだし』
(いや、でも痛いのは変わらないんだぞ?)
『じゃあもういっそそれに慣れる訓練だと思えば?』
(……気軽に言ってくれるな)
『ここでぐだぐだしてるのは非生産的に過ぎるだろ』
(そう言われりゃそうなんだけど……というか、悪化しないのは確かなのか? それならじっとしてても悪化しないわけだし、ひたすらここで待つのも手だと思うんだけど)
『え、どうだろう?』
(おい……)
『でも体力は消耗するよな』
(するのかなぁ)
『痛いと思い続けるのは疲れるだろ。というかいい加減にしないとまたディスケロス出すぞ』
(さすがに死ぬんじゃないか。俺)
『オレが退屈なんだよ!』
(理不尽)
何というか、こいつに喋り勝てる気がしない。
確かにぐだぐだ考えたところで動かなければ無意味だし、消耗するのも確かだろう。
だったらこの停滞を打ち破るためにまず足を動かさないわけにはいかない。どうも最近はあの双子の抑え役 をすることが多かったせいか、自分から足を踏み出す度胸みたいなものがなくなってきてるかもしれない。校長先生がどこまで本気かはわからないけれど、勇者になるにはこのままじゃだめだろう。
まずはこの迷宮 の攻略から、ちょっと死ぬ気でやってみるか……
いつも読んでくださってありがとうございます。




