表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第五部第1章[ アベル接触編 ]
73/77

『カインの使者』第五部7章「ミカの恩返し」

物理空間で戦闘が続く中、リベレーターの異変に気が付く志門たち。霊子空間へ再び突入するリベレーターだったが、その波動は不安定で今にも元の物理空間へ押し戻されようとしていた。霊子感応でリベレーターを操艦している五十鈴の窮地を知ったミカはループストライカーとリベレーターの波動を同期安定させ、救援のためリベレーター機関のコントローラーコアへ飛ぶ。そこで見たのは瀕死の五十鈴の姿だった。ミカは五十鈴を助けるために、以前脱出の際に五十鈴から受け取った霊子物質で出来た勾玉のネックレスを彼女に返す。リベレーターの無事を見届けた志門らは、この空間に在るカインの都市セイルに帰還するが、そこで待っていたのは激しく苛立ったクライシストの責任者アクエラだった…


『カインの使者』第五部7章「ミカの恩返し」




アベルの船、リベレーターを追うループストライカー。



「…おやっ? あの船の攻撃が止まったぞっ! 兵装の扉を閉めている……、何をしようとしてるんだろう?」、とElle·シャナ。


リベレーターから発されていた火器曳光は止まったが、対するヴァンガード級は更に砲撃を重ね、遮蔽物となっているアステロイドを砕き続ける…


「霊子空間に入ろうとしているっ!! ……あの船の波動では霊子空間へ入るのに相当な無理があるんだっ!!」、とミカは叫んだ。


「分かるのかっ?」、と志門。

「形状が発する波動が霊子空間を航行するのに全く合わないのよっ! 本来ならループストライカーのような曲面構成でなければならない…、五十鈴さんの身体は壊れ掛けているっ!!」、とミカは額に汗を浮き上がらせた。



ヴァンガード級の砲撃でアステロイドの盾がリベレーターの手前まで砕かれた時、リベレーターは白く輝き、次にその輪郭がまだらに消えて行く。


「波動が安定しないんだっ! こっちも追うぞっ!!」、Elle·シャナはループストライカーの波動を霊子空間の航行出力へ上げると、船体は一瞬で光子の励起状態から霊子の構成へ変化した。同時に霊子空間へ移行を完了する。


ループストライカーの船内からリベレーターの波動を見ていたElle·シャナは、まるで波打つようなリベレーターの船体を見て悲鳴を上げた。


「なんだっ、これはっ!? アベルの奴、無茶な事をするっ!! ……この状態で攻撃性波動を放射しようとしているっ!」


Elle·シャナの声でエディは志門から離れ、デッキ中央に映し出されたリベレーターの波動イメージ映像を見入った。

「リベレーターを助けてっ、Elle·シャナッ!!」、と叫び嘆願するエディ。


Elle·シャナはウッ……、となった。既に船の運用規定に違反している、その上アベルの船に直接干渉…、という事になれば重い罪に問われる。


「それは……、無理だ。」、と困った表情を浮かべ、呟くように返すElle·シャナに志門は迫って彼女の両肩を掴んで言った。


「あの船を操縦している五十鈴お姉さんは僕とミカを助けてくれたんだっ! お姉さん、頼むっ!! 責任は僕が取る、何でもするからっ!」、と志門はアクエラが警告を出した時と同じように言った。


「……何でもするんだな、志門。今の言葉、重いぞっ!」、そう言うとElle·シャナはループストライカーの霊子エネルギーをリベレーターに同期させ、波動を安定させた。


波動が同期したループストライカーとリベレーターは霊子空間で一つとなり安定を保った。志門とミカ、エディは五十鈴の居る、リベレーター機関のコントロールコアへ飛ぶ準備をする。


「Elle·シャナお姉さん、船を頼むっ!」、そう言うと志門たちはリベレーターへ飛んだ。




  *******************




リベレーターの機関コントロールコアへ現れた三人はその狭さに思わず声を上げた。五人も入ればスシ詰めになるほどの狭さだった。志門は直ぐ前にコントローラー(操作員)のシートに気が付き前に回り込んだ。


「貴方たちっ!、……どうして此処にっ!!」、とシートに身を横たえていた五十鈴が叫ぶ。


「五十鈴お姉さん、状況は分かっているっ。仕事を続けてっ!」、と志門は言った。




五十鈴は取り直し、攻撃のシーケンスを続けた。




「ウェポンズレデイッ! 照準、ヴァンガード及び、アークロイヤルのSAI、制御バイパス、ターゲットロックッ、………サルボーッ!、ファイヤッ!!」、と五十鈴。




リベレーターの艦体から銅色の光が二回連続で放射されると、それは次元を超え、物質空間の高次階層へ放射された。


「ターゲットデストロイッ!状況終了…」、そう言うと五十鈴はヘルメットを脱ぎ、フゥーッと大きく息を吐いて、座ったまま上半身を崩した。



顔が血まみれの五十鈴を見たエディは駆け寄ると、持っていた FAK(First aid kit:応急処置セット)をボディスーツの胸ポケットのような口から取り出し、ガーゼで五十鈴の顔を拭いた。これは地上で着ていたTR-3Dの脱出キットに含まれていた物で、彼女がカインに着いたときカインのボディスーツに忍ばせていた物だった。




五十鈴は、エディが持っているFAKのパッケージを見ながら、彼女に呟いた。


「それは統合機動宇宙軍の官給品ね、………貴方はこの艦に乗っていたの?」



エディは小さく頷き、次の様に言った。


「私はエディ·スイング、………この艦のTX機関の操作員でした……」


「………、ランドー艦長が追っていた人ね…」、と五十鈴は脱力した感じで答えた。




横で見ていたミカが五十鈴に進み出て、自分の首にかけていたネックレスを外し、五十鈴の首に掛け直した。それは日立宇宙工廠から脱出する際、五十鈴から手渡された物だった。


「この前は本当にありがとう、……これのお陰で私は自分の身体を保てた、………私はもう大丈夫なので貴方が持っていて下さい。」





ネックレスが五十鈴に戻ると、彼女の身体は急速に力を取り戻して行った。それは目視で確認できるほどの回復だった。



「どうして助けてくれたの?」、五十鈴は志門の方を向いて尋ねた。



「この前の借りを返したかったのと、エディがそうしてくれ、と強く言ったんです。彼女は自分の意識の中でずっと、この船を観ていたんです。彼女は、意識の中で、少し前にこの船の艦長と会って話をしました、……彼女は僕とミカに言ったんです。この船を助けてあげてって………」、と志門は答えた。


五十鈴は志門の話した事がよく分からなかった。


「では五十鈴さん、私たちはこれでやる事が終わったので帰ります。」、とミカは言った。


五十鈴は身体を起こし、ミカに尋ねた。

「帰るっ?!、この次元に消えたカインの都市にっ? 何処に居るのっ?!」


ミカと志門、そしてエディはお互いに顔を合わせ小声で相談した。カインの都市セイルの波動を直接教える事は出来ないので、取り合えずリベレーターの近く、という事にした。

だが、この事がアベルとカインの直接的な接触を招こうとは知る由もなかった…



「私たちは、あなた方とそう離れていないところに居ます。」、ミカはそう言い残すと、志門、エディと一緒に影を薄めるようにループストライカーへ戻った。


リベレーターがこの空間から去ったのを確認した志門らはループストライカーをセイルの波動へ向ける…




       ◆




一方、セイルの空間監視センターで船の状況を見ていたアクエラは冷や汗を垂らし、拳を震わせていた。万一、ループストライカーを失うような事になれば今進めている計画に重大な支障が出るかも知れない…、そう彼女は思った。霊子と物質の境界層の破壊は物質として現れている霊子金属の類やカインの剣の同位体など物質化された霊子で行わなければならない…、とアクエラは聖エルシアーナの言葉を最高評議会のエルメラ議長を通して聞いていたからだ。



(運用規定違反の上にアベルの船と直接的接触など、……もう始末書だけでは許さんっ!!)



ループストライカーがセイルに帰還した後、アクエラは乗っていた全員を自分の前に立たせた。


「お前らぁっ!!……」、アクエラの目は突き上げるような目で全員を睨んだ。


次に彼女は手加減なしで並んだ順に殴ったり蹴り上げたりした。先ずElle·シャナかは始まり、地上から来たエディや志門、ミカも同様にされた。


本来なら、以前、成員の培養棟で志門とミカが格闘した時と同じようにサンヘドリンの憲兵が駆けつけなければならなかったが彼等は来なかった。アクエラはサンヘドリンのエステル政務執行長官からクライシスト内の全権を委任されていたからだ。



「志門の他は全員部屋へ帰れっ!!」、そう言うとアクエラは三人を散らせ、志門だけを残した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ