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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第五部第1章[ アベル接触編 ]
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『カインの使者』第五部12章「政治家と民間人」

サンヘドリン最高法廷の取調室に飛んだ志門たちはそこで防衛省副大臣の和泉に会い、彼は志門たちの本人確認と健康状態を確認する。それが終わった後、彼は志門たちを去らせ、エステルに向かうと日本政府の意向を彼女に伝える。それはカイン側にとって幸いな話だったが、彼女は一先ず最高評議会のエルメラ議長の元へ報告に走る…


『カインの使者』第五部12章「政治家と民間人」




「連れてきました、長官!」、とリベカ。エステルは片手を上げ、ご苦労っ!という感じを示すと連れてきた志門らを手招きする。志門はリベカの手を離さなかった。


「志門、手を離してくれ。私の仕事は警護なのだ。」


志門は彼女の目を見て言った。

「お姉さんの事を僕は前の世界でしっかり心に留めておいた……、一緒にいて欲しい。」、リベカはどうしたものか…、と思いエステルの方を見た。彼女は黙って頷く。


「ありがとうございます、長官。志門、部屋の外にいるマンセルのサライも呼ぶ。」、リベカがそう言うと部屋の壁を抜けて、もう一人の憲兵が入った。リベカとサライの二人はボディスーツから繋がったヘルメット形状のフードを解除すると、収まっていた髪の毛がサララ…と肩口まで降りた。カインの他の成員と共通する整った顔立ちと知的な雰囲気に加え、警護という職種が示す強さに志門はハァ…と感嘆の溜め息を吐く。始や父の来門も改めてカインの女性の美しさに目を奪われた。



「さて、和泉よ。お前の国の者を連れて来た、確かめるがいい。」、とエステル。部屋に張られた霊子バリヤは志門たちには干渉しなかったので、彼等は和泉の方へ向かった。


「はじめましてっ! 私は日本防衛省の副大臣、和泉総司郎と言う者です。私はカイン関連で行方不明となった貴方がたの捜索と安否を確かめる為、ここへ来ました。ここへ来れたのは飽くまで偶然ですが…」、と和泉は偶然(事故)を強く匂わせるように会見の目的を語った。


和泉は人差し指で人数を数えると、アレッ?という感じに首を傾げた。彼は一人ひとりの名前と職種を確かめた。


「風早来門さんと妻の静香さんは日立科学技術特区の日本宇宙開発機構に宇宙域戦術航空自衛隊のパイロットとして協力していましたね、階級は三等空佐と一等空尉…でしたね。それと……、息子さんの風早志門さん、住居地はご両親の実家の直ぐ近く、五年前に結婚されてT大学を卒業した後、修士課程を経て鉱物学の博士号取得。T大学で鉱物学の研究をしていましたね……、論文も調べました。論文のタイトルは『自然鉱物結晶と霊子』、今年の8月に職を辞した後、長野県北信地方の山中でアメリカ軍に拘束、基地で尋問を受けた後、行方不明……、同時に御両親と奥さん、子供さんも。奥さんは五年前に貴方と結婚、名前はミカ·エルカナンさん。戸籍は北欧となっていますがぁ、これは事実ではない! この部分は私が今、貴方と会っている事とは別件として厚生労働省が調査を進めています。」



そう言うと和泉はエステルに次の事を尋ねた。


「風早志門さんの奥さんと子供さんは?」、彼が問うとエステルは次のように答えた。


「彼女らは特別な立場にある、外部との接触は制限される。」


和泉はンッと浅く頷き、再び志門らの方へ向いた。


「娘さんは風早果南さん、出生は凡そ五年前です、……間違いありませんね?」、と和泉はポケットに入れておいた資料を広げて目を通しながら聞いた。


「間違いありません。」と志門。和泉はフムッと頷くと始と望美に顔を向ける…


「君たちは? 悪いが君らの情報は無い。自己紹介して欲しい。後で帰ったら照会しておくよ。」、と和泉が言うとエステルが言葉を挟んだ。


「お前、帰れると思っているのか? こちらから出る船は無い!」


「そうでしたね、フフフッ…私が来たのは事故ですから。その代わり、地上からまとまった代表団が来たときに帰していただければ有り難いです。」、和泉は始に向き直った。始は和泉と目を合わせると自己紹介をはじめる…


「俺は独 始、居住地は神奈川でY国立大学の物理研究室の職員です。連絡が取れないので多分職場は除籍になっていると思います。こっちは妹の望美です、妹は大阪のH大学、考古学研究室の主任教授。日本考古学研究機構の会員でもあります。」


「何時から此処に来ていたの?」、と和泉は尋ねた。始は腕を組み、手で顎を支えてウウ〜ンッと考えた。


「自分は……、もう何ヶ月ここに居るのかな?! 地上とは時間の感覚が違うから…。妹は此処に来てから約三、四ヶ月くらいかな?」、始が言うと和泉はメモ帳にそれらの事を書いた。


「ありがとうございました。皆さんの安全と健康は確認出来たので部屋に戻って下さい。」、和泉はエステルに志門らの退出をお願いした。が、来門が彼に質問した。


「和泉さん、日本はカインにどう対応するのかね?」、隣に居た静香は来門を制止する。

「貴方、それは私たちが聞くことじゃないでしょう!」、妻の言葉に来門はチョッと黙っていてくれっ!と言うと続けて和泉に問うた。


「カインとの安全保障か?」


「勿論、その話も出るかも知れませんが日本政府の基本スタンスはお互いの融和です。カインにわが国の国民がお世話になっている! 皆さんの存在は我が国とカインの友好の架け橋になって頂きたいのです。既に志門さんはカインの女性の方とも結婚されていますし…」、和泉がそう言うと来門は安心した表情を浮かべ、踵を返すと皆と共に部屋から消えた。





志門らが部屋から消えると和泉はエステルに頭を下げ謝意を表した。


エステルは彼が特に危険な人間ではない事を知ると部屋の霊子バリヤを解いた。


「日本はカインに何を要求するのだ?」、とエステル。

「カインは初めて地上の国と接触したと我々は思っています。その最初の国が我が国、日本であった事は我が国にとって、とても栄誉な事です。私たちの国がカインに求める事はしません。それはお互いの信頼が高まってくれば自ずと双方で成されるでしょう。逆にお尋ねします、カインは我が国に何か必要なものが有りますか? もし提供して欲しいものがあれば言って下さい。」、和泉はテーブルに身を乗り出しエステルに近づいた。既に和泉の身体はテーブルの中央を越えていた。



和泉の熱のこもったアプローチにエステルは黙った。彼女としては、今後の展開されるアベルとの交渉でその下地を作れる第三国の協力は使える…、そう考えた。


(この男の言う事が確かなら、日本という国は使えるかも知れんな……、先ずは最高評議会のエルメラ議長へ報告しなければならん。)



「考えて置く!! 部屋は用意してある、そこで休んで居てくれ、イザミ。……サライ、彼にボディスーツのリングを渡せ。」、エステルは残っていた憲兵のサライに命じ、ボディスーツのリングを渡させると背を向け消えようとした。和泉がエステルを制止した…


「エステルさん、チョッと待ってっ!!」


「何だ?」、エステルは背中越しに和泉を見て言った。


「イザミ、じゃなくて“イズミ”です。御承知おきを。」、と和泉は返した。


「アベルの言葉は面倒だ…」、呟くように吐くと彼女は部屋から消えた。




        ◆




最高評議会の議長室…


「我々がヒッポン……、失礼、日本と最初に接触できたのは幸いかも知れません。彼等はカインに対して赤らさまな要求はしてきませんでした。」、とエステルはエルメラに言った。しかし、彼女は少し心配な部分も有った。


「日本の船がカインに近づいた時にもう一隻の船が辺りに居た……、と言うのが気になる。どう思われますか、聖エルシアーナ。」、そう言って彼女は聖エルシアーナに助言を求めた。


「もう一隻の船の国は時空探査で既にカインの存在を把握していた……、この世界線が風早志門に依って創り出された事も。日本とその国は情報の共有を行っている。今のところ敵とも味方とも言えない……、これは暫くすれば分かる事だ。その国はプレアデスと情報共有も行っている。その情報が日本に流れたのだろう。」、と聖エルシアーナは言う。


「日本と交渉しますかっ?」、エルメラは聖エルシアーナに近づいて問うた。横に居た聖エルシアーナの従者となったロタ、イズハヤは何も言わず聖エルシアーナの次の言葉を待った。


「風早志門の国、日本と交渉しなさい! カインの計画を日本の特使に伝え、他の国との交渉の間に入ってもらうのです。これは現在の世界線を創った風早志門の思いでもあります。」



(志門……)、ロタは心の中で彼を慕った。






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