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とある少女のプロローグ

 強い魔力を持って生まれ付くというのは、純正のヒューマンの女性にとっては地獄に生まれつくのに等しい。

 理由は簡単で、母胎として非常に優秀だということになるからだ。


 勘違いされやすいのだけど、『魔法使い』『癒し手』などの魔力を扱うことを得意とする人間は、戦士と比較したときに決して肉体的な頑強さ、丈夫さにおける素質が低いわけでは無い。

 魔力は体力や生命力を変換して作るものとされているし、実際冒険者の魔法使いには肉体的な強化訓練 トレーニングを怠ける人は少ないと思う。貴族の魔法学校とかの人間になると研究第一で、魔力を使うのは自分で無いから構わない……なんて人も居るそうだけど、それでも完全に引きこもったりすることは推奨されていないらしい。それくらい魔法使いには体力が必要なわけだ。

 むしろ、自分自身の魔力で自らの怪我を癒したりできる分瞬間的な耐久力は高いのかもしれない。怪我による消耗と回復のための魔力を生成する消耗で、魔力を使えない戦士が傷を受ける時の倍以上の消耗はあるかもしれないけれど、それ目当てで魔力があるにもかかわらず戦士職を選ぶ人間もいるくらいだ。



 つまり俗説のように、『魔法使いや癒し手は肉体的に華奢』というのは間違った認識だ。むしろある程度『適当に飲み食いさせておけば足りない部分は自力で補える』という点で、魔力を使える人間の方がその健康を管理するのはずっと楽なくらいである。と、知っている人は知っている。

 そんな彼らの中では強い魔力を持つ人間は母としてではなく『母胎』として優秀と。そういうことになる。ちょっとした財産。そういうことに。


 屈辱的な話だ。

 とても屈辱的な話だけれど、ヒューマンの悪意にはもう一段階上がある。

 

 魔力の強いヒューマンの女性は、ちょっと手荒に扱っても壊れない。

 そういう風に使える。


 そう、叔父さん達が言っていたのを聞いた。



 あいつらにはもったい無いお宝だ、私たちが有効利用しよう。

 うちの子と一度結婚したことにしてしまえば自由に使える。

 そっちの方が村に貢献できるから本人も嬉しいだろうさ。



 私から両親の持ち物を全て取り上げた上で、それ以上に私をどうしようというのか。怖くて、怖くて。屈辱的で。

 一応形の上では私が彼らの家に住まわせてもらっている形になってはいたけれど、それは彼らに私の両親の家を取り上げられたからだ。どうやってか、村長を味方につけて最低をくださせたらしい。今更その詳しいことを知りたいとは思わないけれど。世界が怖くてしょうがなかった。

 それでも彼らは最低限理性的で、天罰を恐れて15まではまともに育てるつもりのようだった。


 幸い彼らの息子はこらえ性がなくてとても欲求に忠実に私に接していたから、私はすぐに逃げなくてはいけないのだということに気付けた。

 村に訪れた隊商の馬車に潜み、行く当てもなくひたすら昇方 ひがしへ。道中とある村で似た境遇の少年少女に出会い、彼らに堂々する形で橙方 とうなんとうの冒険者学校、今いるこの場所へ向かうことに決めた。


 隊商員に見つかってしまい、放り出されて途方に暮れていた私に真っ先に声をかけてくれた。セイ・シヤクカダイユとはその頃からの付き合いだ。ただし、どうも彼は私に限らず同道者を片端から集めていたようで、彼は私との付き合いを入学してからのものだと思っている気配がある。そんな、他人に興味があるんだか無いのだかわからない彼のそぶりに、同道者のほとんどは戸惑ってしまい距離を置いたのだけれど、私はむしろ、学校に入学した時に本当に生まれ変わったのだというように接してもらえたと感じて、心が軽くなった。

 あるいは、何らかの欲望の対象として見られ続けていた、そう感じていた私の被害者意識が、その無関心をこそ心地よく思ったのかもしれない。だけどそこのところはあまり深く考えないことにしている。何だか、自分があの人たちに毒されてるみたいで嫌な気分になるからだ。


 それからいろんなことがあって、私は持ち前の魔力を生かして一端の『癒し手』になった今も彼の後を付いて回っている。まるで鳥の雛だ。オットーとモディエフ……最近班を組んだ双子からそう指摘された。何でも、彼は私の能力に見合ってないのだとか何だとか。私はそうは思わないけれど。

 そもそも彼女達は【女戦士】ではあるものの、先に紹介した例に則った『魔力を持ち自己回復できる戦士職』である。私と彼女達が組む方がよっぽど理にかなわないのだけど、そこのところどうなんだろう。あけすけで基本的に裏表が無いから、陰口を叩くような人よりはいいのだけれど、何となく流されて悪い付き合いをしてるような気もする。乗せられてつい先輩の前で嘘をついちゃったし……その上嘘をついたことがセイにも知られてしまったようだし。結果的にそのせいで今補習を受ける羽目になっているわけだし。

 それでも彼女達との関係を止められないのは、私が嘘をつく人間だからだろうか。


「あ、目が覚めましたか? 試験闘技場トライアルダンジョンで倒れたと聞いた時は心配しましたよ、セイ」

いつも読んでくださってありがとうございます。

……今回番外編ですが、いい加減ヒロイン(暫定)を出したかったんです。

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