『カインの使者』第五部2章「世界線統合の真実と誓願」
聖エルシアーナは志門たち家族と向き合い話し合う。そこには何故、志門が選ばれたのか…、新しい世界創造へ向けた霊子世界での志門とミカ、果南の誓願が語られる。
果南が新しい世界の礎(犠牲)になる事をなかなか受け入れられない志門。聖エルシアーナは新しい世界が人に及ぼす影響を語り、真実の度を深めてゆく…
『カインの使者』第五部2章「世界線統合の真実と誓願」
「志門、今まで本当にご苦労だった。それとミカ、貴方も……、無事に果南を産んでくれた事に重ねて感謝する。」、そう言うと聖エルシアーナはミカの方を向いて話した。
「ミカ、貴方は私を畏れ、私の創った世界に自分が関与する事に対して畏れを抱き、次元探査計画が成功を得ずに終わる事を望んでいた……、それ故、私は貴方の代で計画を終わらせる。貴方は成功させる、私は確かに貴方にそう伝えた筈だ。……次元探査計画は確かに真理の探究であったが、私が望んでいるのはカインとアベルの和解と、この物質世界の恒久的安寧なのだ。だから私は貴方と志門を逢わせた。」
聖エルシアーナの話にミカは少し混乱した。
「でも、私がそう思ったのは現在の世界線で行われた次元探査計画です。志門との出会いは前の世界線ですよ?」、とミカ。
「ミカ、貴方は今、物質の身体だ。次元の齟齬が有ってもそれは仕方の無い事だと思う。私に時間の前後は無い、始まりも終も私自身なのだから。」、聖エルシアーナが言うと志門は尋ねた。
「何で僕だったんですか? 他にもたくさん居たと思うけど。」
「志門、貴方もミカと同じように次元の齟齬を持っている。私は全てを通して貴方を観た、ミカと対を成すのは貴方の他に誰が居ろうかっ!」
「……僕は物理の事はよく解りません、鉱物学者なので…。前の世界線では色々な……僕じゃない世界線があってもおかしくない……… えっ!? チョッと待てよっ! まさか……その為だったのかっ!!」、と志門は何かに気が付く。
「全ての世界線を破壊して現在の世界線と置き換わったのは、誰か別の人と置き換わるのを無くす為だったとっ?!」、と驚くミカ。聖エルシアーナは黙って頷いた。
「カインはアベルと争いを避けるため月へ移り住んだ。だが、いづれ彼等が攻撃して来る事は分かっていたのだ。長い世紀に渡り続けられてきた次元探査計画で得られた科学的ノウハウは期せずして新しい世界線創造に用いられた。アベルとカインの魂で創造する世界線は平和なものになると信じていた筈だ……、カインの全員がそう思った。だが、そこには科学的な論証が完全に抜け落ちていた。聖典の信望は人の在り方として正しい。人は完全さを維持しているにも関わらず争いが絶えない……。何が原因だったのか、志門、ミカ、お前たちには解るか。」
「………………」、二人は黙った。
「今は解らなくとも良い、何れその時が来れば知る事になる。話を元に戻そう、……貴方たちを選んだのは貴方たち自身と果南の魂だ。魂(霊子の記憶)は全てを知っている。誕生と死を超えて成された誓願なのだ。」、と聖エルシアーナは言う。
「その誓願を僕は自分が生まれる前からしていた…」、と志門は考えるように呟いた。
ミカの横に居た果南は悟ったように志門に言った。
「パパやママはまだ物質的な記憶に引っ張られているから分からないかも知れないけど、私はちゃんと約束したのよ。」、そう言って果南は微笑んだ。そして、志門に抱きついて言う…
「必ず私を産んでねって私、パパに言ったよね…あの時。ママもヤーワァが全てを用意して下さったっ、て地上に降りたとき言ってたでしょ。」、と果南。志門はあの時のことを思い出し、思わず涙が頬を伝った。ミカも志門との初めての夜を思い出す…
「志門、ミカ、貴方たちの繋がりはこれで確定した。しかし、これだけでは世界は変わらない。志門、貴方も今の世界は自分が望むものではないと思っておろう…、ミカも平和な日常を送りたい事も分かっている。貴方たちの思いは貴重なものだ。」、そう言うと聖エルシアーナは果南を呼んだ。果南は前に進み出る…
「さあ、果南。二人の前で貴方がこの世界で行う事を明かしなさい。」
聖エルシアーナの声で果南は二人に振り返り、志門とミカにはっきり次の事を伝えた。
「私は新しく創造される世界の方向性を定めるために生まれました。時が来れば霊子と物質の境界層を無くします、その時、この方と私は一つになって二度と争いの無い世界を創る事が出来ます。」、果南の言葉に志門は大きく動揺した。そして片手を上げて果南を制止した…
「チョッと待ってよ、果南っ! それは自分を犠牲にするって言う事なのかっ!?」、志門が言うとミカもハッとした顔になった。志門は続けて言う…
「聖エルシアーナッ! 果南を新しい世界の人柱にするんですかっ!! 果南っ、そうなのかっ!?」
志門の憤りにも似た言葉に聖エルシアーナは目を閉じた。果南もまた、悲しみと困惑の表情を浮かべる…
「志門、ミカ……、貴方たちは私の前で果南の魂と共に世界を変えると誓願したのだ。そして私自身、もはや物質世界に取り残された人間を見過ごす事が出来なかった。」、と聖エルシアーナは言う。
「パパ、ママ……、この方の言う事は確かよ。」、と果南。だが、志門は疑問を提起する。
「僕は物質の世界で生まれた……、僕の魂が霊子世界に居たんですか? 霊子と物質の間には境界層が在るのに…」、志門の隣りに居たミカは戸惑いながらも前に居る二人の言葉は確かだと感じた。既に霊子の魂に覚醒していた彼女は言葉として表せなかったが魂で実感した。
「志門、貴方……、この方が言われている事は本当よ。上手く言えないけど……、前の世界線で私は霊子界のレベル9まで行った。貴方はその時、果南の声を聞いたのよ。」、とミカは志門に言った。
しかし志門は問題はそこじゃない、というふうに聖エルシアーナに声を上げた…
「僕とミカはこの世界を創るために一回死んだっ、始くんだって此処へ来るのに片道キップじゃないかっ! 何でいつも犠牲が要るんだっ!! 果南は大きくなったって僕たちはまだ5年しか一緒に暮らして無いんだっ、僕の大切な娘だっ!!」、志門は言うと果南に走り寄り抱きしめた。
「イヤだっ、別れるなんてっ!! 果南っ…果南、大切な娘…」、とうとう志門は泣き出した。ミカもその場に屈み込み、手で顔を覆って嗚咽を漏らした。魂で理解していたが物質(身体)の感情はとても強かった。
果南も別れを思うと物質の感情を抑えられず涙を溢した。志門に固く抱かれたまま、果南は志門の耳元で次のように言った。
「パパ……、今の私達みたいに悲しい思いで別れないといけなかった人達が沢山居るの、……私が新しい世界の礎になれば、その人達はまた会えるのよ。パパはそんな世界を望んでたんじゃないの…」、そう言って果南は志門の手を優しく解いた。
聖エルシアーナは志門に言った。
「かつて前の世界線で志門、お前がミカ(ループストライカー)に乗り込もうとした時、お前の両親は今のお前のようだった……」
志門は彼女の言葉にハッと気が付いた。
(僕がループストライカーに乗ろうとした時、父さんや母さんも今の僕と同じように……、僕は親の気持ちを本当に理解したんだ。)、志門は涙で濡れた顔を腕でゴシッと拭った。
「果南、……別れた人がまた会えるってどういう事なの?」、とミカ。それに対して聖エルシアーナが果南に代わって答えた。
「この空間の境界層が無くなれば霊子世界と物質世界は完全に溶け合う。今、此処でも意識の物質化は疎らだが起きている。これが境界層を無くした場合、急速に、即時に起きる。壊れた物は完全に元に戻り、志門が……、もっとも望んでいる、人が死なない事と死者の復活なのだ。」
「人が死なない、……復活っ!?」、と呟く志門。




