『カインの使者』第四部 終章「アベルの攻撃と果南の秘密」
クライシストの空間監視センターではアベルの船が戦闘態勢を取っている事を感知していた。イズハヤと共にセンターに来ていたエディは、この船の事を確かめようとアクエラに自分と監視システムを繋ぐように申し出る。エディはその船の発している波動で船の大きさと乗組員の数を確認するが、この中に以前、自分が乗っていた統合機動宇宙軍の宇宙空母SCV-01の提督、JC·ロバートソンの波動の存在を確認する…
一方、自分たちの部屋に戻った志門たちは23歳くらいの成人体になった果南と向き合っていた。大きくなった果南と話し、部屋の空気が和んできた頃、エディとイズハヤが部屋に戻って来る。
『カインの使者』第四部 終章「アベルの攻撃と果南の秘密」
「直ちにレギオン(戦闘歩兵)を都市内へ配置っ! 緊急警報を発信せよっ!!」、とエステル。しかしアクエラはそれは出来ないと言った。
「降霊の件でサンヘドリンの機構は最高評議会監視委員によって停止させられていますっ!!」
「クソッ、なんて事だっ!」、とエステルは叫ぶ。その後、エステルは最高評議会の議長エルメラと副議長メトセラへ直接霊子感応で話し掛けるがメトセラの応答は無かった。議長のエルメラの声が返って来た…
”何事かっ!?“
”アベルの船がセイルの近くに現れました、攻撃性波動を確認しています! エルメラ議長、サンヘドリンの機構停止処分を解除してくださいっ、対応が出来ないっ!!“
”エステルッ、評議会は人的齟齬でもはや機能していないっ、今から監視委員を説得して解除キーを発信させるっ、暫く待てっ!“
(暫く待っていたらやられてしまうぞっ!!)、とエステルは奥歯を噛んだ。
「アクエラッ、今エルメラ議長が対応している。時間が掛かるかもしれんっ……、現れた船の形状は波動から解るかっ!?」、エステルが言うとアクエラは空間監視員のベッドへ走り船の形状の報告をさせた。
「細かい形状は分かりませんが、そう大きな船ではないようです、メサイヤ(パイロット)その他1名を感知……、アッ! 攻撃態勢に入ったっ!!」
「目標はどこに向いているっ!?」、とアクエラは問うた。
「指向性波動……、物理次元の高位階層(高次元)に向いていますっ!!」
このやり取りを聴いていたエディは自分にも捜索監視システムと繋ぐよう申し出た。
「アクエラさん、私は以前、地球の宇宙空母に乗っていました。出している波動で艦種が解るかも知れない、私をシステムに繋いでください!」
アクエラはエステルの方を向いた。彼女は急げっ!とエディを指し頷く。
アクエラは急いでエディを操作ベッドに横にならせシステム接続のセットアップを行った。
少しの間を置いてエディの意識の中に、恐らく地球の統合機動宇宙軍の艦船と思われる波動が入って来た。彼女はその波動を元に精密に形状と大きさを割り出した。
「これは分離体? 本体は地上に居るっ?! 形状は葉巻型、潜水艦のようなセイル(艦橋)が確認出来る……、大きさは…全長173、縦幅21.3……、私のニューラリンクのメモリーに該当する艦は無い、新型なのっ?」、次にエディはパイロットと思われる波動を調べた。
「乗組員は……たった二人っ!? 船とリンクしているパイロットは女性、もう一人は指揮官のようで男性……アッ!!」、エディは男性の波動とリンクして思わず声を上げた。
(ロバートソン提督だっ!!)
「なんだっ?」、とアクエラはエディに聞いた。
「……いえ、何でも。多分、勘違いだと…」
アクエラは鋭い目でエディを見るとシステムの接続を解いた。
「……もういい、必要な情報は得た。」、そう言ってエディをベットから降ろさせた。
少し離れた所に居たエステルはサンヘドリンの機構解除キーの発信を霊子感応で感知し顔を上げた。
「サンヘドリンの機構ロックが解除されたっ! 都市内警戒発令、レギオンを展開配置させよっ!!」、とエステルは叫んだ。
◆
収監室から出た志門たちは始らと一緒にいた部屋へ戻され、聖エルシアーナはロタを伴って最高評議会ケルブとセラフィムへ飛んだ。そこには評議会監視委員を退け、サンヘドリンの機構を回復させた議長エルメラが今度は他の評議委員たちの追及を受けていた。評議会は混乱し、もはやカインの最高意思決定機関の体を成していなかった。
エルメラと評議委員の喧騒の中、聖エルシアーナは議会の中に現れた。
「最高評議会へクライシスト専属律法義委員責任者、ロタ·Elle·ファトが申し上げるっ! 私たちカインは霊子世界の最深層部、第10階層より世界創造の魂の降霊を行い、その方を迎えたのであるっ!!」、最高階層の創造者が来た以上、ロタはもう内輪に対して敬語は使わなかった。聖エルシアーナは前に進み出て議長壇に居たエルメラに言った。
「貴方がどれほど同族に対して心を砕いてきたか私は知っている。私が貴方の前に立つ、下がって休みなさい。」
議長壇を囲むように座っている評議委員たちは其々に呟き聖エルシアーナを訝しんだ。しかし、彼女がエルメラと入れ替わって壇に着くと会議場は波を打つように静かになった。それは彼女から形容しがたい威厳を放っていたからだった。皆、声を上げる事さえ畏れた。
「私は霊子世界と物質世界を作った源である。この依代、聖エルシアーナを通して貴方がたに分かる言葉で私の思いを伝えなければならない。カインはアベルを殺めた後、北の地へ追いやられ、遂に月に逃れる事となった。しかし、カインはそのような中でも創造の淵源に対する信仰と探求を諦めなかった…、私は貴方がたカインに対して霊子世界の入口を特別に開いてきた。私の思いは既に此処に居る霊子の魂を持つ律法義委員、ロタには伝えた。私は今から貴方がたへその思いを伝える、……………………………………」
強い霊子感応で聖エルシアーナの思いは評議委員たちの意識の中に入り続けた……
全員が手を合わせ額に近づけ祈りの形を取った。だが、聖エルシアーナが送り込んで来る思いに耐え切れなかった者はその場で気を失って机に伏すか、或いは激しく混乱した。議長のエルメラでさえ伝わってくる真実に対し受け入れる気持ちが追いつかないほどだった…
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一方、自分たちの部屋に戻った志門は自分の娘、果南と向き合っていた…
自分の前に立つ娘、果南にどう向き合って良いのか志門とミカは悩んだ。また一緒に居た両親やマーナ、始たちも同じ思いだった。目の前に立っていたのは22か23歳くらいになった果南だったからだ。聖エルシアーナは果南に十分に動ける身体にならせた後、ロタを連れて部屋から消えたので、果南と聖エルシアーナの関係は聞けなかった。
向かい合って黙っている志門に果南は彼の手を取り自分の胸に当てると、パパッ…呟くように言うと志門の胸に寄り添った。志門は彼女の背中に手を回し優しく抱き寄せた。
(…果南の匂い、間違いない。大きくなったけど僕の娘なんだ。)、と志門は思った。やんわり抱いていた手に力が入り果南を強く抱きしめた。
「ああっ、果南……、果南、僕とミカの娘…」
「パパ、力入り過ぎ…」、そう言いつつ、果南は志門の胸の中で幸せそうな表情を浮かべた。
そうしているとミカが志門の後ろから頭を殴った。
「痛っ! 何だよ、いきなり!?」
「あなたっ、自分の娘にまで手を出すのかっ!」、とミカは表情を暗くした。隣りに居た来門は、まあまあっ…といった感じでミカに言う。
「自分の子供は可愛いものだよ、女の子なら尚更だよ、父親にとっては…」、そう言って来門は果南に近づき次の事を聞いてみた。
「果南はどうやって世界を変えるんだい、エルシアーナさんと何か話したのかい?」
果南は答えた。
「私はあの方の直ぐ下の……、直系の系譜なの。パパの子供になるように言われてたの。私は新しい世界の方向性になるんだって。」
聞いていた全員、なんの事か理解できなかった。始と望美、ネフェリーは果南に近づいた。望美は果南の頬に手をやりジッと見た。
「なんて言ったらいいんだろう……、形容出来ないくらい綺麗な子。本当に教授の子ですか?」、志門はムスッとして望美に返す。
「望美さんって結構キツいこと言うんだ。」
「本当、綺麗な子ですよ。もし許されるなら俺はこの子と結婚したいな。」、始が言うと志門は、それはヤメろっ!と言ったので周りの者は吹いた。ネフェリーも近づいて大きくなった果南の容貌を確かめた。
「位の高い大天使ではないのか…、いや、見た目もそうだが魂だ。私には強く感じるところが有る…」、とネフェリー。
「果南も自称直系って言ってるしね、有りかも…」、と志門。
「私と志門の子も、果南ちゃんと同じくらい綺麗になるかな…」、とマーナはミカを伺いつつ果南のことを褒めた。
そんな感じで雰囲気が和んできた頃、エディとイズハヤが部屋に戻って来た。




