第5話 二人だけの昼休み
昼休み。
俺はいつものように自分の席で弁当を広げていた。
「桐谷くん」
「ん?」
顔を上げると、水瀬が立っていた。
「今日も一緒に食べていい?」
「もちろん」
「よかった」
水瀬は嬉しそうに笑って、昨日と同じように俺の前の席に座った。
「なんか、最近一緒に食べるのが当たり前になってきたな」
「……嫌?」
「いや、むしろ助かってる」
「助かってる?」
「一人で食べるより楽しいから」
「……そっか」
水瀬が少しだけ嬉しそうに俯いた。
「じゃあ、これからも一緒に食べよう」
「ああ」
弁当を食べながら、俺たちは他愛のない話をした。
授業のこと。
先生のこと。
クラスメイトのこと。
昨日見たテレビの話。
今までほとんど話したことがなかったとは思えないくらい、自然に会話が続いた。
「桐谷くんってさ」
「ん?」
「好きなものとかある?」
「好きなもの?」
「うん」
「そうだな……甘いものとか」
「意外」
「なんで?」
「もっとブラックコーヒーとか飲んでそう」
「俺をなんだと思ってるんだよ」
「大人っぽい感じ?」
「全然そんなことないぞ」
水瀬が笑う。
「じゃあ、今度甘いもの食べに行かない?」
「え?」
「駅前に新しいケーキ屋さんできたんだって」
「水瀬、そういうところ行くんだな」
「私だって普通の女子高生だよ?」
「……確かに」
「ひどい」
水瀬が頬を膨らませる。
その表情がおかしくて、俺は笑った。
「じゃあ、今度行こう」
「本当?」
「ああ」
「約束ね」
「約束」
水瀬が小指を差し出してきた。
「……何してるんだ?」
「約束って言ったら、これでしょ?」
「子供かよ」
「いいから」
仕方なく、小指を絡める。
「……約束」
「うん」
水瀬は満足そうに笑った。
そのときだった。
「……」
少し離れた場所から、こちらを見ている視線に気づいた。
美咲だった。
目が合う。
美咲は一瞬だけ驚いたような顔をして、すぐに視線を逸らした。
「……」
なんだったんだ?
最近、美咲の様子がおかしい。
昨日も今日も、どこか俺と水瀬を気にしているように見える。
「桐谷くん」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、美咲が……」
「……幼馴染の人?」
「ああ」
水瀬が美咲を見る。
そして少しだけ考えるような表情をした。
「気になる?」
「……分からない」
正直に答える。
「昨日までなら、何も考えなかったと思う」
「うん」
「でも最近、なんか距離ができた気がする」
「……そう」
水瀬は少しだけ寂しそうに笑った。
「でも、今は私が隣にいるよ」
「……水瀬?」
「なんでもない」
水瀬は笑った。
だけど、その笑顔はいつもより少しだけ強かった。
――放課後。
「桐谷くん」
「ん?」
「今日も一緒に帰ろう」
「ああ」
俺たちは教室を出る。
その後ろ姿を、美咲は黙って見つめていた。
「……また」
昨日も。
今日も。
直人の隣には水瀬がいる。
「……私のほうが、ずっと前から隣にいたのに」
ぽつりと呟く。
そして、自分で言った言葉に美咲自身が驚いた。
「……私、何言ってるんだろ」
胸が苦しい。
直人が水瀬といることが、どうしてこんなに嫌なのか。
まだ答えは分からない。
でも――。
少なくとも、美咲の中で何かが変わり始めていた。




