『カインの使者』第五部5章「アベルの船、SCV-01リベレーター」
アベルの船、統合機動宇宙軍のSCV-01〈リベレーター〉は霊子空間の境界層で攻撃性波動を物理空間に向けて放射した後、船の波動の乱れから、再び物理空間へと戻る。それを追う志門たちの乗ったループストライカー。物理空間に戻ったリベレーターの様子を伺う志門たちだったが、エディはリベレーターに異変を感じる。敵性異星人の高次干渉と判断したエディはカインの剣の同位体、”ヒヒイロカネ“の力で自分の意識を強化し、リベレーターへ送り込もううとする…
『カインの使者』第五部5章「アベルの船、SCV-01リベレーター」
「波動極性は大きくマイナス、攻撃性波動が高まっている! 前の時みたいに物理高次階層(高次元)に指向性が向いているっ!!」、とElle·シャナは志門に言った。
「一体、何に対して攻擊しているんだ!?」、と志門が言うと横にいたエディが答えた。
「志門、彼等が戦っている相手は敵性異星人なのよ。」
「エッ? 物質的な異星人は居ないって前に聞いたけど…」、と志門。対しミカが答える。
「そうよ、プレアデスのような存在、彼等は意識体なの。カインはプレアデスとの交流で、それらが居ることは聞いていた。カインは霊子科学でプレアデスのような意識体を凌駕していたから攻擊を受ける事はなかったけど、アベル(地上人)は漸く反撃に出たのね…」
「統合機動宇宙軍のSCV-01はこの空間を連続航行は出来なかった、……恐らく機関を載せ替えたのね!」、そう言うとエディはSCV-01から発される波動を細かく見て行った。
艦体から発されている波動を絞り込んでいくと、明らかにGEバイオエレクトリック社のTX機関とは波動が違っていた。
「……私が逃げた後に別の機関に載せ替えたのね。」、とエディ。Elle·シャナはこの波動を前にこの空間に現れたアベルの艦船の波動と照合する…
「前に現れたやつと同じ波動だ……! 攻擊を開始したようだっ! 連続して放射しているっ……、最初に現れたときに比べて船の波動が凄く不安定になっている! このままだとこの空間から弾かれて元の物理空間へ戻る事になる。」
ミカもエディと同じようにこの船が発している波動に神経を集中した。エディより強い霊子波動を持つミカは更に波動の操作中心を観る。そこには前に、確かに覚えのある波動を感じた。
「これは……、あの人だっ!! 志門っ、私たちを逃がしてくれた人があの船を操っているっ!」、ミカは志門に向かって叫んだ。
「逃がしてくれた……、五十鈴お姉さんかっ!! だけど何でUSSFの船なんだっ!?」、と志門はミカに言うと、エディが代わりに答えた。
「統合機動宇宙軍はアメリカ同盟国で構成されているの。勿論、日本のJUDF(Japan Universal Defense Force)も入っているわ。あの艦の機関は日本製なのね、TX機関は誰でも操作出来る訳じゃない、私のように機関一基あたり専任の操作員が必要なのよ……、多分だけどGEからの供給が間に合わなかったんだ。」
「この空間から消えていくぞっ!」、とElle·シャナが叫んだ。コントロールパネルに映し出された波動は徐々に消えて行く…
「元の物理空間へ戻ったのかっ!?」、と志門。Elle·シャナは、たぶん…、と言って頷く。エディはコントロールパネルから顔を上げ、Elle·シャナにお願いした。
「Elle·シャナッ、リベレーターを追わせてちょうだいっ!!」、聞いたElle·シャナは慌てた。
「待てっ、勝手に空間を飛び越えたら運用規定に抵触するっ!! 帰ったら始末書だぞ!」
「リベレーターには……、大切な人が乗っているの。私の兄と、……好きな人がっ!」、エディのElle·シャナを見る目は真剣だった。志門はそれに気が付き、Elle·シャナの肩に手を置いて頷き、黙って了解を促した。ミカも頷いた…
「エディ、お前がこの船のメインのメサイヤ(パイロット)だ、……船を傷つけないでくれよ。」、Elle·シャナが言うとエディはフッと笑みを浮かべ、踵を返すとパーソナルディバイスの格納室へ走った。
船が物理空間へ向け、動き出すとセイルの空間監視センターから警告が入った。
”コラァーッ!! お前ら予定されている空域から出るんじゃないっ!“ とアクエラの声が聞こえた。
「ゴメンッ!! アクエラお姉さん。後で何でもするから…」、志門はそう言って霊子通信を閉じた。
◆
リベレーターを追って物質空間に出た所は土星のアステロイドベルトだった。物質空間の高次階層と現時空間における戦闘は終わっているのかアベルの船、リベレーターは沈黙を保っている。近傍の空間には巨大な円筒形の船とその真横にはアベルの船らしきものが2隻浮かんで見えた。
リベレーターから分離したロケットの噴射炎のようなものが幾つか見え、それは大きな円筒形の船に接近している…
志門たちの乗ったループストライカーはリベレーターからさらに離れた空間に滞宙し、見つからないよう直ぐに霊子波動遮蔽シールドを展開する。船とリンクしたエディの意識によってそれは自動で展開された。
「何をしてるんだろう?」、と志門。エディはパーソナルディバイスの格納室から出て志門たちに言った。
「あの大きいのは多分、敵性異星人の船ね。その横に張り付いているのは……、イギリス防空軍のSR-01〈アークロイヤル〉とSB-02〈ヴァンガード〉級だわ。リベレーターからランチ(内火艇)と戦闘機が発進したから何かの救助作業かしら……」
「エディは随分詳しいのね。」、とミカ。エディは人差し指で自分の頭を指して返す…
「私の脳幹にはニューラリンクシステムが埋め込まれているの、メモリーに統合機動宇宙軍の艦船のデーターも保存されている…」
「便利なシステムだな、霊子を使わない技術ではカインより進んでいるのか…?」、とElle·シャナは少し口惜しそうに言った。
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暫く様子を伺っていた、まさにその時エディは激しい高次意識の干渉を覚えた。それは、まるでリベレーターの中で爆発するような危険な感情のように彼女は感じた。
「これはっ!? 敵性異星人の高次干渉なのっ?」、エディは直ぐにコントロールパネルから船に簡易的なリンクを行い、リベレーターの霊子スキャンを行った。
彼女の頭の中に映し出されたのはリベレーターCICで乗組員がバタバタと倒れていく様子だった。
「いけないっ!!……レナートッ、兄さんっ!!」
エディが大声で叫んだため、志門たちは驚き、一体何が有ったのか問うた。
「何が有ったっ!?」、と志門が聞いている時、デッキの空間に映し出されている敵性異星人の船から幾つもの閃光が走った。その周りからリベレーターの艦載機やランチが離れる様子が分かった。同時にリベレーターも動き出した…
「何か起きたなっ!! イヤな感じがするっ!」、とElle·シャナは声を上げた。
エディは振り向くと、Elle·シャナに自分をリベレーターへ送ってくれと言った。Elle·シャナは目を丸くした…
「リベレーターが敵性異星人の高次干渉を受けたのっ!! 助けに行かないとっ!」
「落ち着いてっ、エディ! 貴方の安全は保証出来るのっ!」、とミカ。その言葉を聞いてエディはウッ…、となった。
(もし、そのまま乗り込んだら自分も高次干渉を受けてしまう………、そうだっ!!)
「ヒヒイロカネの力で自分の意識をリベレーターへ送ってみるっ! 以前、リベレーターに居た時、カインの都市セイルに自分の意識を飛ばした事がある。その逆をやるっ、この船、ループストライカーの性能、波動出力なら実体化に近い強い意識を送る事が出来るはずだわっ!!」
「とにかくやってみようっ!」、と志門。ミカとElle·シャナも頷いた。
エディは再びパーソナルディバイスの格納室へ入った。




