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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第五部第1章[ アベル接触編 ]
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『カインの使者』第五部10章「日本の真実と和泉総司郎」

アベルとの交渉の準備を進めるサンヘドリンとクライシスト。最高評議会ケルブとセラフィムでは聖エルシアーナの予言に沿ってアベル、日本国との交渉に臨む。聖エルシアーナとイズハヤは太古の日の本(日本国)に付いて説明し、聖エルシアーナはかつて人間の動向を観るため、霊子界から地上へ送られた迦具夜比売命について言及する。また、今回の霊子界と物理界の境界層破壊の鍵となる果南こそ人間に不死を与える迦具夜比売命の系譜であると明らかにする。

それから暫くして都市セイルの空間に接続するアベルの船があり、中から出て来たのは日本政府を名乗る和泉総司郎という男性だった。


『カインの使者』第五部10章「日本の真実と和泉総司郎」




志門は暗い顔でフウゥーッ…と大きな溜め息を吐いた。彼の脳裏に拘束されていた時、現場にいたS·クラウディアらの顔が浮かび上がる…、志門はこれらの者を相手に、自分が交渉の場に席を並べる立場にはないと思っていた。


(僕は普通の民間人なんだ…)



アクエラはエディの方に向き直り、彼女にも協力を促す。それは半ば強制のように聞こえた。


「エディ·スイング、お前も協力しろ。アベル側組織の上部に近い所に居たお前ならある程度アベルのシステムや通念には詳しい……、我々の間に立って向こうの意図を正確に把握、伝えてくれ。」、アクエラの言葉にエディは困った顔をした。


「アクエラさん、私は確かに軍の組織に派遣された会社の者ですが政治には近くありませんよ。どちらかと言うと技術寄りの人間です。他の人じゃダメなんですか?」、とエディ。


「志門やミカはこの世界の中心者だから当然として、始や望美は……、カインで言うなら律法義委員たちの学術系に近い。勿論、相手によって協力してもらう場合も有る。志門の両親に於いては志門の国の……日本だったか? その国に対応してもらうかも知れない。向こうとの交渉は最近、この空間に現れた軌道プラットフォームを運用している国、つまりエディ、お前の国、アマリカ? アメリカだったか!? それが出て来る可能性が高い。交渉の主導権は技術優勢に負うのは何処でも同じだからな。」、とアクエラは述べた。エディはフハ〜ッと息を吐き肩を落とす。



(嫌だなぁ……、向こうに素性がバレたら何をされるか分からない、私は現場から逃げた人間なんだ。)




       ◆




サンヘドリンとクライシストが準備を進める間、最高評議会議長のエルメラは聖エルシアーナとカインの進むべき方向性を話し合っていた。聖エルシアーナの横には従者として律法義委員のロタと、船から人間の形に成ったイズハヤが付く。彼が同席したのは聖エルシアーナの予言に基づくものだった。


全てのスケジュールは聖エルシアーナの予言に基づいて進められる。

カインの次元探査計画など重要な計画の進行は、本来であれば律法義委員が霊子界の了解を受け取り、次いで空間接続技官が細かなタイミングの設定を行う訳だか、了解を得る大元が既にこちらに降りて来ているので、ロタは殆どする事はなかった。またロタは事象の予告者でもあったが、聖エルシアーナは全てを見渡せる存在で、それは確率的な予告ではない百パーセントの“予言”だった。


議長室の執務椅子に聖エルシアーナが座り、その周りをエルメラらが囲んだ。


「間もなくイズハヤの国の者がここを訪れる。」、聖エルシアーナが言うとエルメラはその国の事を尋ねた。


「イズハヤの国、確か風早志門の出身地で日本、でしたか? 彼等は信用に値するのですか!?」、エルメラの言葉にイズハヤは失礼なっ!! という感じで返す。


「日の本の国は、その昔、世界を統べっていたのです。それは彼等の言葉と行いに神性が備わっていたからです。私は船であった時にそれらを観ました。彼等を連れて葦原中国(あしはらのなかつくに:地上世界)と高天原(たかまがはら:霊子世界)を何度も行き来したのです。高天原には罪の有る者は入れません、日の本の神民は唯一、地上でその往来を許された者なのです。」、イズハヤの説明に聖エルシアーナが補足した。


「彼の言っている事は物質と霊子の間に境界層を作っている時の事だ。確かに日の本にはその後、私は使者を送り出し、世界を統治するよう言付けた。暫く平和が保たれたが物質に偏った世界では反対者が優勢になったのだ……、私は何度か地上の人間の傾向性を観る為に霊子世界の者を地上の各地へ送った……、イズハヤは知っておろう、迦具夜比売命の事を。世界の多くの国の中で唯一、霊子界へ帰還できたのは日の本の国へ送った者だけだった。他の使者は……」、聖エルシアーナは目を閉じ俯くと憂いの表情を浮かべる。その先は聞かずともエルメラやロタの魂に直接響いた。



「迦具夜比売命の事は聞いております。この神を霊子界へ連れ帰ったのは他の船たちでした。」、とイズハヤ。


聖エルシアーナは顔を上げ、フンッと短く息を吐くと全員に真実を告げた。


「風早果南の魂は迦具夜比売命の魂の方向性を引き継ぐ者、同じ系譜の魂なのだ。彼女は再び地上へ降り立ち、人間に不死を与える。それは自身の人の形を放棄する事で成される。」




  *******************




それから暫く経ち、聖エルシアーナの言った通り、アベルの船がセイルの空間に姿を現す事が多くなった。


クライシストの空間監視センターではその様子をアクエラとサンヘドリンのエステルが注視していた。


「何隻いるのだ?」、とエステルはアクエラに尋ねた。


アクエラは空間に映し出された波動を示す光の波を指して答えた。


「2隻です。うち1隻は前にこの空間で攻撃性波動を物理空間の高次階層に向けて放射したやつです。もう1隻は初めて確認しますが、セイルの波動からかなり外れた所に存在します。」


「……そのまま監視を続けてくれ。何方かがヒッポンのものだ。」、とエステルが言うとアクエラはンンッ? という顔をした。


「エステル長官、ヒッポンじゃなくてニッポン、またはニホン……じゃないですか!?」

「アベルの言葉は分かりにくいんだっ!」、そう言ってエステルは下唇を噛んだ。そんな時、空間接続のアラートが響き、監視員が声を上げた。



「セイルの波動と同期を確認っ!! 空間が繋がりますっ!」



「来たかっ!! 精密な位置はっ!?」、とアクエラ。監視員は素早く返す…


「セイル16方位、12地区の開放通路の脇ですっ!!」

「空間接続点へ憲兵を配置せよっ! もし出て来て暴れるならその場で拘束、気絶させろっ!」、とエステルは命じた。



エステルはアクエラに現場に行くっ! と言うと監視センターから消えた。



エステルが接続点へ着くと既にサンヘドリンの憲兵五名がボディスーツと繋がった頭部を覆うヘルメット形状の物から更にバイザーを降ろし、戦闘態勢で待ち構えていた。


暫くして白い靄の長方形が空間に形成され、その靄の中からガラスの付いた棒状のような物が突き出される。憲兵はサッと白い靄の左右に別れた。エステルも憲兵の後ろに立ち、向こうの出方を伺った。


突き出た棒状の物は靄の中に引っ込み、少し時間が経った後、いきなり一人の者が飛び出した。一瞬ビクッとなる憲兵とエステル…


その者は地面に肩から一回転する形で地面に手と膝を着いて姿勢を保った。見た感じ、アベルの服装をした男性のようだった。背丈は170cm近く、頭髪は綺麗に分けられ眼鏡を掛けている。その奥で光る目は鋭かった。


その直後、白い靄の長方形は徐々に大きさを縮小させ、遂に消滅した。憲兵たちは直ぐに周りを囲んだ。


「動くなっ!! 何者かっ!?」、とエステルはこの男性に叫んだ。憲兵は強力な霊子感応で男性を拘束すると、その者の額に交感器クロスライザーを埋め込んだ。憲兵の一人が会話を促す。


男性は慌てるふうでもなく両手を顔の横に持って来た。



「すみませぇ〜んっ、事故でこっちに入っちゃった。悪気はないんです……、保護して頂けますか?」、と屈託のない笑顔で男性は答えるが、憲兵には意味不明だった。


「アレェ〜ッ、なんか思ってたリアクションと違う?」、男性が言うとエステルは名前を聞いた。


「お前の名前は何だっ! 所属する国はっ!?」


男性はエステルに向いてお辞儀をすると手を差し出し握手を求めた。そして次のように言った…



「私は地上の日本国政府、防衛省副大臣を務めている和泉総司郎という者です。」






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