『カインの使者』第六部2章「ゲマトリア変換」
ロシアの超次元巡航艦アルテミシアがカインへ数度の空間接続を行う中、カインの技術部門、クライシストでは次元境界層破壊に必要なエネルギー量の算出と、その指向性を示すためゲマトリア変換が行われていた。アクエラはElle·シャナとエディを連れてクライシスト本部のエネルギー合成センターへ飛び、作業の様子を紹介する。それを見ていたエディはカインの作業方法に疑問を抱き、アクエラに作業のプロセスを聞き、実際に自分でやってみる。
『カインの使者』第六部2章「ゲマトリア変換」
アメリカ同盟とロシア連合との共同会談が終わった後、大きな会談は無かった。だが、ロシア連合側の超次元(霊子次元)巡航艦〈アルテミシア〉が特使たちを乗せ、頻繁に都市セイルに空間接続を行うようになった。
サンヘドリンの政務執行長官のエステルとカインに残った和泉は其れ等に対応する中、カインの技術部門のクライシストでは次元境界層破壊の為、精密な計算を休みなく行っていた。それはトライ&エラーを繰り返した。天文学的な数値と更に同様のパターンを確かめなければならなかったからだ。
ある日、アクエラはElle·シャナとエディを伴って都市内における霊子エネルギーの効果配列を検証していた。
エネルギー中心となる都市中央広場、カインでは公会堂と呼ばれる所は、以前、セイルが月から現在の次元の境界層へ飛ぶ際に始が持ち込んだ霊子物質、カインの剣の力を開放させるため始がネフェリーム·バリアントと儀式を行った場所だった。此処は都市内で、霊子エネルギーを最大効率で発生させる場所として、遥か昔、都市セイルが建造された時から知られていた。
計画のエネルギー中心になるループストライカー84号機はElle·シャナとエディの手によって既に設置が完了していた。
「霊子エネルギー源の都市内配置は概ね終わったようだな。Elle·シャナ、エディご苦労だった。」、とアクエラ。
「いや、配置だけなら大した苦労はなかったよ。後は都市民から集めたボディスーツのリングを決められた場所に設置するだけだから…」、Elle·シャナは操作パネルに映し出された配置図を見ながら返す。エディはパーソナルディバイスの格納室から出てアクエラにヒヒイロカネの状態を報告した。
「アクエラさん、ヒヒイロカネのエネルギーは安定している。放射拡散も誤差の範囲内……、ヒヒイロカネのエネルギー特性は逆放射です。私の他に波動の合う人が居るのですか?」、とエディ。
「風早果南がやる。彼女は霊子と物質両極性の波動を持っている。むしろヒヒイロカネの特性で良かったと思う。これが今までのカインの剣だと物理破壊方向の力が働きすぎるからな。」、とアクエラは答えた。Elle·シャナは次元境界層破壊に必要なエネルギー算出の事を聞いた。
「アクエラ、エネルギー算出の方はまだ終わらないのか?」
「簡単に言うなっ! ここは物質と霊子の次元境界層なんだ。今までのような完全同位空間内とは訳が違う。今までは霊子次元の中で同次元のエネルギー拡散だったから計算も簡単に出来た。ここは物質次元の要素も混ざっているんだ。
発生させる物理エネルギー量の数値算出と、それを霊子エネルギーと共鳴させるには物理エネルギーの実数値をゲマトリア変換しないといけない……、これが厄介なんだ。」
横で聞いていたエディはアクエラに尋ねた…
「ゲマトリア……、何ですか、それ?」、エディの質問にアクエラは視線を流した。エディは彼女の瞳の奥に冷たいものを感じた。
(なんか……、馬鹿にされてる?!)
「早い話がエネルギー自体に意味を持たせるって事だ。境界層破壊には物理エネルギー自体も霊子と同じ方向性を持たせなければならない…」、とアクエラは返した。エディは続けて質問する。
「算出ってどんな作業なんですか?」、エディが言うとアクエラは面倒くさそうな感じで、今から作業を行っている所へ連れて行ってやる!、そう言い二人を伴ってその場から消えた。
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三人が着いた所はクライシスト本部内の広大な部屋だった。そこには数え切れないほどのカインの成員たちが床から生えたコンソールに手を置き、空間に光で表示されている無数の記号と向き合い合っていた…
(まるで大昔の航空機の設計室みたいな雰囲気……)、とそれを見たエディは思った。
「ここはクライシスト本部のエネルギー合成センターだ。次元境界層の破壊計画が正式に認められた後で急いで作られた。」、アクエラが説明する中で、エディは作業を行っている者に近づいて覗き込み聞いてみた。
「どんな作業やってるんですか?」、エディの問い掛けに作業を行っている者は何も言わず、表情をキツくするとコンソールを手で叩いた。
バンッ!と音が聞こえ、次にエディの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「お前が気を散らすから間違ったじゃないかっ!! また最初からやり直しだっ! どうしてくれるんだっ!!」、そう言ってエディを突き押した。よろけたエディを受けるElle·シャナ。アクエラは、すまない、作業へ戻ってくれ…、と言うと二人を少し離れた所へ連れて行き説明した。
「一人当たり3000パターン近くのゲマトリア変換を行っている。途中で数値の入れ間違いがあると最初からやり直しなんだ…」、アクエラが言うとエディは先の事を謝った後、次にこう聞いた…
「カインにはコンピューターか量子計算機は無いんですか? この計算作業は機械では出来ないの?」、エディの問い掛けにアクエラとElle·シャナの頭の上に?(クエスチョンマーク)が立つ。
「コンピューター、計算機……何だ、それ?」、とアクエラ。
「高密度な計算を人間がやり続けるのは無理です。カインでは人間の感覚に負う部分が多い、霊子感応みたいな優れた部分が有るけど、私の見立てでは数字やデーターの統合解析は苦手のように思いました。」、とエディは元宇宙艦船の機関操作員らしく答えた。そして続けて言う…
「アクエラさん、作業の方法を教えてくれませんか、私の脳幹にはニューラリンクシステムが埋め込まれている……、これは単に機械と人間のインターフェースだけじゃなくて、私自身の脳を生体量子コンピューターとして使う事も出来るんです。私は艦とリンクした時にSAI(艦統合AI)とEFLOPS単位の情報対応も行っていました。」
「エクサ……、カインでは使わない単位だが相当量のデーターだのだな。……分かった、作業プロセスを教えよう。」
アクエラは作業員のいないコンソールを見つけると、そこへエディを連れて行き、アレコレと教えた。それを聴いていたエディは、そのプロセスを聞いて驚嘆した。なんと、彼等はバックアップを取っていなかったのだ!
「チョッと待って、アクエラさん! 何で段階的にデータ保存を行わないんですかっ!! 普通ならデータ保存レイヤーを何段階かに分けて作業を進めますよね! データーは何処に保存してたんです!?」
「作業を行っている者自身だ。作業の交代の時、交感器で前任者から作業データーを引き継ぐ。」、とアクエラは答えた。エディはElle·シャナに向くと、交感器の情報蓄積と劣化パターンを示すようお願いしたが、彼女にはエディの言っている事が理解できなかった。エディは思った……
(カインの交感器、クロスライザーは人間の意識を丸ごと伝えるには優れているけど情報処理や過去データーの蓄積部分はそのまま人間に依存しているんだっ!! これでは失敗が繰り返されてしまう、人間の記憶は時間毎に変化や劣化パターンが有る事をカインは知らないの…?)
エディはアクエラに教えられた通り、コンソール上で計算を行いつつニューラリンクシステムのメモリーにバックアップを残し、算出した実数値に対応する記号を空間に展開された光子モニターから拾い出した。更にそれをグループ化し、瞬時に10000パターンを超えるゲマトリア変換を行った。それは彼女が卓上で手を動かす間、1分も掛かっていない。
「凄いなっ、エディ!! これがアベルの科学かっ!」、と横に居たElle·シャナは大きな声を上げた。また、アクエラはそれに目を大きく見開いた。




