20限目
というか。
そもそも背後に数字とか書いてない。なにもかも準備不足のまま立ち上がっちゃってたよ。うっかりうっかり。
でもしゃがむ前に肩の痛みに慣れるまで待とう。本気で辛い。
なんだろう。骨折するのいつ以来だっけ。
擦り傷切り傷はわりとあったけど、大体ユーティエが魔法ですぐ治してくれた。消毒液で染みるのなんて痛いうちに入らない。魔獣の毒にやられたときは、こんな風に痛いのどうのというんじゃなくて、寒くて怠くてなにがなんだかわかんない感じで辛かった。
こんな風に痛いのはいつ以来だ。
いつ以来だ。
……。
「よし、ちょっと落ち着いた」
しかし、肩が砕かれるってのもなかなか難儀だな。ちょっと想像できてないんだけど、具体的にどこの骨がどんな風に折れてるんだろう。腕の側の骨か、肩の側の骨か。それともその両方だろうか。処置は……きっと肘を畳んだ状態で腕を縛って、それを胸にでも縛り付けて固定するとかかな、ほとんど下着同然の格好で来たから、固定するための道具がまったく無い。剣の鞘になるかと思って持ってきたのはそう太く無い革紐と、短い革の帯くらいだ。ちょっと足りない。
これってあれか、切り開いて骨の傷口を合わせるためにごりごりしたりするんだろうか。想像すると気分悪くなるんだけど。ていうか骨の傷口ってなんだ。あと地面に書くような道具も持ってねーよちくしょう。
……とりあえず剣についての検証はまた今度にしよう。
早く部屋に帰って休みたい……いや、先に医務室か。
本当はこれを口実にしてユーティエに会いたいところなんだけど、ユーティエは魔法を使うことと薬を作ること、それとちょっとした応急処置はできるかもしれないけれど、本格的な治療は無理だ。
以前骨折した時は確か、三度感覚伝播の魔法で骨折の症状を確認して、その上であくまで応急処置しかせず医務室に連れて行かれたのを覚えている。まあ、医務室で処置を受けたあとに回復を早めるための魔法はユーティエが使ってくれたけど。なんか医務室の医術師をすごく睨んでたけど。
そうだよ。あれは一年とちょっとくらい前だ。
闘技場 での実習中、猪の形の魔獣……ブレイズボアだっけ? と戦ってる最中だった。
なんか牙が燃えてたり、鬣が燃えてたり、爪が燃えてたりする魔獣には『ブレイズ』って音がくっつくんだよな。『ボア』は猪のことに間違い無いだろうけど、あれって何語なんだろう?
猪の魔獣と戦う時は距離を離しちゃいけない。牙は恐ろしげだけど、それ単体の脅威は結局刃物のそれとそう変わらないんだ。十分な助走からの体当たりが一番怖い……って習ってたのに。実際は近接格闘能力だってそう悪いものじゃなかった。話によるとあれは人間との戦闘訓練に使われまくってるせいで変に学習しちゃったからだそうだけど、教師に教わった手本どおりの攻撃を実践した結果、牙と鼻面の間に腕を絡め取られて、腕ごと引っこ抜くような投げ技を喰ららった側の身になってほしい。地面に叩きつけられた瞬間折れたのを実感した。
当時の武器はなんだったっけ。短槍? 確か腕ごと折られた覚えがあるし、そうだろうな。
はっきり言って今日のこれと比べたら全然痛くなかった気がする。こういうのって昔の記憶の方が誇張されてより強く感じるもののような気がするんだけど、あの時の方が単純な骨折だったからだろうか。燃える牙が当たってたはずなのに火傷しなかったのは、多分武器の柄が腕の内側に巻き込まれてて、それごと挟み込まれたからだったんだろうな。
うん。こんな風に痛いのはいつ以来だもなにも、初めてだな。多分。
そっと腰をかがめて、左肩が上になるように腰を捻る。うううううううううううううぅ……痛い。この程度で痛い。というかなにもしなくても痛い。でもまあ、うん。耐えられる。
大丈夫。
そっと右手で剣を拾う。
『お。おかえり』
「……これ、ただいまって答えるとこ?」
『むしろ逆じゃね』
「じゃあただいまって言えよ……いや、ただいまって言われても意味わからねーけど。あ、痛い。もう黙る」
『おー』
少なくとも時間感覚はあるんだな。手放してる間のことを意識はしてるみたいだし。
問題は意識の記憶とかできてるかだよなぁ。こう、紐につないで投げて偵察してこーい! みたいなことができると迷宮 探索楽になると思うんだけどなぁ。あ、もし刃の部分に目があるなら、鏡で反射して覗き込むんじゃなくて、見てもらうってこともできる。
……いや、でも罠とか見分け方わかるのかなこいつ。
『オレは……プロだぜ!』
(ああそう。なに言ってんのかわかんないってば)
なんだよ『プロ』って。いいからそろそろ先に行くぞ。なんか、熱出てきたっていうか、頭も重いし。
でもなぁ。普段なら時間無い時はちょっとくらい漢探知 してもいいんだけど、今は確実に肩に響くもんなぁ。
今どの辺だったっけ。
というかこの部屋の罠はどうなったんだろう?
いつも読んでくださってありがとうございます。
なんとも遅い時間になってしまいましたが。




