『カインの使者』第五部19章「霊子感応と意識の同期」
和泉は代表団を前に直ぐに話をせず、その前にエステルに物質と霊子の境界層破壊について詳しい情報を霊子感応で伝えて欲しいとお願いする。エステルはクライシスト責任者のアクエラと意識を同期させ、更に和泉とリンクすると情報を共有した。それは単に情報の伝達ではなく完全な理解を伴っていた。
アメリカ同盟とロシア連合の代表団に対し、和泉はカインの物質と霊子の境界層破壊計画の説明を始める…
『カインの使者』第五部19章「霊子感応と意識の同期」
この時、和泉は直ぐに話を切り出さず、エステルの方を向いて霊子感応で彼女に呼びかけた。
”ここから先は私が対応します。だが、私はカインの物質と霊子の境界層破壊の事は概略でしか聞いていない。私が必要と思う情報を私の頭の中に送って下さい、宜しく頼みます。“
”承知した。“
エステルは霊子感応でアクエラとリンクすると、ひどく落ち込んでいる気持ちがダイレクトに伝わって来た。
(あいつ何やってるんだ?……まったく。)、そう思いながらエステルはアクエラの意識と同期した。かなり深い感応でアクエラもエステルに気が付く。
”エステル長官っ?!“
”暫く同期させてくれ、計画の細かい情報が必要になるかも知れん…“
和泉は再び代表団へ向くと話しかけた…
「……では、お話しします。その前に日本政府がなぜ私をカインへ派遣したのか、について話さなければなりません。我が国政府の最終目標であるムーンショット計画に付いては一般にも公開しているので、両国の政府の方も当然ご存知だと承知しています。この計画は1950年代のアメリカ政府が月面着陸を目指したアポロ計画と同じように、[ 前例のない困難だが達成すれば社会に大きなインパクトを与える、壮大な目標 ] を掲げ、日本発の破壊的イノベーション創出を目指す内閣府主導の研究開発プログラムで2020年に起案、それに向かい政府は経済学術界と連携して計画を進めてきました。」
対し、エバンス はフムッという感じで頷いた。
「それは知っている、特にエネルギー分野では核融合炉の開発で世界技術の基礎を作ったな……他はなんだったかな?」
「確か、……代表的な目標は2050年までに、人が身体・脳・空間・時間の制約から解放される社会の実現、だったと思うが。」、とルフシェンコは補足した。
和泉はありがとうございます…っと言う感じで片手を浅く上げた。
「ルフシェンコ特使の言われる通り、他のイノベーションはそこに集約されます。だが、現実はどうですか、……技術的イノベーションはかなり進んだにしても、その目標には遠く及ばないのが現状です。半ば計画は忘れられようとしていた……、そんな時、政府にカインの情報がもたらされました。情報の提供はロシアからでした。」
エバンスは情報の事でロシアの名前が出ると厳しい顔をした。
「なんだってっ!? 日本政府は我々を信用していないのかっ!!」
ルフシェンコはエバンスの言葉にフッと口元を緩ませ次のように言った。
「アメリカは重要な情報は絶対に外に出さない……ロシアは先を見据えている。カインの情報は日本人にも関係している、日本ならカインとの接触に成功する、と思ったからだ。……エバンス副大統領、これが今の時代なのだよ。」
「グヌヌゥ……」、エバンスは顔を紅潮させ、額に青筋を立てた。
「まあ、ロシアもですが、プレアデスの情報に負うところは大きかったと思います。………政府は防衛省に対して、超次元を巡航できる艦の開発を 急がせました。それが〈あまてらす〉級です。開発の経過で、カインの居る空間との接続が可能な事が分かりました。……もっとも、〈あまてらす〉がUSSFリベレーターの動力として持って行かれるとは思いませんでしたがね……」、そう言って和泉は得られた情報がロシアからだけではない事を補足強調する。
和泉はここで、自分がカインへ来た経緯を説明した。
「その後、SCV-01リベレーターの土星宙域の戦闘とカインの介入、そして介入して来たカインの者が、日本の日立宇宙工廠で収監されていたカインのミカ·エルカナンと日本人の風早志門である事、また、〈あまてらす〉の艦長、五十鈴摩利香一等宙佐が彼等を意図的に工廠から脱出させた事が統合機動宇宙軍作戦司令部の山元 葵一等宙将を通じて政府に知らされました。……この件で私は、政府からリベレーターの居るアリゾナのアンダーソン基地へ向かうよう言われました。 本来なら〈あまてらす〉を管轄する作戦司令部の山元一等宙将が赴く予定でしたが、この件については軍総本部ペンタゴンから日本政府に働き掛けが有り、防衛省副大臣の私が行くことになった訳です。五十鈴宙佐の件が片付いた後、私は〈あまてらす〉のカインとの空間接続が成功したら、カインと接触するように、と指示を受けていました。」
(ペンタゴンからっ!?……マッカーシー将軍めっ!!)、とエバンスは自国の身内が絡んでいた事に歯軋りした。
「我が国を差し置いて勝手な事をっ………日本の目的は何だっ!?」、とエバンス。
「日本人、風早志門とその家族の保護、それと並行してカインとの融和を深める事が目的です。………確かに、私はカインと融和を深めました。がっ、それ以上のものを私は知った訳です…… 」、と和泉。
エステルが和泉に近づき彼の肩に両手を置き、顔を寄せて小声で言った。
「和泉、……… その先を、……コイツらに話すのか?」
「エステル、…さん。今、話さなければアベル(地上人)もカインも終わる…」
”エステルさん、境界層破壊計画の細かな情報をお願いします“、と和泉はエステルへ送った。
”承知した、アクエラの情報層意識の同期をそちらとリンクする、必要な情報はお前の意識に浮かび上がる…“
エステルの感応に和泉はンッ、と頷いた。
「………エバンス副大統領、そしてルフシェンコ特使、両国はカインが前の世界を破壊して、現在の世界を創った事はご存知でしょう。この技術を用いれば、日本は 政府が掲げてきたムーンショット計画を完全な形で成功させる事が出来ます。そして、その恩恵は日本に留まらず、全世界の人が享受出来るのです。」
「フムッ、……詳しく話してくれないか、和泉副大臣。」、とルフシェンコ。エバンスは厳しい顔をしながらも頷いた。
「聞こうではないか。」
和泉はエステルとの意識同期を強め、情報を取り出しながらエバンスとルフシェンコに説明した。
「我々が居る、この超次元空間は、この次元のまだ浅い所 です、………そうですね、例えで言えば地球の成層圏です。大気と真空の境目とも言えます。此処は物理次元と超次元、……カインの言葉で言えば“霊子”の次元の境界層に当たる訳です。カインの技術でこの境界層を破壊します………」
「何が起きるのだっ、まさか前のように世界を破壊して、一からやり直そうと言うのかっ!?」、とエバンス。
ルフシェンコ は腕を組んだ。
「……ウゥーム ッ、一体どうなる?」
和泉は頭の中で湧くように出て来る情報を観ながら説明を続けた。それは和泉にとって知らない情報のはずだが完全に理解していた。
(単に情報の伝達じゃないっ!! これが霊子を使った意識同期なのかっ! これは完全な共有だっ!!)、と内心、和泉は驚いた。
「この超次元は物理次元、…三次元を含む汎ゆる次元を 包括、根底から支えている源の次元です。物理次元では物質と、この次元の霊子、正確には命令子と呼ばれるそれの割合は潜在的には100%ですが発動率は僅か0.000000001%も有りません。]
ルフシェンコは難しい顔をした。
「和泉副大臣、私の専攻は社会法学なのでもっと分かりやすく言って欲しい。」
「私もだ、Mr.和泉、端的に言ってくれないか。」、とエバンス。
「分かりました。現在の命令子の発動率では、何かの結果を出すために物理的労働を強いられる訳ですが、この命令子が全て発動した場合………」
この時、周りの者が“ゴクッ”と息を呑む音が聴こえた。
「思考が物質化します。次元の構造そのものが変わるのですっ‼ 」、と和泉は答えた。
”ガッ“と革靴の底が床を蹴る音と”ザッ“と立ち上がる音がした。
「My God! This story is crazy!! (なんて事だ!この話はヤバい!)」、と叫ぶエバンス。
ルフシェンコに至っては声さえ無かった。
和泉は更に説明を補足した。
「人は自分の思うところの物を必要な分、必要な時に取り出せる事になります。人間の脳と命令子が直結する、…この状態は高密度の命令子の中に物質が漂っている感じです。全ての物理機器は要りません。車、航空機、宇宙船、通信機器さえ不要です。」
”バンッ“
ルフシェンコは両手をテーブルに突いた。
「驚くべき事象だっ!! この話には価値が有るっ、エバンス副大統領、そう思わないかっ!? 」
「ン゙ンンンンーン………」、と唸るエバンス。
ここでクラウディアが初めて言葉を挟んだ。
「これではやりたい放題じゃないですかっ!! 歯止めが無いと軍事利用されてしまうっ!!」
本編の内容はSFミリタリーアクション『USSF機動空母リベレーター戦記』【Ep:88】「カイン会談の驚愕の真実」とリンクしています。カインと対峙するアベル(地上勢力)側の真実を描いています。是非、観てください!




