『カインの使者』第五部11章「日本国とカイン」
日本政府防衛省副大臣、和泉はエステルに連れられてサンヘドリン最高法廷へ送られ、そこで彼はカイン渡航の目的を問われる。彼の目的はカインに渡った自国、日本人の風早志門らの安否確認と保護だった。志門たちはカインの地上帰還が現実味を増すなかで、其々の思いを膨らませる。そんな時、かつて志門を拘束したクライシスト専属部署の憲兵リベカが現れる…
『カインの使者』第五部11章「日本国とカイン」
エステルは憲兵の後から前に出て彼をジッと見た。自分の前には彼の差し出された手が有る。しかし、彼女にその意味は分からなかった。
「この者は調べなければならない、サンヘドリン最高法廷へ連行せよっ!!」、そう言ってエステルは憲兵に命じ、彼を拘束するとサンヘドリン最高法廷の取調室へ飛んだ。
取調室へ飛んだエステルと憲兵は部屋の中央に霊子バリヤを張り、テーブルを挟んで和泉の対面にエステルが座った。
和泉は物珍しそうに床から生えたテーブルや椅子を触った。
「凄いな、これがカインの技術なのかっ!?」、と和泉。エステルは和泉に話しかけた。
「和泉とか言ったな…、ここへ来た目的は何だ?」、エステルの声に気が付いた彼は直ぐに彼女の方を見た。直ぐには言葉が出ず、エステルを凝視したままだ。
「貴女は誰ですか…」、と和泉は問い掛けた。彼女は質問に答えなかった彼に少し苛立ったが自分の氏名と役職を言った。
「私はカインの政務執行局、長官のエステル·ランスだ。」
和泉はフムッという感じで頷く…、彼は腰を上げ、この空間に出た時のように挨拶で手を差し出したがテーブルの中央を仕切る霊子バリヤに阻まれ、それ以上手を伸ばす事が出来なかった。少し難しい表情を浮かべる和泉…、再びエステルの顔を見て目を合わせた。
(身長は私より高い、かと言って欧米人ほど背は高くないが……、とても綺麗な人だ。)、思いながら彼の目はエステルの細部を調べた。
(髪型は装飾のないストレートで肘辺りまで綺麗に伸ばしている。髪の色は…青く光るような、例えで言えば澄んだ鋼の色のようだ。肌は抜けるような白…目はライトグレー。頭部に有るのは髪飾りか? それとも役職を表すサークレット? 他の者との相違点はサークレットと髪の長さ、ボディスーツの上に纏っているローブのようなもの…、その辺が役職を示している訳か?!)
エステルは手でテーブルを叩いた。
「私を調べるなっ!! お前が何を考えているか伝わってるぞっ!」、エステルの言葉に和泉はエッ!?となった。
「交感器で考えは伝わっている。妙な事は考えるなよ。先の質問だ、目的を話せ!」、とエステル。
「ここへ来ている我が国の国民の安全を確認したい。それと私がここへ来たのは飽くまでも事故だ(表向きだけどな…)。…カインには日本国民の風早志門の家族とその両親が来ている筈だ。私は彼等を保護しなければならない!」、和泉の言葉にエステルはハァ…?という顔をした。
「保護? お前は今の自分の立場が分かってないのか? 保護しているのは我々だ。お前がさっき言った者はカインと同じ扱いだ。」
「会って話がしたい。」、と和泉はお願いした。
エステルは横にいた憲兵の方を向きンッと頷くと憲兵はその部屋から消えた。
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部屋で志門たち家族は隣の始たちを呼んでいろいろ話していた。カインが地上へ帰還する可能性が現実味を帯びて来ると始たちはやっと帰れるっ!という感じで目を輝かした。始は彼女のネフェリーと地上へ帰りたかった。ネフェリーはカインの始祖だが、地上で暮らしていたからだ。また、望美はカインの記録を地上へ持ち帰り、人類史の新しい学術体系の構築に胸を躍らせていた。
「カインの事を地上に持ち帰る事ができれば、今までの考古学に新しい視点からアプローチが可能になるわ、今まで分からなかった事も明らかになって行くっ!」
「望美は大学の方、もう除籍になってるんじゃないか? もう何ヶ月も連絡取れてないだろう。」、と心配する始。
「多分、行方不明でそうなってると思うけど、私は日本考古学機構の会員だから論文の発表は出来ると思うの。」
「私は何処にいても始の隣なら問題はないぞ。」、始の隣に居たネフェリーはそう言って彼の身体に首を擡げた。
少し離れたところで、エディはフウ〜ンッという感じで聞いていた。
(私は帰ったらどうしよう…、自分がやった事は社の規約違反だし下手したら監禁されるかも知れない。帰りたくても帰りにくい……アッ!)、この時エディはヒヒイロカネを志門に渡したあと、兄レナートから厳しく詰め寄られ、銃を突きつけられた時に自分を庇って撃たれたバートル中尉(CIC動力管制科員)の事を思い出した。
(リベレーターの高次元戦闘機、TR-3Dで出撃する前に艦内通信で彼を見たのが最後……中尉さん…会いたい…)
床に座り、膝を抱え込んだ彼女を見た志門は交感器から伝わって来る感情に気が付いた。直ぐ彼女に近寄ると身を屈めて肩に手を置いた。
「エディ、大丈夫? 地上に帰る事になっても僕は君と居るから安心して。……ヒヒイロカネを譲ってくれた、その責任は僕のものだ。」、志門の言葉に彼女は肘に埋めた顔を上げた。彼女は複雑な感情で何とも言えない表情を浮かべ、目には涙を溜め、それは今にも零れそうだった。
既に交感器を通さずとも、細かな感情を読めるようになっていた志門の他、ミカや果南も彼女に寄り添った。エディの事情を知っている両親の来門、静香も彼女を心配した。
そんな時、壁の近くで声が有った。全員が振り向くと憲兵が立っていた。志門はその憲兵を見ると少し考えた、そして思い出した。前の世界線で極秘で地上の自宅に戻った時、一緒に付き添っていた護衛、クライシスト専属部署の憲兵リベカだった。彼女は志門が初めてカインに連れて来られた時に彼を拘束したことも有った…
「リベカお姉さぁ〜んっ!! 」、何とも言えない懐かしさに志門は走り寄って彼女に抱き着いた。志門の心を観ていたミカは、またか……っという顔をする。ミカの横にいる果南は言う。
「パパの気持ちは今も少年なのよ。ママと出会ったときから変わってないわ。……」、そう言って笑みを浮かべた。
「見た目は大人で中身は子供、……果南、これって良くない事なのよ。」、とミカは注意した。対し、果南は言う…
「私はパパの年齢を最初の世界線、事象の始まりまで下げる、ママも……。そこから私と同じ姿になるまでパパはカインの人とたくさん子供を作るの。私はそれが許される世界を創る…」
果南の言葉にミカは首を傾げた…
(この子、何を言ってるんだろう?)
リベカは志門の他に両親の来門と静香、そして始と望美を呼び寄せる。但し、ミカと果南は残るよう伝えた。
「お前たちの住んでいたエリア(国)から人が来た。その者はお前たちに会いたがっている、一緒に来い!」
全員、まとまって部屋から消えた…
◆
サンヘドリンで待っていた和泉はエステルにカインの社会機構について尋ねていた。それは地上との相違を知る事で予め彼等カインに対し、偏見の先行を防ぐと同時に理解を深化させる目的があった。
和泉がエステルから聞くカインの社会機構は地上では考えられないほど簡素で分かりやすく、そして洗練されたものだった。彼が一番驚いたのは経済という概念が無い事だった。
(社会活動や運営の原動力の経済そのものが存在しない……、恐らく此処のエネルギーと、その配分の仕方なのだろう。この辺り、我が国が掲げて来たムーンショット計画と重なる部分が有るな。実現には程遠いがな…)
和泉が考えているとき志門たちが部屋に現れた。




