9限目
目を留めてくださってありがとうございます。
『お前の能力は至極シンプルだ』
状況に焦れたらしいドラゴンの咆哮を聞き流した頭に、剣の声が差し込まれる。うん? ちょっと知らない言葉が出てきた気がする。
(なんだよ『シンプル』って)
『あー……単純とか、わかりやすいって意味だ。じゃ無くて能力の方に注目しろよ』
(そんな言葉聞いたこと無いぞ? どこから引っ張ってきたんだ)
『引っ張ってきたっていうか二代目のがうつって……って人の話聞いてんのかお前?』
(人の話って……お前剣だろ)
『一々突っ込むなよ、そんなの言葉の綾……じゃなくてだなぁ!? なんなのお前能力の話聞き返せよ興味ねえのかよ!?』
(えっと、言葉がつまりすぎててなに言ってんのかわかんない)
『餓鬼か!?』
なぜか剣が立て板に水もかくや と言う勢いで喋り だした。いや、もとから口数が多い奴だとは思っていたけど、何を興奮してるんだか聞きづらいったら無い。というか目の前のドラゴンに気が行ってあんまりまともに相手をする余裕が無いと言うか。脳の外と中から同時に音が聞こえるのってなんだか気持ち悪い。中の方の声が鮮明に聞こえる分特に。
しかしそんなに喋りたいことがあるならこっちを無視して喋ってくれれば良いのに……もしかしたらだけど、喋れるのが俺の能力だって言うくらいだから、案外喋れるのが嬉しいだけで別に喋ってる内容自体には大した意味は無かったりするのかもしれない。
『オレを寂しい奴みたいに言うな!』
(ああ、聞こえてた? ごめん)
だからお前は『能力』とやらについて喋りたいんじゃないのかよと。空しいから謝るなとかなんとか……めんどくさい奴だなぁ。
そんなことを思っていたら、気もそぞろになっているのに勘づいたのか、ドラゴンがとうとう走り出した。思わず身体がこわばる。ああそうか、今まで剣の言葉に馬鹿みたいな応酬をしていたのは少しだけ現実から逃げたい気持ちがあったんだな……なんて思う暇もなく、いつの間にか足を地面から離したドラゴンの、投槍のごとき頭突きが腹に直撃する。
いや、反応出来ないってこんなの。
衝撃で息が詰まる。足の踏ん張りも効くわけが無い。衝撃のせいか、激痛のあまりか……身体が海老のように丸まり、ものの見事に吹き飛ばさ……れない!? 違う、これ頭突きじゃない。
「しょう……りゅう……っ!」
俺の腹に頭を叩き付けたドラゴンはその速度を一切緩めること無く翼を羽撃 かせ、頭を上方に向けながら全身をくるくるとねじりながら空に向かって速度を上げて行く。こいつ……俺を上に突き上げて、地面に叩き付ける気か!
俺が理解したのが伝わったのか、ドラゴンの目玉がキュロリと俺の顔を見据え、俺も思わず睨み返す。剣は物理に完全な耐性があるとかなんとか言っていたけど、それは俺が気絶したりして意識を失っても有効なんだろうか? こうやって腹を圧迫し、高速で突き上げられ続けるともはや呼吸もままならない。
いや、酸欠で気絶とかじゃなくて死ぬんじゃないか。それは物理耐性の範疇に無いだろ。
『うん。そらそうだろうなぁ』
っていうか天井高すぎるだろ。どこまで上がるんだ?
『お前オレのこと嫌いだろ』
(いや、別に……ただ、けっこう……げんか……い)
『おわぁああああ! まてまてちょっと待て! お前みたいな有望株中々いないんだって! 良いか、よく聞け? お前の力はなリン……《連結》だ! オレの持つ能力、 《覚醒》を分け与える能力だ!』
(れんけ……つ……かく……せい……)
『要するに今のオレはめっちゃ強い! オレを振れ! 奴に突き立てろ! 今なら目の前にあるだろうが!』
なに言ってんのかがさっぱりわからない。分け与えるもなにも、この場には俺とドラゴンと……あと未だに傍観決め込んでる校長先生しかいないのに。誰に何を分け与えるって言うんだ。あー……なんだかんだ言って杯を手に取ったのに。なんだかんだ言ってこの剣を手に取ったのに。それでも嫌だと、怖いと、逃げ出した結果がこれか。
息が苦しい。頭が痛い。気が遠くなる。
リン?
リンディール・ヴァーリア。
俺の名前。
俺の生まれた日。
「れん、けつ」
何を? 誰に?
『おい、どうした? 意識戻ったのか? 聞いてるのか? おい!』
この痛みを、敵に!
「ああああああああああああああ!」
想像するのは、ディスケロスの能力。自分自身の『失明』という苦しみを障壁として身にまとい、逆に先輩に押し付けた。それと同じことを、してやる。この苦痛を全部!
そう思った。そう叫んだ。
驚くべきことに未だに剣を離さないでいた右手をそのままに、左手をのろのろと持ち上げる。ドラゴンの目が、刃物も持たぬそれでどうするのだと、笑っているような気がした。だけど知ったことじゃない。確かにこの手でなにか傷を付けられるとは思わない。目玉に突入れたってだめだと思う。
だけど違う。これは悪あがきだ。祈り。訴え。叫び。
「喰らえ」
左手を使って、自分の意思でドラゴンの顔を掴む。
それだけでドラゴンが悲鳴を上げた。
ざまあ。
『→↓↘(前・下・斜め前)+頭突き』
別にセイ・シヤクカダイユことリンディール・ヴァーリアが昇竜拳を知っているわけではなく、『昇竜、天を落とす』と言う慣用句が存在するだけなのです。
しかし『剣』を喋らせるの楽しい……




