16限目
『しかし言っちゃ何だが、面白みもねえなぁこの場所』
(しょうがないだろ? 俺今外に出ると危ないんだよ)
両足を軽く開いて伸ばしてみたり、膝を曲げ伸ばししてみる。走るなら走るで軽く準備運動はしてかないとな……真っ暗な場所を走るのは怖いな。普通に歩くか。
『そうそう、気になってたんだけど、それって何でだ?』
(何でって……『殺印』だよ『殺印』。青血の乙女が創ったこの世界の守護者を殺したことに対する罰)
『えーっと……』
(おいちょっと待て、何でお前が知らないんだ? 自称『勇者の剣』だろう)
『自称じゃなくて真剣だぞ。剣だけにな。あ、『真剣』って書いて『マジ』って読むんだけど』
(知るか! どうでもいい!)
いやちょっと待て、何で知らないんだ。勇者の剣ってことは500年以上存在してるんだろ? それが何で……たとえ人から聞かされてなかったとしても、『罰』って言えば話の流れで判断つきそうなものだ。もしかしてこいつ頭が悪いのか? いや、頭っていうか……察しが悪いというか。こいつ、どこでもの考えてるんだ? まあ気にしたら負けだろうけど。
『殺印』の存在が確認されたのは、確かにここ百数十年の話だ。それ以前はそれこそ国の抱える魔法使いとか、勇者様とか、そういう人間じゃ無いと幻獣種とは戦うこともできなかったからな。二代目の魔王が現れて、勇者がそれを打ち倒して……そのあたりで、どうも幻獣を倒すと『殺印』が付いて、他の幻獣や魔獣、場合によっては近縁種の動物にまで嫌われるようになることがわかった。それが今の常識だ。こいつが勇者の剣で、歴代の持ち手とやらがいるんなら、どうやったってそういう経験をしていてしかるべきだと思うんだけど。
しかし暗いな。というかもう暗いとかって段階じゃ無いんだけど。こういう場合、壁沿いに行くべきなのか真ん中を行くべきなのか、はたまた床を這うという選択肢も無いわけじゃ無いな。落とし穴や振り子、下から付き出す形の罠を警戒するなら這うべきか。壁からのに対応しづらいけど。
『効くわけ無いんだからほっときゃいいのに。しかし……そんなんあるのか』
(だから、何で知らないんだよ)
『いやいや、ちょっと考えてみろよ。幻獣と連戦する環境なんてまず無いだろ。一体倒したらしばらくは引きこもるぞ普通。勇者はもう魔獣とか幻獣に相対したら襲われるのが宿命みたいなところあるし』
(倒した帰り道とかは?)
『そもそも幻獣の血みどろで移動してるんだから、それどころじゃなくね』
(まあ、そう言われればそうかもだけど……あ、抜けた)
なんだ、暗いだけか。足止めの時間稼ぎ系の罠だったんだな。
まあ頭上を巨大な振り子が動いていた可能性もあるけど。
さてと、次はどんな場所に出るのかな。
『なあ』
(ん?)
『その『殺印』とやらなんだけどさ、中身は?』
(中身って……なに殺したかってことか? ディスケロスだけど)
『あー、悪いユニコーン?』
悪い、ユニコーン? いや、悪いはなんかわかるよ。黒くて赤くて角が波打ってて。ユニコーンてなに。
(角が二本で黒いモノケロス)
『多分わかる。そうか、あれかぁ』
(俺わかんないんだけど、悪いユニコーンて何だよ)
『にだ』
(二代目はわかってる)
モノケロスとディスケロス。ケロスが多分馬か角って意味だと思う、もしくは角馬? モノとディスが1と2、もしくは白と黒。で、ユニコーンとモノケロスが同じものなら、まずどこで分割するのか、単一の言葉なのか、意味はどこで区切るのか。今までの言葉は言葉として別物だったけど、今回は名前だ。言葉とはまたちょっと違う。
ちなみにモノケロスは言葉にすると『単角馬』、ディスケロスは『重角獣』。モノケロスは人に馴れることはあるけれど、ディスケロスは無いってところが『馬』と『獣』の違いだとか。
解読できる言葉って素晴らしい。ケルベロスは明らかに別系統だしなぁ。
……いかん、ちょっと夢中になってた。
『あー……お前の熱い思いは理解できたんだけど、すまん。知らねーや』
(っち)
『ただ、バイコーンが何とか言ってたけど』
(バイ、コーン……?)
『あ、いや待ったこれ以上そっちに行くな。今は迷宮攻略が問題だぞ。それにまだ話もある』
(ん、それもそうだな。次の部屋は……げ)
『どうした? なんか広い場所に出たけど』
これはあれだ。幻覚の魔獣に襲撃される罠部屋です。
しかも幻覚に混じっていろんなものが飛んでくるからかなり危ない。この部屋に大人数で入ると狂乱状態になって味方に殺されかけたりすることも稀にだがよくある……いや、この部屋の出現率が稀でね。多人数で入った時にこの部屋が出る確率はもっと低いし、挙句気づかずこの部屋に入るなんてことはほぼ無いんだけど……他の罠でまとめてこの部屋に落とされることがあってだね。
そうなるとまあ、うん。ほぼ確実に狂乱状態になった味方に殺されかける。
まあ、一人で来てるから関係無いんだけど。
『ふーん? まあ要するに広い部屋ってことだな』
(お前人の話聞いてたか?)
『いいからいいから、ちょうど広い場所で試したいことがあったんだよ』
(試したいこと?)
『ああ、お前の《完全物理耐性》の正体をな』
(能力の正体って……)
『まあ見てろって。あ、オレを握ってくれ』
言われるままに剣を握る。もっとも、こいつがなにをする気なのかは知らないけど、こっちとしてはそれどころじゃ無い。幻覚の魔獣がどこから襲ってくるか、あるいはそれのうちいくつに罠が仕掛けられているか、それを見切って回避しないといけない。
「っと、早速お出ましだな……あれ」
現れたのは黒い影。馬のような形の巨体。額から突き出るのは縦に連なる赤い二本角。
その姿がじわじわとはっきりした形になるにつれて、剣を握った腕から剣に何かが流れていくような感触がある。何か力が抜けていくような……そんな感触。そのあまりに不吉な感触に、思わず目を見張る。
「ここに出る幻覚は、魔獣だけのはずだろ。何で幻獣が……?」
明らかにこちらを睨んでいる。コツコツと前足で地面を引っ掻くこと一回、二回……まるで角を突き上げるように顔を上げて……
「「「「「「「「「「Brrrrrrrrrrrr!!!!!」」」」」」」」」」
「うおおぉ!?」
ぐあっ、うるせぇ! 何でだ。幻覚は、見えるだけで触れもしなければ音も立てないはずだろ!
『おい』
(な、なんだ?)
『死ぬなよ』
(はぁ?)
次の瞬間、幻覚のはずのディスケロスは、地響きを立てながら俺をめがけて突進してきた。
いつも読んでくださってありがとうございます。




