『カインの使者』第五部18章「ミカの悲しみとエディの怒り」
会談に望んだ志門はアメリカ政府のクラウディアの威圧的な態度に萎縮してしまう。また、ミカは地上の争いがなければ家族で平和に過ごせたのに…と悲しみを露わにする。ミカの娘、果南の犠牲を知っていたエディは代表団に向かい、激しく地上の戦争を非難する。
エステルは代表団に戦争を止めるつもりが有るのか問うが、逆にアメリカ政府の副大統領エバンスに狡猾な脅しを受ける。状況を見計らっていた和泉は会見の場へ姿をあらわし、アメリカ、ロシアの代表団に提案を持ち掛ける…
『カインの使者』第五部18章「ミカの悲しみとエディの怒り」
エステルの問い掛けに代表団の一人が立った。前回、カインを訪れたアメリカ政府のS·クラウディアだった。
「アメリカ政府の置かれている状況、敵性異星人の脅威はロシア連合でも同じです。その為、我々アメリカ政府は急ぎロシア連合と連絡を取り、両連合の大使を立てました。」、とクラウディア。横に居たアメリカ政府の高官が言った。
「 私は大統領の命を受けて此処に来た……、私は副大統領のエバンスです。私は大統領から全権を託されています。 」、と政府の高官で副大統領のエバンスはエステルに答えた。
エステルを通してこの状況を見ていた和泉は次のように考える…
”副大統領っ!? 二度目の渡航で政府の中心に近い者が来たとなるとやはり……戦闘の現場は押されている“
和泉の思考は霊子感応で直接エステルに届いていた…
エステルはフゥーンッ、といった感じで聞くと、更に横に居た者に尋ねた。
「で、そっちは? …」、と彼女が言うとアメリカ政府とはやや雰囲気の違った者が腰を上げた。
「先ず、こうしてお会い出来た事に感謝を申し上げたい。私はロシア連合大統領から大使を委任されたルフシェンコです。先にアメリカ政府の代表が言ったように、我々も国から全権を託されて此処に来ました… 」、と彼は挨拶した。
エステルはこれら代表団の感情を交感器で観ていた。表面的には平静を装っているが、アメリカ、ロシアともお互いを牽制し合っているのを感じた。
「其々の代表が並んだだけか、………これでよく窓口を一つにした、と言えたものだなっ!困っているから取り敢えず妥協したんじゃないかっ。 ……志門、お前は何か言うことはないか、お前が創った世界だ、…」、エステルが冷たく響く声で言う。
志門はこれら政府の高官を前に彼の気持ちは一種の威圧を感じていた。
(この人達を説得するのは無理だ…)、と半ば諦めに似た思いが彼の気持ちを支配する。
「あのぅ、………クラウディアお姉さん、もう、やめない、戦争…… 」、志門はそう言うのが精一杯だった。
クラウディアは志門の方を向くとフンッと短く息を吐いた。
「久しぶりね、風早志門。今の言葉、我が国が一方的に戦争しているって感じ、気に入らないわね、坊や、… 」、とクラウディアは志門に容赦なく突っ込んで来た。この態度に彼は嫌悪感を覚えた。なまじ容姿が良いだけに中身のゴミっぷりに彼の脳はバグを起こした。
「いや、だから坊やじゃないんだけど、……結婚して子供も居るし… 」、と志門。
この様子を見ていた和泉もクラウディアに対して同様の嫌悪感を持った。
”日米同盟があるとは言え、我が国の国民を尋問して記憶を奪った者が、こうも高圧的な態度を取るか…“
”和泉、こいつらはゴミだっ!!“、とエステルからも伝わって来た。
ここでロシア連合の特使であるルフシェンコが割って入った。
「この場で言いたくはないがハッキリさせておくために敢えて言おうか、……我々ロシア連合はアメリカ政府が仕組んだ戦争に踊らされただけだっ!我が国は自国の主権を守る為に戦ってきたのだっ!! 」
既に彼等の仲違いを見抜いていたエステルはミカとエディに何か言う事はないか聞いた…
「 ………ミカ、それとエディ、お前たちはコイツらに何か言うことはないか 」、と少し呆れたような声でエステルは言う。
ミカは俯き、両腕を膝に突いた状態で肩をブルブルと震わせ、言葉を詰まらせながら吐露した。
「………こんな事が無ければ私は志門と、……果南と一緒に楽しく暮らせたのに……… ウゥゥ…ウワァ…、ウワアァァ…ァァァ…」、ついには嗚咽を漏らし、零れた涙は膝に突いた手の甲を濡らす。
和泉はこの時、初めてミカを認識した。情報では確認していたが志門の妻と娘とは直接会っていなかったからだ。娘の人柱の件を聞いていた和泉はミカとの感応に激しく心を痛めた。また同時に、人の気持ちにカインも地上人も関係ない事を強く再認識した…
悲しむミカの肩に手を掛け、寄り添うエディは代表団に向かって顔を上げ叫んだ。
「ミカさん………、貴方たちっ‼、アメリカもロシアもどれだけ人を不幸にしたら気が済むのっ! 戦争に自由と平和も主権も無いっ!これから亡くなる者の命を返せっ!! 今、戦争を終わらせなければ亡くなる者は二度と生き返らないっ!」、とエディの激怒の声が室内に反響した。
暫くの間、沈黙が漂った……
「戦争を………止めるつもりが有るのか? 」、とエステルは特使たちに聞いた。だが、特使たちは答えなかった…、彼等代表団は社会構造上、戦争を止めれば次に経済がどうなるか知っていた。
心の中を観ていたエステルは冷ややかな目で彼等に言った。
「なるほどな、………止めれるかどうか、迷っていて答えが出せないのだな。来たときに、お前たちの額に埋め込んだクロスライザー(交感器)がそう伝えている。アベルの遅れた社会では武器を放棄 出来ない、と言う事だな………哀れだ。」
”パンッ“
誰かが膝を打つ音が聞こえた。
「エステル政務執行長官、我々は既に此処に居るのだよ。」、と副大統領のエバンスは言った。
「何が言いたい? 」、とエステル。
「我々はカインと空間接続を果たした。既にその技術は確立している。 ストレートに言うっ、カインは開国しなければならないっ! 」、とエバンス。これを聞いたロシア連合のルフシェンコは手で頭を押さえた。
「アメリカ人の頭はアップデートしないのか…終わりだ。」、とルフシェンコ。
エステルは眉間に皺を寄せた。
「それは力で開かせるという意味かっ! 」
「そんな事は言っていない。我々はいつでも来れるっ、という意味だ。 これは広範な意味で受け取ってもらいたい。」、とエバンスはニヤリとして返した。
エバンスの狡猾な脅しがエステルに伝わる…
エステルは目を細め、やや青い顔は更に青くなった。そして唇を震わした。それは周りの者の目にも明らかだった。
エステルと感応していた和泉は、彼女がこれ以上対応は出来ない、いや、させてはならないと判断した。政治の狡猾さは彼自身が知っている。カインは科学技術が発達していても地上の政治の狡猾さでは人間が全く追いついていない。
和泉はネクタイを締め直すと自室から会見の場へ飛び、会見のテーブルから離れた所に現れた。そして代表団に声を発した…
和泉はツカツカと彼等に歩み寄った。
「エバンス副大統領、アメリカは相変わらずパワー外交ですね。」
「貴方はっ、……Mr.和泉!! 」、とエバンスの隣に居たクラウディアは驚きの声を上げた。
「いやぁーっ、この前は事故で迷子になっちゃってw ……こっちの方に助けてもらったんですよぉーっ!」、と笑いながら彼は更に続けて言った。
「アメリカとロシア、そしてカインもお困りのようだ、…… 私は良い提案を持っています、これは此処に居る者にとってメリットしか有りません。私を日本政府の代表者として、この話を聞いて頂けますか?」、と和泉。ロシア連合のルフシェンコは頷いた。
「ウムッ…こういう時、第三国の仲介は必要だ。聞こうじゃないか、アメリカ政府はどうか?」
「ヴゥ、…日本政府の正式なコメントとして認めないが、………一応、聞こうか。」、とエバンスは言った。
「さすがは政府の首脳、そう来なくてはっ!」、と和泉は表情を崩す。
本編はSFミリタリーアクション『USSF機動空母リベレーター戦記』【Ep:79】「首脳会談の盗聴」とリンクしています。本編の裏側の動きも是非、観てください。




