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12限目

目を留めてくださってありがとうございます。

 Clap ぱちClap ぱちClap ぱち......


 突然の拍手の音。同時に、目の前のドラゴンが骨を残してぐずぐずと融けていく。びっくりして振り返ると、校長先生がゆっくりと近づいてくるところだった。



「いやあ、期待以上の成果だ。まさかドラゴンを倒せるとは思わなかった」


「は、はぁ、俺も思わなかったですけど」



 とりあえず『剣』の刃を手ぬぐいで持って柄を差し出してみるが、校長先生はそれを掌を見せる動作で制した。かといってこのまま持っていても手持ち無沙汰なので、手ぬぐいを腰の革帯 ベルトに回して輪を作り、簡易の鞘にしてみる。刃を隠さずぶら下げる機能しか無いものを鞘と言うのかはわからないけど。


 ところで今、気のせいじゃなかったら遠回しに死んでくれて良かったのにっておっしゃいませんでした? いや、あれと戦わされて助けるそぶり無し、尚且つ勝利に期待しないってそういうことですよね? そこんとこちょっとどういうつもりだったのかかっちりきっぱり説明して……欲しくないな、この人に余計な事言わせたくない。下手したら消されるような気がする。今更でもないけど、完全に道を踏み外したな、俺。


 さて、なんとなく深呼吸をして身構えるのと、Snap! パチン 校長先生の指が鳴るのどちらが先だったか。気がつけば真っ白な空間は消え失せて、ついさっきまでいた石造りで絨毯の敷かれた普通の校長室に戻ってきていた。つい天井を確認してしまうけど、当然この部屋の高さはせいぜい2ハード (4メートル弱)、ドラゴンが元気よく飛び回るようなものじゃない……いや、まさか?



「今のドラゴンは、偽物でしたよね」


「……ふむ、確かに気付く事が出来るだけの情報は目についたろうな。特に隠してもいなかったし」


「あれは先生が作ったんですか?」


「いいや、あれは専門の術者に作ってもらったものだ。私にはああいったものを作る能力は無いよ」



 ……なんだ、幻覚じゃなかったのか。もしかしたら剣以外は部屋ごと全部幻覚だから、万が一俺が死んだとしても夢から覚めるように幻覚が消えるだけ……という事かと期待してみたんだけど。それなら、死にかけても助けてもらえなかった事に説明がつくし、いっそ完全物理耐性とやらも剣の勘違いか幻覚のつじつま合わせか、あるいは剣が喋った事がそもそも幻覚だったのかってね。ほんの一瞬だけ期待した。



『オレはいるぞー』


(ああ、うん。手に持って無くても聞こえるんだな)


『所有権はお前にあるからな、そんなに離れなきゃ大丈夫だ』


(……わかった。うっかり反応しそうだからしばらく喋んな)


『おう』



 珍しく聞き分けの良い剣はおいておいて、もちろん俺だってあれが幻覚じゃなかったのはわかってる。わざわざ手拭いで鞘を作ったし、校長先生の作った幻覚だったと言うなら自分が喋れる事が校長にバレると困る、等とは言わないだろう。多分だけど。



「どうかしたかね?」


「いえ」


「そうかね。では改めて勇者科について教えよう」


「はぁ」



 Snap! パチン 指を鳴らす音とともに再び机と長椅子が現れ、校長先生は優雅に腰を下ろした。対面の椅子を掌で示すような動作を受け、俺も再び腰を下ろす。



「まず、勇者科と言っても専門の特殊な講義があるわけではないんだ」


「そうなんですか?」


「ああ、今まで通り『探索者』として好きな講義を受けてくれて構わないし、専攻を決めてそちらの道に進んでも構わない。ただね、定期的にこちらから期限を設けて課題を出す。それは確実にこなしてもらう」


「課題……こなせなくなったら失格、と言う事ですか」


「それですめば良いのだがな……断っておくが、君は現状6人いる勇者候補の一人にすぎない」



 6人。その言葉を胸中で反芻する。


 意外に少ない、というのが正直な感想なんだけど、剣の力を思えばむしろ多いのかもしれない。昨日まで一対一では標準的な魔獣と一騎打ちで勝てるかどうかだった俺が、こうして偽物とはいえ幻獣種の中でも上級に位置する(小さめだけど)ドラゴンと戦って勝利する事が出来るんだから。しかし6人か。


 6人 ふくすうで、なおかつ候補。課題をこなせなければ失格以下。つまり、その候補6人が揃って勇者を名乗る事は無い、と言う事か。でも、失格以下ってのはどういうことだろう? 単に勇者候補と言う立場を降ろされるではすまないと言う意味だろうか。候補を降りるでは済まない……勇者科から追い出されるだけでは済まないのだとするとそれは、学校そのものを追い出されるとか……あるいは、死? いや、まさかね。



「君には勇者候補として自覚ある行いが望まれるし、教員達からはそう扱われる。来るべきときに備え努力したまえ」



 あ、あれ? ちょっと待ってくれ、話しが締めに入ろうとしてないか? まだまだ知らなきゃいけない事がある気がするぞ。ここまででわかったのって、勇者科に配属されると知ってる人には勇者として期待されるけど、特別な教育はしないから自分で努力しろ、成果は都度確認する……ってそれだけだ。


 詳しい事を聞いた気がしない。具体的に何とは言えないけど、もっと聞かなきゃいけない事があるような気がする。なのに校長先生は長椅子から立ち上がり、粛々ともといた執務机らしきものに足を向けている。



「なお、勇者科の事は当然秘密だ。これを公にするような事があれば、課題をこなせなかったときと同様の措置が待っていると思いたまえ」



 その背中は言外に、用が済んだから出て行けと言っていた。


 じっとその背中を見つめ、今日ここに来てからずっと考えていた事を俺は確信する。この人、絶対教育者に向いてない。校長先生なんてただ出資者とかってだけなんかだろ……と。


 まあとっとと剣とも話したいし、部屋は出るんだけどな。

べつに勇者(候補)が6人いるからといって、偽者の7人目が現れたりはしないと思います。

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