『カインの使者』第五部終章「カインに残った和泉と聖エルシアーナ」
会談に臨んだ和泉は物質と霊子の境界層破壊に伴う事象を明らかにする。それは意識の物質化による再生と死者の復活だった。アメリカ代表団のS·クラウディアに、新しい世界創造のカギになる風早志門の娘、果南の事を話す。それは夫の復活を望む彼女にとって死の宣告のようにも聞こえた。また、対敵性異星人の事も語った。
すべての説明が終わり、引き揚げる代表団と共に去ろうとする和泉は、エステルに引き留められ、聖エルシアーナと風早果南と会見する。
『カインの使者』第五部終章「カインに残った和泉と聖エルシアーナ」
和泉はクラウディアに言った。
「その心配は有りませんよ、補佐官。歯止めは有ります、………その世界を開く、いや、創る者の意思と生命 がその歯止めです。」
「意思と生命、……犠牲っ!? 」、と彼女は驚いた。
「言われる通り、犠牲です…… 特定の一人が、死んだ後、二度と人の形で現れる事がない……」
クラウディアは身を乗り出すように和泉に尋ねた。
「現れる事がないっ、……どういう事!? 」
和泉は俯き目を閉じる……、それは娘を失う志門とミカに対して自身の憚りでもあった。
「この者は世界と一体化し、方向性を維持し続けるのです、……新しく創り出される世界では人の思いが物質化します。これはどういう事かっ、……貴方の思いの中で亡くなった大切に思っている人が居るなら、その人は復活する事になります。」
「エッ、……それは本当なのっ!! 」、とクラウディア。この時、彼女は三年前に亡くなった夫、ジムの事を思った。
「まだ物証は有りませんが理論上、確かです。……それと、軍事転用の事ですが、もし悪意やそういった目的が有れば、目に見える形で自身とその外に顕在化し、人は自らの悍ましさに耐えられないでしょう。 ………少し長い話になりましたが、これでムーンショット計画は予想を超える完全な形で完結するのです。」
「……一つ聞いていいかしら、その世界の人柱は誰なの?」
和泉 は目を細め、厳しい表情を浮かべて彼女を睨んだ。
「……知りたいですか、補佐官。」
「私には大切な人が居たの、……だから …」、とクラウディアは言う。
和泉は、今こそ聞けっ!と言わんばかりに深いトーンで発した。
「貴方はよく知っている筈です、……風早志門、その娘が犠牲になる……全ての人の為にっ!」
クラウディアは雷に撃たれたような衝撃を覚えた。さっきまで軽くあしらっていた風早志門の娘が自分の大切な夫の復活のカギだったのだ。 この時、彼女はもし、志門に自分が否定されたら…、と恐怖した。その気持ちは希望と絶望を分ける薄い板の上に立っている感じだった。
「!!………」、クラウディアは声が出ない。
「和泉副大臣、今世界の 喫緊の課題である対敵性異星人に付いてはどうだね?」、とルフシェンコは尋ねた。
和泉は彼の方に向き直り、次のように答えた。
「それも纏めて解決出来ます。敵性異星人は高次元意識体です。彼らの意識は物質として固定され、高次元技術を駆使したUFOも、まともに機能しなくなるでしょう 。」
「Отлично, это замечательное предложение!!(素晴らしいっ、これはとても良い提案だっ!!)」、とルフシェンコ。
エバンスは彼の方を向いて慎重になるよう促す…
「ルフシェンコ特使、 貴方は自分の命が危険に晒されると思わないのかっ?アメリカもロシアも多くの産業を抱えている、エネルギー構造の転換は容易ではないっ……、大昔のニコラ・テスラのような悲劇を自身に招きたいかっ!」
ルフシェンコは黙ったが次にこう言う。
「………私は特使として、この会談の内容を本国へ持ち帰るだけだ… 」
彼が言った後、暫く沈黙が続いた。
エステルがカツッカツッと足音を響かせ、自分の席の所へ戻り振り返ると彼等に言った。
「もう、十分だろうっ、……会談は終わりだ。引き揚げろ、後はお前ら次第だ。」
エバンスは腰を上げ、クラウディア以下、他の者に向いて浅く頷く。彼の顔に表情はない…、また、ロシア連合側のルフシェンコも手を上げ撤収を促した。アメリカ側はエステルに何も喋らなかったが、ルフシェンコは儀礼上の握手は求めてきた。
和泉はエステルに握手をして彼等と共に去ろうとしたが、エステルは和泉の手を掴み離さなかった。
「私も自分のやる事は終わった。帰らなければ…」、と和泉。対して彼女は次のように言った。
「お前は此処へ残れ。自分の国の者を置き去りにするなっ!」
二人がそう言っている間に憲兵たちは代表団を連れて部屋から消えた。それを見た和泉は、アアッ…と諦めにも似た声を上げた。
「アベルとの交渉はまだ終わらない……、和泉には協力してもらう!」、とエステル。
◆
代表団を乗せた〈あまてらす〉がカインを離れた後、和泉はエステルと共に初めて最高評議会へ飛んだ。
そこでは評議会議長のエルメラとカインの首長に置かれた聖エルシアーナ、そして新しい世界の礎となる風早果南が彼を待っていた。彼がエステルと共に議長室へ現れた時、ほぼ同時にクライシスト責任者のアクエラも現れた…、気が付いたエステルは彼女に尋ねる。
「アクエラ、どこへ行っていたのだっ!! ……この大事な時に。」、とエステルは彼女を詰めた。アクエラは申し訳なさそうな表情で、すみません…、と一言だけ。和泉は彼女に近づき手を差し出した。
「ありがとう、アクエラさん。此度の会談で貴方の情報には助けられました。」、と和泉。彼の態度にアクエラは既に対応を拒否出来なかった。ここへ来る前に志門たちの部屋で志門の両親、来門や静香、始や他の者と話し合った結果、自分の思いを新たにしなければ……、そう思っていたからだ。
「和泉…、先の無礼は悪かった。私は”アベル“のレッテルでお前を見ていた。次からは心を見るようにする…」、そう言ってアクエラは彼の差し出した手を握った。和泉はニッコリとした表情を浮かべた…
「皆、席に座りなさい。」、と議長のエルメラは和泉らを手招きした。三人が腰を下ろし、落ち着いたところで彼女は和泉に聖エルシアーナと世界の礎となる風早果南を紹介した。
エルメラが指した方にはカインの成員らしい二人が立っていた。
一人は背が高く瞳は碧玉、髪は肩口までなだらかなカールが掛かったダークシルバー、もう一人は前者より確かに若く、背丈は普通で瞳は深い紫色で髪は背中中央まで伸び、水銀のような輝きを放っていた。
「そちらが境界層破壊計画の主体者となる聖エルシアーナと新しい世界の礎となる風早果南です。和泉副大臣は初めての会見ですね。」、とエルメラ。和泉は軽くお辞儀をして聖エルシアーナに近づいたが従者のロタとイズハヤが彼を制止した。
「それ以上近づいてはいけない! 聖エルシアーナはヤーワァ、神の魂です。」、とロタ。和泉は?な顔をした。
「ヤーワァ、神?」、と彼は訝しがったので聖エルシアーナは自身の事を説明した。
「貴方が見ている私は依代なのです。”依代“という言葉は貴方の国ではよく知られているでしょう。」、聖エルシアーナの説明に和泉は直ぐに神道で言うところの依代を連想し、それは説明と合致していた。
(神の依代だったのか……、地上では神札や鏡、紙を綴らに折った物がそうだが、この人は生きた人間だ! ……確かに其れ等のものは安易に触れてよい物ではないな。)、と和泉は思った。
「失礼しました。私は地上の日本国の特使、和泉と申します。カインには我が国の国民がお世話になっています。」、そう言って彼は頭を垂れた。
「お礼はカインのエルメラ議長へ言って下さい。私は両方に祀られる魂なのだから……。時に和泉さん、貴方は私の計画に賛同して頂けますか?」、と聖エルシアーナは言う。しかし、和泉はその質問の意味が分からなかった。
(頂けますか……、何故? この人は神なのに…)
和泉の心を観た聖エルシアーナは次の事を告げた。
「新しい世界の創造には、貴方の国民の一人が必要なのです。その事はエルメラ議長から聞いてますよね。」、これを聞いた和泉はアッ…!!と気が付いた。
本編はSFミリタリーアクション『USSF機動空母リベレーター戦記』【Ep:88】とリンクしています。両方の物語が織り成す結末に期待して下さい。




