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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第五部第1章[ アベル接触編 ]
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『カインの使者』第五部13章「カインの真実と衝撃の和泉」

来たるべき地上との交渉に向け、カインとの融和を図るために和泉は現在、地上で起きている事を最高評議会議長のエルメラとサンヘドリン政務執行長官のエステルに伝える。その後、エルメラからカインの情報の提示を受けた和泉は驚く。カインの第84回次元探査計画の最終目標が物質と霊子の境界層破壊で有り、その結果が全ての原状復旧と死者の復活だったからである…


『カインの使者』第五部13章「カインの真実と衝撃の和泉」




和泉がカインに訪れた後、カインは積極的に自分たちが持つ情報を提示した。聖エルシアーナの指示も有ったが、いずれこの空間へ地上の船が多数到達するのは時間の問題と判断したからだった。その間に和泉から総体的な地上の状況、また日本以外の国の事情を知らなければならなかった。数十世紀に渡り安寧を享受してきたカインは初めて”種“の危機と向かい合う事になる……、それはアベルという同じ人間同士の対峙だった。



和泉との会見に臨んだのは最高評議会議長のエルメラとサンヘドリン政務執行局長官のエステルだった。彼女らと話す前、和泉はカインに対して技術要求は一切しない、と誓った。彼の思うところ、軍事に転用されると思われたくないのと、既に自分が此処に居る事でカインとの科学的アドバンテージは極端に大きくないと判断していたからだ。


和泉はカインの情報を得る前に地上の総体的状況と日本の立場を説明した。



「カインはプレアデスを通じて地上の状況をどの程度把握しておられますか?」、和泉は先ず情報の基準点を探った。


「プレアデスとの交流は常時やっていた訳ではない。カインが現在の空間に来る際、プレアデスの協力を得たが、彼等と再会したのは……地球の時間で百年振りなのだ。現在の地上の状態は多くは聞いていない。」、とエルメラは答えた。


「なるほど、では私がお伝えします。現在の地上は過去に起きた台湾有事、平たく言えば戦争ですが、これ以降、世界は完全に二極化しました。これは経済の話です。当然それに連なって軍事も二つの勢力に分かれました。大きく分けてアメリカ同盟とロシア連合です。日本はアメリカ同盟ですが地政学的立場からロシア連合とのパイプも有しています。軍事力は……軍事年鑑は既に廃止されているのでロシア連合の情報は殆ど有りませんが、恐らく両陣営とも同じ水準ではないかと推測しています。私が此処へ来たのは……、事故ですがこの空間へ入った船は我が国の〈あまてらす〉級超次元巡航艦です。」、和泉の説明にエステルが口を挟んだ。



「こちらではイザミ…、失礼、和泉の乗って来た船以外に別の船も確認している。あれは何処の船だ?」


エステルの問いに和泉は目を瞑ってフウッと短く息を吐いた。


「……日本は世界線の統合とカイン、風早志門の情報と引き換えに超次元、そちらの言葉では霊子次元ですか?……その次元を巡航できる船の技術の一部をロシア連合へ渡しています。恐らくロシア連合のものでしょう……、アメリカ同盟艦船も連続的な巡航はまだ出来ませんが大遠距離移動の際、極短時間、超次元を跨いでいます。」、と和泉は返す。


「ウムッ……もう一つ聞きたい。この前、風早志門らと来たエデスイ、エデイ?……すまない、名前は覚えてないが、その者が言うには地上のアベルは敵性異星人と戦っている、と聞いた。ずっと昔の記録でプレアデスから、その事を知らされた、とカインの霊子ライブラリーに記録されているが、その敵性人はまだ存在しているのかっ?!」、エステルが言うと和泉は目を細めた。



(カインはどれだけ外部との接触が無かったんだ……、現在の情報量は相当少ない!)、和泉はメガネを外すとボディスーツの上に着込んだスーツのポケットからセリートを取り出し、レンズを拭いた。



再びメガネを掛け直すと和泉は答えた。



「プレアデスを中心とした銀河連合の反対勢力の存在ですね。彼等敵性異星人は高次元意識体ですが物理的に攻撃できる技術も有しています。現在、アメリカ同盟が戦っている相手がそれです。同盟国の日本もJUDF(Japan Universal Defense Force)を創設して参加しています。私が乗って来た〈あまてらす〉級は現在アメリカ艦、SCV-01リベレーターの動力として稼働しています。」



エルメラはフウーンッと深く息を吐き、次に来る交渉団の事を聞いた。


「日本の次は何処の国が来ますか。」


「アメリカ政府です。〈あまてらす〉がカインと空間接続した事はSCV-01を通して政府へ報告されたでしょう、間もなく彼等は来ます。恐らく対敵性異星人でカインとの協力関係を持ち掛け、技術提供も要求してくる筈です。そこに思惑が無いとは断定出来ませんが、彼等もギリギリの状態です。」、と和泉。


「ありがとう……、ではカインも貴方に話さなければなりません。和泉さんは風早志門による世界線統合の事はご存知ですね。一度、あらゆる世界線を破壊し、現在の世界線へ統合しなければならなかったのは地上の船が我々カインの都市に攻擊を行ってきたからです。前の世界でカインは滅びました。しかし、統合された今の世界でカインは生き延びています。だが、計画はそこで終わりではなかった……、この世界線を創った風早志門の思いはカインとアベルの和解と絶対の平和でした。カインもこれで恒久的な平和が訪れると思っていました。現在の出発はそこから始まっています。」、エルメラはその先を言う前に椅子から立ち、壁に映されたセイルの風景を見た。



「カインは永年に渡る霊子次元探査計画から得られた知見と現在も進行している第84回次元探査計画で次の新しい世界を創造します。それは今の世界線で起きる事です。」、背を向け語るエルメラに和泉は問うた。


「まだ何か起きるんですかっ!? 一体何を変えようと言うんです!!」、エルメラの言葉は和泉の予想を完全に超えていた。彼は世界線の統合で事は終わっている、そう考え、カインとの融和的な交渉に重点を置いていたからだ。また、別の不安も感じていた…


「破壊的な事ですかっ!?」、と和泉は思わず声を大きくした。


エルメラは笑みを浮かべ、振り向くと和泉に告げた。


「我々がやろうとしている事はその真逆です。」、エルメラの落ち着いた声が発された後、部屋に沈黙が漂った。



「真逆……、だって?」、和泉は詰まるように言った。



エルメラは黙って頷いた。


「全ての完全な原状復旧、壊れた物は元に戻り、亡くなった者は生き返ります。」


和泉の開いた口は塞がらない、顎が外れ掛けた…


「何でそんな事が出来るんですっ!! カインは神ですかっ?!」、彼は迫って問うた。それに対しエステルが返した。


「我々は神ではないっ!! 聞けっ、愚かなアベル! 地上人は物質的なかんがえに満たされて、それを存在成さしめている源を知らない。さっきお前が言った”神“はその源の方向性(意志)なのだ。議長の言った全ての原状復旧は想像や観念ではない、我々カインが霊子科学的アプローチに依って導き出すものなのだ。」



(これはもう……)、和泉は先に地上とカインの科学のアドバンテージは大きくないと思ったのを取り消した。和泉は自分の椅子に戻り腰を降ろす……、フウーッと深く息を吐いた。


「先にエルメラ議長が言った他にどんな事が起きますか……」、と和泉は力のない声で言った。


「我々はそれを見ていない……が、意識の物質化は広範に及ぶだろう。人を含めてその周りの空間にも、だ。」、とエステルは返す。


「何故そんな事が出来る……」、と和泉は顔を俯け、独り言のように呟いた。エルメラは和泉に振り返ると次のように答えた。



「物質世界と霊子世界の境界層を破壊するのです。」、そう言うとエルメラはエステルに向き、理論図を展開するよう命じた。






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