17限目
ドウシテコウナッタ。
あまりのことに思考が言語化できない。おかしい、そんなはずが無い、間違ってる、狂ってる、おかしい、おかしい、おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいオカシイ、オカシイ!!
「が、あぁあ!?」
衝撃。
浮遊感。
天井。
気がつけば、仰向けで倒れていた。眼前には馬のそれとは違う、むしろ牛やなんかのそれに似た先端が鋭い二股の蹄。
その意味は?
「ふざ!?」
振り下ろされた鉄槌からとっさに顔を背ける。首を捻り過ぎたせいでそれがどうなったのかはわからないけれど、やたらと硬質なものが打ち合ったような音と衝撃が側頭部越しに脳内に響いた。耳の内側から叫ばれたみたいにビリビリとした不快感が痛みとともに襲いかかってきて気持ち悪いけれど、それ以上に今回避しなかった時自分の顔がどうなっていただろうかと思うと怖くてしょうがない。そっちの意味でも気持ち悪い。多分地面に叩きつけられたドラゴンの顔面とどっこいどっこいの見た目になることだろう。
そのままゴロゴロと横に体を転がしてその場を離脱。すぐさま立ち上がり『剣』を構える。
いや、今は完全物理耐性があるからその心配はなかったんだっけか。手の中の『剣』の感触を確かめると、しっかりとした手応えがある。指が少しぬめった気もするけどすっぽ抜けたりはしてないようだな。
いやいや、それ以前にこれは幻覚……じゃないよなぁ。頭突きされて体吹っ飛んだし。よくもまあ俺の反射神経で攻撃を受けられたものだ。とっさに突き出した剣が相手の角と打ち合わなかったら、貫通……はしないんだってば。でも、角の纏う毒……もないか、別にこのディスケロス状態異常にかかってたわけじゃ無いし。
だめだ、考えることが次々と逆行してまとまらない。さっきから剣を握る手が妙にぬるぬるするし……ぬるぬる? ぬるぬるってなんだよ。
Brrrrrrrr!!
「おぎゃあ!?」
情けない悲鳴をあげながらも、必死で跳びのく。指のぬめりが気を取られ手元に視線を落とすか落とさないか、その瞬間にディスケロスは再び角を向けて襲いかかってきた。まるで無視するなと言わんばかりのふるまいだな。いや、実際そういうつもりなのかもしれない。さっきの蹄だって、偶然かもしれないけどこちらが認識した途端振り下ろされた。
つまりこれは、俺に恨みを持つ何者かの犯行だ!
……いや、いくらなんでもないか。ないのか? どうしよう、恨みを持ったものの犯行とかいうと、どういう形であれ目の前にディスケロスがいることが現実じみてきてやだな。
でも無理だろう。教師の管理するこの場所 に、生きたディスケロスとかどうやったってただの学生が連れ込めるはずが無い。いや、死んでたって無理だ。ぬいぐるみですら相応に難しいだろう。だとしたらこんなことができるのは……っ、教師か、一流の召喚師か。
もしや、先輩が……その、例えば、勇者の座を奪われて……とか。
『おーおー、いろいろ考えて入るみたいだが……やっぱりさっきまでと比べると見る影も無いな』
(! あ、剣お前このやろう、なに今更喋り出したんだよ)
しかも開口一番悪口とはどういう了見だ。あんまり答えてる余裕無いぞ……っと、だから痛いだけで攻撃受けてもいいんだってことをいい加減学習しないとな。
『あ、敵の攻撃受けるなよ?』
(何言ってんだお前。確かにディスケロスの毒なんかは物理かどうか怪しいけど、基本的な蹄や角は完全に……)
『いや、今お前《完全物理耐性》なくなってるから』
「は、ぎゃ!?」
剣の言葉に惚けかけたところを蹴られる。というか、肩を踏み砕かれる。でかいな畜生。激痛。振り上げた上半身に体重を乗せて振り下ろす動き。そんなものが直撃して立ってられるはずが無い。
ドラゴンもどきの時からそうだったけど、《完全物理耐性》は怪我をしなくなる能力であって、衝撃は防げないし重さを感じないわけでも無い。そして痛いものは痛い。もっとも、その痛みも受けた瞬間の衝撃が感じさせるだけで、意識さえ切り替えれば後には残らない……
ごり
「ご、ああああああああああああああ!?」
い、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいちあいたいたいたいたいたいちあいたいたいいたいあいちあいたいちあいたいちあちあいちあいたいちあちあいたいちあちちあちあちあいたいたいちあいちあちあいたいちあいちあいたいちあいちあいちあいたいちあいちあいちあいちあいたいちあいちあいちあっちあいちあいちあいちあいちあちたいちあちいたい!!!?
視界が真っ白になる。痛い。踏み砕かれた肩が。その上で踏みにじられた肩が。痛い。ただ痛い。ひたすら痛い。
『だ——ら————たろ、攻————け————って』
剣が何か言ってるのに何言ってるのかさっぱりわからない。
肩の痛みが頭の中を埋め尽くす。それ以外に考えていたことも、それ以外を考えるための場所も、全部真っ白になっていく。
Brhh! Bhhhhhh.
小馬鹿にしたようなディスケロスの嘶きだけが耳に残って、そのまま俺は……
読んでくださってありがとうございます。
主人公、突如現れたバケモノにボコボコにされるの巻。
ぶっちゃけ、油断してなくても主人公の戦闘力はこんなものです。




