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ルイスとギフト10

(……げっ)

リューイの頭からは、赤い水がぴゅーと吹き出ていた。


「布!たくさん布持ってきて!あと誰か教会行ってシスター呼んで来て!早く!」

カナが甲高い声で叫び、処置に取りかかる。

ローリントン翁は、やってしまった、という顔でつるりとした頭に手をやっていた。



ルイスがローリントン翁を煽りに煽った結果、ローリントン翁は得意の銀の棒を振りかざした。

ルイスは大概のことはできるとカナに豪語したが、例外はある。

剣、槍、弓、殴る蹴る…、暴力関係はてんで苦手である。

(まぁ殺されはすまい。そこまで頭イッちゃってないだろ)

なんて考えて、ぎゅっと目をつぶったところで、庇おうとしたカナが抱きついてきた。

そこまでがルイスの実際見たこと。


ここからは後に聞いた話。

翁はカナに当てないよう棒の向きを変えた。

ところがそこには翁を止めねばと飛び出した使用人がいた。

咄嗟に体を捻って使用人を避けようとしたが、更にそこにはカナとルイスを守ろうと走り込んできたリューイの頭があった。

その結果、リューイの頭がぱっくりと割れた、らしい。



使用人たちとカナがどたばたと動き、ダントンやミハイ、ローリントン翁がデカい置物状態になっている中、呼ばれたシスターたちが到着した。

そうして治療のため、リューイ以外の者が食堂から追い出されたのだった。


「おじいさま。いい加減、棒を手放していただけません?普段の生活には必要ないものでしょう?」

カナは腰に手を当て、ローリントン翁に苦言を呈す。

ローリントン翁は、リューイの頭を避けられなかったことが痛恨の極みだったらしく、

「そうですなぁ…、お嬢さまの言うとおり…、私も歳を考えねばいけませんなぁ…」

力なく呟いた。


幸か不幸か。ルイスとカナの婚約話は、何処かへ飛んでいったようだった。



※※※※



翌朝。

頭を包帯でぐるぐるに巻かれたリューイは、

「もう全然平気!ほら!」

寝台の上でぐるぐると腕を回した。

「駄目です!頭は怖いんですよ!しばらく絶対安静!」

カナが叱りつける。


ちなみにルイスも肩に濡れた布を巻かれている。

翁に棒で叩かれたあとが腫れ上がっていたためだ。

なるべく冷やした方がいい、とカナが言って何度も濡れた布を取り替えるので、上半身はすぐ脱げる大きめシャツのみの格好だった。


このような状況のため、城への出立は様子を見ながら明日以降にしようということになった。

すでにローリントンの町に着いて3日目。

城に事情を知らせておこうと、ローリントン翁が早馬を城へ送ってくれた。

具体的にどんな内容を送ったのかはわからない。


そして。

昨日の食堂の騒ぎで最も大きなダメージを負った人物。

それはミハイだった。

魂が抜かれたよう、というのはああいうのを言うのだろう。

元々表情の乏しい男だったが、完全に表情を無くし、呼びかけにも反応せず、目から光が失われた。

なんとか客室の一室に入れたが、半日経ってもぴくりとも動かないでいるらしい。


「ミハイさんはどうしちゃったのかなぁ?」

カナが首を傾げる。

ルイスはリューイと顔を見合わせた。

「たぶん、僕の“婚約”宣言と、特に“同衾”発言にショックを受けてしまったのだと思います。ミハイさんはカナさんに夢中ですから」

「ええ?つまり、わたしのギフトのせい?でもダントンさまはああはなってないのに」

ダントンは今朝はけろりとして起きてきて、朝食をもりもりと食べていた。

そして今日館を出ないのなら、もう少し休ませてもらおう、と与えられた客室で眠っている。


「ダントン様とミハイさんは違うでしょう。ダントンさまはカナさんを孫のように思ってるのでしょうが、ミハイさんのは恋情なんですから」

もちろんそんなことわかっているだろうけど、と思ってカナを見ると、きょとんとした顔をしていた。


「恋情?つまりわたしの“可愛い”に魅入られているってことでしょ?でも、あんな風におかしくなる人なんてこれまで見たことない」

「ミハイさんはギフトの影響以上に、カナさんのことを想っているということでは?」

「ギフトの影響以上に?想う?どういうこと?」

ルイスはまじまじとカナを見た。

(カナさん、本当にミハイさんの恋心に気づいていない?あんなにあからさまなのに?)


まさか、ギフトのせいで好かれることに慣れすぎていて、それ以外の理由で好かれるとは考えもしない、なんてことがあるだろうか?

ルイスはまだまだカナについて、理解しきれていないようだ。

リューイはにまにまと、ひどく楽しそうな表情をしていた。


「にしても驚いたなぁ、ルイスくんが城主様の子だったなんて!次の城主様ってことだろ?」

ルイスは苦笑した。

「いいえ、そうはならないですよ」

「え、どゆこと?」

「正式に跡継ぎになるにはある人の承認が必要なんですが、ま、十中八九無理です。僕は私生児ですから」

「へー」

「僕も城主になりたいとは全く、これっぽっちも、思っていません。万が一承認が降りてしまったら、どう逃げるか悩ましいです」

ルイスはあはっと笑う。

カナは複雑そうな顔だった。

自分の問題に巻き込んで、ルイスに望んでないことをさせている、と思っているのだろう。

(結果を出すまでが"お返し"ですよ)

ルイスはにこりと笑ってカナの手を取った。


「まぁ今はまず、カナさんに“絶世の美女”ではなく、"僕の婚約者"としてペレシュク城に来てもらうことを考えないと。リューイさん協力お願いしますね」

リューイはどゆこと?という顔になったが、疑問を口にもせず、ぐっと親指を立てた。

「任せとけ!」



※※※※



それから2日後。

「いってらっしゃいませ、お館様!」

館の裏門の前に使用人たちがずらりと並ぶ。


城壁に沿うように馬車が3台並んでいた。

それぞれの御者台には紺服の使用人が待機し、馬車の横には騎乗した黒服の使用人が4人、護衛として控えていた。

馬車の後ろで、出発はまだかとうろうろしているのは愛馬に乗ったリューイだ。


3台の馬車のうち、1台は荷物用の幌馬車。

もう2台は貴人が使うような箱型の客車だった。

片方の客車には、ダントンとルイス、ミハイ。

そしてもう片方の客車にはカナと、そしてローリントン翁が乗っている。


「私が直々に城へ行き、城主と話をつける」

そうローリントン翁が言い出したのは、昨日のことである。

ルイスとしては8割方想定していたことだったが、ダントンは軽いパニックになっていた。

そうして今朝になれば、カナはローリントン翁に連れて行かれて、馬車の中である。

「ルイスや、もう儂はなにがなにやらわからん」

「ローリントン翁が馬車と護衛と世話役をつけて下さって良かったですね。ここからは快適な旅になりますよ」

「そ、それはそうかもしれんが。ローリントン翁が着いてくることになるとは。城主様も驚かれるだろうに」

「大丈夫です。翁が早馬で知らせておいて下さったそうですので。城主様はむしろ喜ばれるのではないですか」

「そう、そうか……喜ばれるのなら良いのだが」


馬車が動き出す。

ダントンは外見(そとみ)用の丸い枠に顔を近づけ、遠ざかるローリントンの町を見ていた。

ミハイは焦点の合わない目でぼぅと座っている。

城市町まではおそらく3日ほどで着くだろう。


「ダントン様。お伝えしておかなければいけないことがあります」

「…な、なんじゃ。まだなにかあるのか」

ダントンはびくびくと尋ねた。

「実は僕、城主様から『"絶世の美女"を殺せ』って密命を受けていたんですよ。だから城市町に着いたら殺しますね」

「………………………………………ん?」

ダントンは不思議そうな顔で、ルイスを見た。

「それは……、いったい……、どういう意味かさっぱりなんじゃが………」

「わからなくても構いません。ただ僕がそう言ったことは覚えておいてください」

「うむ?いや?ルイス?もう少し説明を、ルイス?」


ルイスは狼狽えるダントンから反対側の外見に視線を移した。

(城市町に着いたら…)

計画のためにしなければいけないことは山のようにある。

だいたいの道筋はルイスの頭の中にあるが、そのとおりに行く保証はない。けど、

(ま、うまく行くでしょ)

ルイスの胸の中は、不思議なほどの自信に満ちていた。

これにてルイス編おしまい。

ルイスくんがどう動くかよくわからないまま一話一話書いていたので、後で読んだらあちこちに矛盾や書き忘れがありそう。

気づいたら、こっそり書き直します


次は城市町……の前に、短い話を挟もうと思います。

ローリントン翁とカナの話か、リューイの話か、まだ迷い中です。

よければこの先もよろしくお願いしますm(__)m

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