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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第五部[ アベル接触編 ]
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『カインの使者』第五部17章「共同会見へ」

望美の言葉に失望と落胆を隠せないイズハヤ。彼の本当の姿は船で、それが自身の姿と働きだと言う。聞いていたエディは自身が人工人である事を重ね、自分と兄、レナートの事を思う。

一方、カインの時間経過に慣れない和泉は、この空間の時間特性について考える。そんな中、エステルから地上の船の接近が知らされ、彼は空間監視センターへ飛ぶが、そこにはアクエラが居て、彼に気がつくと徐ろに嫌な顔をした。エステルから怒鳴られてセンターから逃げ出した彼女は志門の部屋を訪ねるが、志門は会談に同席を要請され、部屋を出るところだった。何故、志門が出なければいけないのか、そう聞いたアクエラに志門は自分が世界を創った中心者で娘を助けたいのと、カインと地上の人たちの平和を望んでいる事を話す。それを聞いたアクエラは自身の現在の行動とアベルに対する偏見に気が付く…

カインとアメリカ同盟、ロシア連合との共同会見が志門たちを交えて始まる。


『カインの使者』第五部17章「共同会見へ」




エディの言葉に望美は凹む…


「ごっ、ごめん……、イズハヤは古墳時代のイメージが強かったから、つい…」


「この形で固定されてしまったから元に戻れないんだ。昔の姿も、その時代の人間に合わせる為で自分の本当の姿は船の形なのだ。……私はもし、…生まれ変われるなら船に戻りたい。それが本来の自分の姿と働きなのだから。」、そう言ってイズハヤは暗い顔をした。



イズハヤの言葉を聞いたエディは自身の生まれと兄、レナートの事を思う…


(姿と働き……。私も人工人、私が出来る事、私がやらなければならない事は……レナート、兄さん…)




       ◆




「どのくらい経っただろうか……」、和泉は慣れないカインの時間の中で過ごしていた。彼が持っている特注の原子発振子腕時計の刻む時間は正確だったが、異相空間に在るカインの都市、セイルの時間と地上の時間の流れが同じなのか和泉は訝しがった。また、この空間で意識の物質化が随所で発生消滅を繰り返している事を考えると、時間の概念そのものを疑わなければならない。



(熱力学やエントロピー増大の法則は此処では当てはまらない……、よくこの空間にカインは留まって居られるものだな。……だが、新しい世界では地上でもこんな事が起きる。古い考え方を変えるのは容易じゃないが私も変わらないと…)



そんな事を思っていた時、霊子感応でエステルから呼び出しがあった。


”和泉、アベルの船が来たっ!! 空間監視センターまで飛んでくれっ!“



和泉は立ち上がると空間監視センターをイメージし、瞬時にセンター内に現れた。彼は先ず、時間を尋ねた。


「エステルさん、私が此処へ来てからどのくらい経つ?!」、和泉の質問にエステルは何故、今ここでっ?……と思ったがとにかく答えた。


「ちょっと待ってくれ、……大体、30ヨムくらいか。」

「ヨム?」、と頭を捻る和泉。

「地上の言い方では一日の単位だ!」、とエステルは返す。



(30日か……、自分が此処へ来たのはクリスマス後の年末、それから……!! 統合機動宇宙軍の打撃群艦隊は進宙して敵性異星人と交戦を行っているっ! その最中と言う事は……、ヴヴーンッ、これは状況が良くない。)



和泉は顔を上げてエステルに問うた。


「船は〈あまてらす〉ですか!? 」、彼の問いにエステルは監視員に船の種別を尋ねた。


監視用のベッドでバイザーを着け、身を横たえていたのはアクエラだった。波動に注意している彼女は和泉に気が付かない…


「前に空間接続したやつです。」、とアクエラ。和泉は船内の様子を尋ねた。

「船に何人乗っているか分かりませんか?」、この時、和泉の言葉でアクエラは彼がセンターに来ているのに気が付き、徐ろに嫌な顔をする…、それに気が付いたエステルは何をやっているっ!、という感じでアクエラをベッドから降ろし、代わって和泉を横にならせてバイザーをセットした。ベッド脇から霊子金属の配線が生き物のように彼に接続した。


「すまない、和泉…」、そう言うとエステルはアクエラを睨んで告げた。彼女の目は据わっていた。


「こんな時にっ!!」、と怒鳴った。直ぐに和泉の方を向きシステムの説明をした。


「すまない、今から走査エネルギーレベルを上げる……、船の波動を細かく分ける。それで船の中身が頭の中でイメージ出来る筈だ。」



和泉の頭の中で波動はイメージに変換され、確かな形となって映し出された。それはまるで目で見るような明瞭さだった。思わず声を上げる和泉…


「これは凄いっ!! 船の中が透けて確認できるっ! 搭乗人員は……、約10人近く、パイロットの五十鈴宙佐とランドー艦長も一緒か!? 残りの者が交渉団かっ! 間違いない…、ロシア連合も来ている!……エステルさん、もういいよ、バイザーを外してくれ。」


エステルが泉をベッドから下ろすと、他に監視に当たっていたElle·シャナが代わりに着いた。気まずくなったアクエラはセンター内から消えた。



「セイルの空間に接続するぞ。場所は前と同じ、16方位12地区の開放通路の脇だ!」、とElle·シャナは報告した。


エステルは憲兵に接続点へ飛び、彼等をサンヘドリンの会議室へ連れてくるように命じた。消えようとするエステルに和泉は言う…


「交感器で君を通して会談を見ている。頃合いを見て私も会談に入るから安心して欲しい。」


「ありがとう、和泉。助かる…」、そう言ってエステルはセンターから消えた。




        ◆




空間監視センターから逃げるように消えたアクエラは志門の部屋に行った。彼女は和泉個人が苦手、と言うわけではなく、アベル(地上人)に対して心を開かなかった。しかし、志門らの取り巻きに対しては、志門がヤーワァから選ばれた器である事から特別、という思いが有った。これが偏見であることを彼女自身がまだ気がついていない…


「志門、居るか?」、とアクエラ。その時、志門とミカ、エディは部屋から消えようとしていた。


「どこへ行くんだ、志門?!」、アクエラの問い掛けに志門は振り向くと暗い顔をしていた。


「今、エステルお姉さんから連絡が有った。僕ら三人は会談に臨めって……」


それを聞いたアクエラから表情が消える…

「何で志門がっ…?!」


「お姉さん、僕だって行きたくない。だけど……、僕はこの世界を創った人間なんだ。果南の事もある……、娘も助けたいし、出来るならカインと地上の人たちも仲良くしてもらいたいんだ。本来なら一般人の僕が出るような場じゃないのは分かってる…」、そう言うと志門はミカとエディに行こうっ!と言い、部屋から消えた。



表情を虚しくして佇むアクエラ…


(私は一体なにをしているんだろう……)、その思いの隅に、前にエルメラ議長から叱責を受けた記憶が顔を出す。

自身の余りの情けなさに彼女は両手で顔を覆い、その場に膝を着いた。

その姿を見、交感器でアクエラの気持ちを察した来門と静香、始とネフェリー、望美とイズハヤたちは彼女を囲み宥めた。




  *********************




会見の部屋に着いた志門たちの前には沢山の代表団の者たちが席に座していた。全員の視線が志門たちに集まる。この中には志門を拘束し、酷い尋問を行ったアメリカ政府のS·クラウディアも同席していた。志門は彼女と目が合うと思わずウワァッ…と感じた。



席の奥に座ったエステルが志門たちに言った。


「こちらはアベルの特使たちだ。これらの者は志門、ミカ、お前たちの旧世界で行った事と、現在の世界が新しく創り出された事を 既に情報で知っている。今回は先の会談で窓口を一つにするよう私は伝え、彼等はその様にした、……ここから先は重要な会談になる、その為に君達も呼んだ。それと、………もう一人、証人を呼んで置いた。エデ·スイ………、何とかだったな? アベルの名前は分かりにくいっ!」、言いあぐねているエステルにミカが注意した。


「いい加減に覚えてくださいよっ、エステル政務執行長官!! 」



エディは椅子から立って前に向かい合う代表団に自分の名前と経歴を明らかにした。


「私は元、アメリカ統合機動宇宙軍のSCV-01、リベレーターのTX機関操作員をやっていたエディ·スイングという者です。」



エステルはウムッと浅く頷くとアメリカ同盟とロシア連合の代表団へ向き直り発した。



「我々の提言に素早い対応をしたのは一定の評価は出来る、………だが、それは本物なのか、アベルよ。」、とエステルの冷たい声が響いた。







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