『カインの使者』第六部3章「カインとアベルの違い」
クライシストのエネルギー合成センターで次元境界層破壊のエネルギー算出を行うエディ。彼女のニューラリンクシステムを使った高密度な計算は、今までトライ&エラーでやり直していた作業を飛躍的に前進させる。結果に驚いたアクエラは彼女に暫くの間、作業に就いてもらうようお願いした後、一緒にいたElle·シャナに都市民脱出用の船であるミカの事を聞く。Elle·シャナは問題ないと言ったが、エディはその時、何かの違和感を覚えた。
部屋に帰ると志門とElle·シャナが密着しているところを目にし、ミカにこれで良いのか訴えるが、それに娘の果南が答える。その後、始たちのスペースへ入り、仕事の事を話すが、始はエディのニューラリンクの事で前に居たアメリカ統合機動宇宙軍の事を聞く。
『カインの使者』第六部3章「カインとアベルの違い」
エディの作業の結果を見たアクエラは、エディに暫くこの作業に就くようお願いした。
「このエネルギー算出には数百人規模で対応している。暫くこの作業に就いてくれないか、エディ。」
アクエラの要請を聞いたエディはフフンッといった感じで手を腰に当て、顔を少し上に上げた。
「……勿論いいですよぉ〜っ(笑)、後、どのくらい変換しなければいけないんですか?」、とエディ。
「137億3千140万=1530א(アポストロフィ)……」、少しウンザリした顔でアクエラは答えた。
「あまり聞き慣れない単位ですね? もう少し分かりやすくお願いします、アクエラさん。」、エディが言うとアクエラはもう説明するのが面倒になって作業進捗を示すバーグラフのようなものを空間に浮かび上がらせた。
「これが現在の作業進捗を示すグラフだ。この横棒が光で満たされれば、この作業は完了する。」
エディはバーグラフのようなものを見たが、そこには薄い光、言い方を変えるとアミカケのように感じた。
「これ……、光ってる部分が無いけど…!?」、とエディ。
「無いけど、じゃなくて無いんだ。何回もやり直している。」、とアクエラは苦い表情を浮かべた。
「トライ&エラーで振り出しに戻ってるって事ですかっ!!」、驚くエディを横にアクエラは黙って頷いた。
(カインの科学って床から椅子や机を生えさせたり、乗り物は全然メカニカルじゃなくて、通信だって凄いと思ってたけど……、それは人間の感性とリンクする部分で機械的な情報処理が無いんだ!)、とエディは思った。
アクエラは、それじゃ頼むっ!と声を掛けるとElle·シャナに向き次のように言った。
「この作業が終われば、後は聖エルシアーナと風早果南にループストライカーに入って頂いて、ヒヒイロカネの力を果南の中に開放する、次に聖エルシアーナが果南を霊子に昇華させるんだ。我々のやっている作業は果南とヒヒイロカネに関わる……、計画核心の半分を担う。」
アクエラはここでフウーッと大きく息を吐くとElle·シャナに聞いた。
「Elle·シャナ、都市民脱出の方は間違いないだろうな?」
「問題ない、ミカは前のシミュレーションで約700人は運べる船に成れる。物理次元へ、だいたい10回の往復で脱出は完了する。」、とElle·シャナは答えた。だが、それを横で聴いていたエディはンッ?と違和感を覚えた。
(アレッ?……今なにかおかしな感じが…)、そう思ったがコンソールには作業のオーダーが上がって来ていたので、エディは再び注意を作業へ戻した。
(なにかの気のせいね……ウフフ)、と彼女は思った。
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数時間後、作業を終えたエディは作業の進捗を示すバーグラフを確認すると、アミカケのバーのところに、やっとハッキリとした光のバーが右に向かって伸びていた。それは作業全工程の六分の一くらいを示していた。
フウッ…と一息つき、アクエラに作業の進捗を報告する。全体作業を監督していたアクエラは、その進捗率を見て感嘆の声を上げる…
「凄いなっ! 全体を見回してもエディの作業進捗は突出してる。これを見る限り算出完了は、後16〜17ヨムというところか……、エディ、明日も頼む!」
「ラージャ!」、と返すエディに不思議な顔をするアクエラだった。それを見てエディは吹いた…
「承知しましたって意味ですよ……ウフフ。」
エネルギー合成センターを出たエディは志門たちの部屋の前に飛んだ。久し振りに詰めた仕事をした気分になった彼女は肩を回して凝りを解した後、壁を抜けて中に入る…
そこにはElle·シャナか居て志門に張り付いていた。志門も特に拒絶するふうでもなく仲良くしていた。また、隣にはミカと果南、志門の両親の来門と静香が護衛のリベカとサライたちと話をしていた。一体、どういう構図なのか…、と思いながらエディは近づいた。
「ただいまーっ、志門! Elle·シャナも来てたんだ。」
志門は片手を上げて、お帰り!と合図をすると、またElle·シャナと密着した。Elle·シャナはまるでクスリでもやってるかのように、瞳孔が消えたように見える青い目をトロンとさせていた。彼女の少し赤みがかった髪が志門の胸で広がり、薄い褐色の肌は熱を持って蒸気しているようだった。
「志門……、貴方ここに来てから増々エロティックになってない?」、とエディ。するとElle·シャナはダレた目を彼女に向けた。
「エロティック……、そんなものは関係ない。私は志門にこうやってもらっていると凄く安心で心地いいんだ。」、とElle·シャナは答えた。
エディはミカと果南の方を向くと、志門を差して言った。
「ミカさん、志門がアレでいいんですか? 彼はマーナという人とも子供を作ってるんですよ…」
ミカの横にいた果南がそれに答えた。
「いいんですよ、エディさん。今ある家族の形態は地上の社会に適合した一夫一婦制だけど、新しい世界では一夫多妻やその逆も許されます。誰が誰と一緒になって子供を作っても、絆以外の責任は有りません。その責任は今の地上のようにお金じゃなくて善意によって成されるものになります。作った子供を育てる為の過大な労働や、それに伴う規則は無くなります。……家族の形は変わるんです。」
エディは果南の言っている事が理解できず首を傾げたが、新しい世界の礎になる果南が言うのであれば…、と自分を納得させた。また、ミカも少し寂しそうではあったが、以前のような苛立ちはなく志門を許しているようにも思えた。
エディは仕切りを抜けて望美たちの居るスペースへ入った。望美が声を掛けた…
「エディ、お疲れ様。今日は長かったわね。何かやっていたの?」
「船の点検と……、クライシストのエネルギー合成センター?っていう所で少し仕事をして来たの。暫くはそこで作業をするみたい。」、そう言うと始が尋ねた。
「普通の人が此処でできる作業って有るの?」
エディは始の”普通の人“という言葉に少なからず憚りを感じた。始たちには自分が人工人である事は伏せた上で、自分の脳幹に艦船とリンクする為のニューラリンクシステムがある事を話した。
「私は元USSF艦船の機関操作員だったので船のSAIシステムとリンク出来るよう脳幹にニューラリンクシステムを施してあるんです。宇宙艦船の乗組員の殆どは、私より簡易だけどやってますよ。」
始は彼女に会った時に聞いていたが、USSF(アメリカ統合機動宇宙軍)の事を詳しく知らない始はどんな組織なのか尋ねた。
「対敵性異星人の組織です。アメリカを中心にして日本やイギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア等の同盟国で構成されています。国に依っては公表されていませんが基礎技術の開発は台湾戦争以前から始まっています…」、とエディ。
「エエッ、台湾戦争って有ったのっ!? 空自が度々スクランブルで出たのは聞いたけど……」、と驚く始と望美。始の横にいたネフェリーは時代を飛び越えていたので、フウ〜ンッという顔で聞いていた。
「日本は厳重な報道管制が敷いてあったんですね……、台湾本島と、その近海で戦闘が行われました。海上では戦術核や新型ドローンが使われたんです。……多分、志門のご両親は空自だから知ってるんじゃないかと…」
エディが言い掛けたところで望美が割って入り、話をもとに戻した。
「それはその辺で、……どんな仕事を任されたの?」
「なんか、新しい世界を創るためのエネルギー量の算出と、それに指向性を与える作業みたい。まぁ、私が頼まれたのはその計算なの。」、とエディは答えた。




