10限目
目を留めてくださってありがとうございます。
なんとなく、上手くいったんだろうと思う。
多分上手いことドラゴンに俺の苦痛を押し付けてやれたんだろう。ドラゴンを襲った苦痛は多分『腹痛(物理)』と『窒息(物理)』。長い長い身体を団子虫のように折りたたみ、苦しそうに咳き込んでいる。当然翼を羽撃かせる余裕も無いみたいで、広げっぱなしのそれが空気にぶち当たっているのかふらふらとよたついている。ざまぁ。超ざまぁ。
しかし俺、自分では割と良い人間だと思ってたけど、こうやって他人に悲鳴を上げさせて喜んでるところを見ると、案外そうでも無かったらしいな、まあそんなことはどうでも良いけど。
問題は、結局俺が落ちるってことだ。
『ノォオオオオオオオオオオオオーーーーー!!!』
「お前が叫ぶのかよ」
『アホ! アホ! バカ! このアホ! ドラゴンから離れてるぞ! ドラゴンから離れてるってば!』
「それが?」
『それがじゃねーよ! このままだとお前一人で地面に叩き付けられるんだぞ!』
「離れなきゃどうだってんだよ」
『少なくともあいつの身体をクッションに出来るだろうが!』
「『クッション』?」
『あー……緩衝材! 衝撃緩和! マット! 衝撃吸収!』
「『マット』もわからないけど……硬いだろ、あれは」
『床よりましだ!』
あんまりがなるなよ、頭に響くから。どっちみちもう嫌って程離れてるし、いまさら届かないだろ? 別に死にたいわけじゃないけど、ここはもう大人しく地面に叩き付けられるしか無いんじゃないか? あ、ドラゴンが姿勢持ち直して翼を動かしだした。
「だいたい完全物理耐性とやらはどうした」
『あ! それがあった! いいか、オレを放すなよ!? 絶対放すなよ!? むしろオレが壊れたりしないように必死で庇えよ!?』
「俺 がお前 を庇うのはなにか違うんじゃないか?」
『うるせぇ! オレはお前と違って普通に壊れるんだよ! お前みたいな化け物と一緒にするな!』
「喋る剣と壊れない人間、どっちが化け物かと言えば確かに迷うところだな」
『おまっ! そんなこと冷静にぼやいてる場あごっはぁあああああああ!?』
「ごっはぁあああああああ!?」
衝撃が脳天からつま先までを一気に駆け抜ける。
これ、頭から地面に叩き付けられたっぽいな。叩き付けられた衝撃で視界が真っ暗になったんだけど、なにこれめっちゃ怖い。死んでないけど死ぬ程痛いし。脳天がなんかあれだし、首と腰がひしゃげ折れそうだし、脇と股が裂けそうだし、手首も地面に叩き付けられてズキズキするし、そして信じられないことに俺まだ剣を手放してない。
そして奴と悲鳴がかぶったのがなんか腹立つ。
っていうか校長先生、明らかに死ぬような目にあってる俺を庇ってくれる気配が全くないんだけど。あれ、ドラゴン倒せなくていいって言ってなかったっけ。いずれ倒せるようになるもなにも、ここで死んだら明日も無いんだけど。
どうしよう。終わりが見え——
ーーCrash!!!
うおわ!? あ、ドラゴン羽撃きが間に合わなくて墜落したんだ。すごい音だな……っと、慌てて身体を捻ってドラゴンの方に頭を向ける。なんだか、びっくりしたりして意識が切り替わると一気に痛みが意識の向こう側に移行して身体が動くようになるな。
痛いのは痛いけど……なんて、心の中では苦笑いをしても、身体はちゃんと立ち上がって身構えている。
すこし、自分の身体じゃないみたいで怖い。
けど、それよりも。
目の前の光景の凄惨さのほうがあれだよな……
『うわぁ』
「うわぁ」
また被った……じゃなくて。
なんだろう、ちょっと目を背けたい。
いやだってあれ、例の『完全物理耐性』とやらがなかったら、俺もああなってたわけで。俺の本来の姿を体言してるというか、俺が強いられたことの過酷さを物語っていると言うか。血とか飛び散って真っ赤だよ?
『すげぇな、あれ下顎の歯だろ? 飛び散って顔面のあっちこっち貫いてやがる。折れた肋骨が列をなして脇から飛び出てるのなんか切り分ける前のあばら肉そのものだし、ちぎれた尻尾の断面なんてもも肉の輪切りの見本みたいだ。口の隙間から血が漏れてるのは間違いなく内蔵がいくつも潰れてるからだろうし、翼の骨もぼっきり折れてそこから裂けてるな、あれじゃ二度と飛べねーだろ』
言うなよ! 今必死に現実から目を逸らしてんだから言うなよ!
「おま」
『あ!』
「!」
あまりにあまりな剣のやり口に文句を言おうとしたら、突然の大声で出鼻をくじかれた。
大声と言っても、こいつのは頭に直接響くから性質が悪い。驚くというよりは、突発的な頭痛に身体が硬直して動けなくなるって言った方があってる感じだ。すごく不快だし気持ち悪い。
そんな俺の精神的な動揺を見切ったのか、ドラゴンが無理矢理身体を持ち上げた。怖い。すごく怖い。剣がなに言いたいのかも気になるし、とりあえず気勢を削ぎぐために剣を正面に突きつけ、肋骨のはみ出している側にそろそろと回り込む。ドラゴンは苦々しい顔でこっちを睨みながら、苦しそうに身をよじって向きを変えようとしているみたいだ。
(なんだよ)
『よし、今から喋るの禁止な。オレが自由に喋れるって、後ろの奴にバレるとマズいし』
(……なんでだ?)
『おいおい説明してやるよ。今は身構えろ。まだ終わってねーぞ』
(……ちぇっ!)
不快さと気持ち悪さに乗っかって反骨心も湧くけど、こいつが喋ることをばらすのはいつでもできる。逆にばらしたあとで誤魔化すのは難しいだろう、そう判断して剣の言葉に従う。
だいたい、それを相談できるほど校長先生を信用できるかと言えば……ないな。高感度とか信頼度的なのを天秤にかけてひっくり返して混ぜっ返すと、むしろ剣の方が校長先生よりずっと高い。少なくともここまで死なないですんでんのは全体的に剣のおかげだし、どっちかって言うと対校長先生に隠し札は取っておきたい。
「しかし……瀕死のドラゴンが切って来るのってどんな札だったかな、もう終わってるようにしか見えないんだけど」
『札?』
「あー……あっ!? あ、あああ……あーなんだったかなー(いきなり話しかけんなよ)」
『なんの話しなんだよ』
(蒐集歌留多だよ。はやってんの)
『知らねー』
(じゃぁそれは今度な。要するにこういうときにドラゴンが何をしてくるんだって話しだ)
というか、なんかもう素早く動けないみたいだし、ひたすら相手の周りをぐるぐる回って動かなくなるのを待ってたらだめかな。
『お前、その発言は全てを敵に回すぞ』
(いやだって、内臓とかあれだし、今更火とか吹かなさそうだしさ)
主人公がどんどんグダグダなだめな奴になって行く……
なにやってんでしょうねー。元々は普通の冒険学園ものにしたかったのに。




