↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第六部 [ 次元境界層破壊編 ]
90/90

『カインの使者』第六部4章「ロシア連合視察団」

カインの都市、セイルの空間に艦首を突き出すように空間接続を行うロシア連合の超次元巡航艦アルテミシア。出て来たのは前任のルフシェンコではなく、ロシア連合防空宇宙軍関係者のアントノフだった。この無茶な行動に顔をしかめる和泉。その後、アントノフは特殊な車両で都市セイル内を視察するが……


『カインの使者』第六部4章「ロシア連合視察団」




第一回目のアメリカ同盟とロシア連合の共同会談の終わった後、ロシア連合は視察団を乗せた超次元巡航艦〈アルテミシア〉をカインに派遣した。


対応を行った和泉とエステルは前回のルフシェンコ特使が来るものと思っていたが今回は違った。巡航艦〈アルテミシア〉は〈あまてらす〉の時と違い、艦首先端を直接カインの空間に突っ込ませて来た。この光景に空間監視センターは一時混乱し、エステルは急遽、レギオン(装甲兵団)を〈アルテミシア〉の周辺に配置させた。様子を見ていた和泉はロシア連合の取った行動に憤りと疑問を感じた。


(この前、最初の会談が終わったばかりだ……、なのに何故こちらの空間に軍艦を突っ込ませてくるのだっ?! 国際儀礼上、有り得ない事だ。……これは何かある。)



そんな思いの中、霊子感応でエステルから声が有った。


”和泉、直ぐに現場へ飛んでくれっ、彼等が船から降りる!“



和泉は言われた通り、アルテミシアの艦首がカインの空間に入った所へ飛んだ。

現場で見るロシア連合のアルテミシア艦は巨大な艦首を突きだしている。空間接続面の艦体は空間に出た部分が白く輝いている。それはまるで家の中に車が突っ込んできた様な威圧と脅威を周囲に放っていた。


「エステルさん、これは注意した方が良い……、貴方も思っているだろうが、これは国際儀礼上有り得ない事です。私が先ず、貴方の前に立って彼等と話をしましょう。」


和泉がそう言うとエステルは顔を青くしたまま、頼むっ…と一言だけ言った。




暫くすると艦首底部が航空機のカーゴベイの様に開き、折り畳まれたデッキがセイルの地面を叩いた。ズシンッという音を響かせる。この様子を見ていた都市民たちはこの鉄の塊を観て、あまり気持ちの良いものではない、と思いながらも、その周囲に集まりだした。サンヘドリンの憲兵はそれらの者に対して仕事に戻るか自室に戻るよう霊子感応で呼び掛けた。大部分の者は散ったが、好奇心に支配された者は残った…



デッキの奥でスーツを来た政府関係者らしき者数名とそれを取り囲む武装した兵士が見えた。政府関係者は兵士二名を伴ってデッキを下ってくる。


(このアルテミシア、この構造から見ると戦略機動艦かっ!? この超次元で運用できる艦を既に建造していた、いや、カインとの戦闘を考えて造られたんだ!)、と和泉は思った。



政府関係者は和泉の前に来ると手を差し出した。その者は前回のルフシェンコ特使ではなかった…


「日本の特使の和泉副大臣ですね。後ろに居るのがカインのエステル政務執行長官。私はロシア連合視察団のアントノフです。」


「日本防衛省、副大臣の和泉です。」、そう言って和泉はアントノフが差し出した手を握った。続けて和泉は尋ねた。

「貴方の本国での役職は? ルフシェンコ氏は来ないのですか? 通常は任命された者が続けて仕事に当たる筈ですが…」


「彼は体調を崩しましてな……、こんな大事な機会に。全く役に立たん男です。私はロシア連合国防局、防空宇宙軍対外交渉部の者です。」


聞いた和泉は眉をひそめた。そしてアントノフの言葉を訝しんだ。

(同国の前任者をこうも愚弄するとは……、この背景には何か有りそうだな…)



アントノフは後ろに居たエステルに歩み寄った。そこで憲兵が彼等を制止し、交感器クロスライザーを取り出そうとしたが和泉は憲兵を遮ってそれを止めた。


「私はカインへ先に来ました。私が間に入ってカインに必要な事を伝えましょう。私は此処へ来てカインから色々な事を聞いていますし、彼らの慣習も理解しています。」


和泉の言葉にアントノフはジッと彼の目を見た。


「……よろしいでしょう、お願いします。和泉」


(交感器の事は伝わってないのか!? 恐らく次元境界層破壊のインパクトが強くて、交感器の事は見過ごされたか?)、と和泉は思った。



「アントノフ特使、カインとの会談を準備されていますか?」、和泉の問いに彼は首を横に振る。


「前任のルフシェンコから重要な事柄は聞いています。我々は視察団です。カイン側が許す範囲で視察を許可して頂きたい。」

「分かりました、カインの責任者に伝えるので待っていてください。」


和泉は踵を返すとエステルに近づいて視察団の意向を伝えた。和泉は交感器の翻訳機能を使って、カインの言葉でエステルに伝えた。

和泉とエステルの会話は交感器を埋め込まれなかった視察団の者は何を喋っているのか分からなかった。


「視察は許可する。但し、都市民との接触と都市建造物に触ったり、その一部を採取するのはダメだ!」

「分かりました、そのように伝えます。」



和泉は視察団の方へ行き、カインの意向を伝えた。


アントノフはウムッと頷くとデッキ奥の兵士に人差し指をグルグル回して何かの合図をした。すると、艦内から小型の LCAC(Landing Craft Air Cushion:エア・クッション型揚陸艇)のようなものがデッキを下ってきた。それはけたたましい轟音を響かせるわけでもなく、代わりにブウゥーンッ…と低い変圧器に似た音を発している…、それは地面から僅かに浮いていた。



(これは反動推進(重力偏向装置の一種)か……)、と和泉は思った。


黒色のそれはサイドのハッチを開放させた。アントノフは、では……という感じで和泉とエステルに片手を上げ中に乗り込んだ。その乗り物は滑るようにその場を離れ、都市の開放通路の奥に遠ざかって行く…


和泉は兵士に現場から動かないように注意すると、カイン側の憲兵数人を残し、エステルと共に空間監視センターへ飛んだ。




  *******************




センターへ戻った和泉は視察団についてエステルと話したが彼の顔は暗かった。


「エステルさん、これは良くない事だ。私は彼等の宇宙艦がこちらの空間へ乗り入れたのを見て疑問を抱いたし、責任者は前のルフシェンコ氏じゃなかった……、だから私は彼らに対して霊子交感器を渡すのを止めたのですよ。それと彼等は軍関係者です。多分、セイルの都市配置と測量を精密に行う筈です……、聖エルシアーナは許されているのですか?」


「聖エルシアーナはアメリカ同盟を最初に受け入れたのと同様に受け入れよ、と言っている。心配しなくても良い、和泉。」、エステルはそう言ったが、和泉の気持ちは釈然としなかった。


都市内を映すモニターは彼等の乗物を追っていたが、途中で見えなくなる。監視員は霊子走査に切り替えると再びその位置が明らかになる。和泉の目には、それが量子ステルスと直ぐに分かった。


「これは挑発だっ!! これは視察ではないっ! 彼等はこの空間で戦闘に必要な情報の収集とカインの反応を見ているっ!」、和泉は視察団の行動を非難した。対し、エステルは落ち着いてこう返した。


「和泉、落ち着けっ! 彼等がどう動こうと我々は対処できる。この空間でもし、良くない行動を取れば何らかの変化が現れるはずだ。此処には聖エルシアーナと風早果南が居る。」、アクエラの言葉に和泉は彼女に近づこうとしたその時、監視員から声が有った。


「ロシア連合視察団の乗物が引き返します、船に戻るようです!」


和泉はエステルの手を掴むと、一緒に来てくださいっ!と言い、空間の接続点へ飛んだ。





和泉らが現場に現れると視察団の乗物が丁度、帰って来たところだった。アントノフが中から出て、デッキ入口の兵士に手を振り収容を指示した。和泉とエステルに気が付いた彼は近づき手を差し出す…


「今回は早い視察で終わってしまった。船の調子が良くないらしい、それと乗ってた車両もだ………この空間は私達には合わないようだ。……和泉さん、エステル政務執行長官、今回はありがとうございました。ロシア連合はカインとの国交を望んでいます、我々はまた来ます。」、アントノフはそう言うと兵士に撤収を呼び掛け、デッキの奥へ消えた。


彼との別れ際に和泉は彼の様子がおかしな事に気が付いていた。此処へ来た時と打って変わって調子が悪そうな顔色だったからだ。それは、ここで今、何かが起きたような感じだ。そして更に彼が背を向けた時、シャツの襟から見える首筋に黒い筋が幾つも見えた。



アルテミシアがデッキを格納し、カーゴベイが閉じられると艦は空間接続面の奥に後退し、見えなくなると次に接続面も薄く消えていった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。