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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第五部第1章[ アベル接触編 ]
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『カインの使者』第五部1章「予感」

クライシストの空間監視センターから志門たちのいる部屋へ戻ったエディとイズハヤ。大人に成長した志門の娘、果南を見た時、エディは高次意識で自分と同じ未来を感じる。

最高評議会では緊急会議の閉会後、議長のエルメラは政務執行局サンヘドリンのエステルを呼び出し、アベルとの交渉準備を進めるよう指示を出す。聖エルシアーナとロタは閉会後、志門たちの所へ飛ぶが、その途中ロタは霊子と物質の境界層を取り除いた後の世界の様子を聞く。それは大勢の救われるものと、悲しみに沈む者が在る…、という事だった。

志門たちの所へ着いた聖エルシアーナは志門の家族の者以外は席を外させる。


『カインの使者』第五部1章「予感」




気が付いた志門はエディに向けて問うた…


「何か有ったの、エディ?」、志門の言葉に暗い表情を浮かべる彼女だったが、志門の隣にいる果南を見つけるとエッ!?という表情に変わった。


「志門、その人は……、誰なの?」

「そうか…、エディは果南の成人になるところを見ていなかったんだな、僕の娘だよ。」、と志門は返した。なお理解できないエディは混乱して次のように言った。


「ウッ、ウウーン?……志門は自分が小さい時に隠し子を持っていたって事? 小さい頃から変態だったの?」


「だからなんでそう思うの!? ……此処は霊子の空間なんだ、地上に居たときみたいに積算するような考え方は当てはまらないよ。」私門は困った顔をした。



志門とエディにイズハヤが割って入った。


「ここで急に大きくなったとっ!? まるで迦具夜比売命かぐやひめのみことのようじゃないか!」、イズハヤの言葉に望美は尋ねた。

「イズハヤは見たこと有るの?」

「まだその頃は私も眠りについてなかったからな。都でそういう事が有ったのは聞いている。その頃はまだ高天原(霊子世界)の入口が完全には閉じられていなかったから、恐らくは何かの調査か実験で来ていたのだろう…」、とイズハヤは答えた。望美の目は好奇心に輝いた。


「新説かぐや姫ね!……地上でかぐや姫が急成長したって事は当時の空間が此処と同じか似たような状態だったって裏付けられるわ。」、望美がそう言うと志門が中へ入り、まあ、それは…、という感じでエディの方を向き話を戻す。


「娘が急に大きくなったのは事実だ。ところでエディ、何があったの?」、志門の言葉にエディはアッという感じで大事なことを思い出す…


「統合機動宇宙軍の艦船がこの空間へ入ったっ!!」、と彼女は声を上げた。


それを聞いた志門とミカ、Elle·シャナの表情はこわばった…

「アベルの軌道プラットフォームッ!! あれが追ってきたのかっ!?」、と志門の声は大きくなった。来門と静香はエディが言った統合機動宇宙軍の名前を聞いて、前に自宅を訪れたエディの兄、R·ランドーから身分証を見せてもらった時の事を思い出した。


「彼の身分証には確か…、いや間違いなく統合機動宇宙軍と書いてあった。船の名前は”Liberator(リベレーター“だったかな…」


「波動で確認したけど空間へ入って来たのは別の艦種です。私のニューラリンクのメモリーの中には有りませんでした。」、とエディ。


「こっちに攻めてくるのかっ?」、と来門は聞いた。


「いえ、現れた艦船は高次元へ向けて指向性の攻撃波動を数回撃った後、空間から消えました。」、そう言うとエディは果南に近づき互いに目を見つめた。


「私の高次意識が……、果南ちゃんは……大きな使命を与えられているのね。……だけど…」、とエディ。


「だけど? 何か果南にあるの?!」、とミカは聞いた。


「……何でもないの、私に似たところが有るかなって。」

(私の高次意識が感じる……この子の未来に待つもの、私自身も…)、エディは大きくなった果南を見た時、自身の未来と共鳴するような感じを覚えた。



    

      ◆




最高評議会ケルブとセラフィムでは聖エルシアーナをトップに全ての議長クラス、評議委員はそれぞれが受け持つ役職を解かれた。いや、彼ら自らそれを放棄した。全てが明らかになった今、カインの進むべき方向性は聖エルシアーナによって定められていた。だが、今後起こりうる事に対し、エルメラ以下、他の評議委員たちの合意で評議会の形は維持する事が聖エルシアーナへ上申された。聖エルシアーナは既に今後、起こるであろう事は分かっていたので了承した。



議会が解散した後、議長室に戻ったエルメラは直ぐに次の行動へ移った。既にエステル、アクエラらからアベルの船がセイルの近くに現れた事を聞いていた。


彼女はエステルに来るよう霊子感応で伝えた。



エルメラが執務台の前に座ると、暫くしてエステルが現れた。


「エステル、これからカインの進むべき方向性を明確に伝える。我々カインは地上へ戻る、聖エルシアーナは霊子と物質の境界層を破壊される……、そうなると霊子世界は隔世された次元ではなくなるのだ。アベルの戦闘艦が我々の近くに現れた。これの意味するところはアベルとの交渉も視野に入れなければならないという事だ。……数十世紀に渡り平和を維持し続けてきた我々カインは再びアベルと向き合わなければならない。聖エルシアーナが目的を遂行した後は争い自体が無くなる、いや、不可能になる。それが成されるまでの間がカインにとって試練の時となるだろう……、エステルよっ、サンヘドリンはアベル対応の準備をお願いする。」


エステルは目を細め、遠くを見るように、そしてか細い声で返す…


「エルメラ議長、……その時が来たんですね。」


「ウムッ……、それとクライシストへ動ける船を確保しておくように伝えてくれ。」、エルメラが言うとエステルは右手拳を左肩に着け敬意を表すと踵を返す。彼女が部屋を去る前にエルメラは声をかける…


「すまない、苦労を掛ける……エステル。」




  *******************




一方でロタと聖エルシアーナは志門たちの居る部屋へ飛んでいた。ロタは聖エルシアーナの側に居たが強力な霊子バリアで必要以上には近寄れなかった。それに気が付いた聖エルシアーナは彼女に理由を告げる。


「貴方を阻害しているのではない。もし、私の体に直接触れれば貴方の体は蒸発してしまうだろう、貴方の身体のためだ。」


「貴方様の身体はどうやって保っておられるのですか? 依代のアダムαも物質的に私と変わりありませんが…」、とロタは尋ねた。


「依代の崩壊を一時的に止めているのだ。私の目的が完遂されれば依代も消える。」

「目的の完遂にはどのような形で行われるのでしょうか?」


「……言ってもよいが、貴方は他の誰にも言わないと約束出来るだろうか。私との約束はそのまま魂の契約となる、契約を破ればロタ、貴方は死ぬ。先に言う、私の前で誓いを立ててはならない、他の者もだ、それはいづれ分かる事なのだ。」、聖エルシアーナがそう言うと、ロタは自分が出過ぎたのを悔いた。


その後、聖エルシアーナはただ一言だけ言う…


「私の目的の完遂で多くの者は救われる。だが、悲しみに沈む者が在る…」



目の前が開け、志門たちのいる部屋に着いた。



聖エルシアーナは先ず部屋に居るエディとElle·シャナをクライシストへ飛ぶように指示した。彼女はこの二人にクライシストから呼び出しがある事を分かっていた。二人は指示通り部屋から消えた。


聖エルシアーナは志門とミカ、果南の他は隣の始たちの居住スペースへ行くように指示した。皆、隣のスペースへ入って行ったが両親の来門と静香は立ち止まり、志門たちを見たあとスペースの遮蔽幕の中へ消えて行った。


この状況を見て志門は少し緊張した。明らかに自分たち家族に対して何かの通告、他の者に聞かれてはならない何かを自分は知る事になる、と彼は思ったからだ。

対し、ミカは霊子世界の最高権威と直々に、また特別に話が出来る事に緊張した。それは志門とは真逆の受け止め方だったのかも知れない。



聖エルシアーナはゆっくりと、また優しく志門に話し出した。





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