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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第四部 [ 霊子降霊編]
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『カインの使者』第四部第16章「聖典の真実」

人の完全性を語る聖エルシアーナに畏れながら疑義を申し立てるロタ。聖エルシアーナは聖典の真実を部屋にいる全員に語り始める。それはその場にいた全員に大きな衝撃を与える。人が完全性を保ちながらも多くの困難を経験するのは遥か太古に霊子世界と物質世界を分けた事に起因していた。

聖エルシアーナが真実を語る中、アベルの船が都市セイルの同位空間に現れる…


『カインの使者』第四部第16章「聖典の真実」




「なんか俺が聞いてた話と違う……」、と始と志門はボソッた。しかし、この事で一番驚いたのは律法義委員のクライシスト専属責任者であるロタ本人だった。


「貴方様のお言葉ゆえ否定は致しかねますが……アダムとエバの件以降、人類の困難は度を増し続けています。また、特に人の寿命は地上で十分の一にまで短くなっています。」、とロタは言葉を選びながら聖エルシアーナに申し出た。聞いた聖エルシアーナは困った顔をした…


「霊子の魂を持つロタよ、その手に持っている聖典には罪で人の寿命が短くなったと……書いてあるのか? 私は先に言った、人の罪ではないと。」


「いえっ、…直接そう記述されている訳ではありません。」、とロタ。

「その聖典をこちらによこしなさい。」、聖エルシアーナが言うと彼女の取り巻きに立っていた律法義委員の一人が進み出てロタから聖典を受け取ると聖エルシアーナの前に差し出した。彼女はそれを直接受け取るのではなく、聖典を律法義委員の手から浮かせ引き寄せた…、顔の前で聖典を浮かせ、バララーッとページは勝手に捲れた。


最後のページが捲られ、台紙が綴じられた後、聖典は燃える炭のようにオレンジ色になり、まさに黒い炭となって床に落ちた。


聖エルシアーナは話を最初に戻した。


「人は罪を犯しておらず完全さを保っている。では何故、人の困難は起きるのか。生きるために額に汗を滲ませ、カインとアベルのような殺害が起きたのか……、その真実を私自身が話す。……その前に。」、そう言って聖エルシアーナはイズハヤとエディ、部屋の離れた所にいて何も喋らなかったエステルとアクエラに目を向け霊子感応で伝えた。



”この空間に迫る物がある、貴方たちは対応せよっ“



聞いた者はンッ!と言う感じでその場から消えると彼女は再び前を向く…


「霊子世界は意識の生命体で構成される。先に言って置くが意識とは情報ではない。意識とは方向性そのものだ。その方向性が向き合う時に発生するものが情報なのだ。この世界の方向性を意識体と言う。」、ここで志門は臆せず質問した。


「プレアデスですか?」


「そうだ。無数の方向性を持つ……、そこのミカとシャナは”戦い“の方向性の系譜から派生した者、ロタ、貴方は”探求“の系譜の者だ。これらの方向性は全て私から派生している。霊子世界が出来た後、物質で形作られた世界を私は特別に創った。これは先に言ったように私自身を知るためだ、様々な方向性を物質で出来た人間に凝縮した。これはアベルたちの自動機械(AI)と同じように……。私は自身の方向性に似せて人を形作ったように人も自身に似せて物質を重ね合わせる。次元の違う話で何故おなじ方向性が見えるのか……、私は人間ができた時、大変よく出来た為、それを愛したのだ。アベルの自動機械を作った者も同じ思いだ。」


「可能性を知りたかったのですか?」、と望美は聞いた。聖エルシアーナは、私自身を知るっ!と言って返した。


「話が逸れたが、全てのものは私の方向性に沿って進めば正しく美しいものになる予定だった……、人が作られた後、それを監視していた意識体が余りの出来の良さに嫉妬し、何故私たちを人のように創らなかったのかと言い出した。それら意識体は私の方向性から逸脱して独立して動き出したのだ。”欲“の為に!」


彼女の言葉を聞いていたミカは成る程なっ!と思った。


「薬は病気を治すためだけど、これは毒を転じて薬、治そうと思わないなら悪用にも使えるって事ね。これの分岐点が”愛“が有るかどうかなんだ。」、ミカの言葉を聞いた志門は久しぶりに彼女の所帯じみた例えにフウーンッと言う感じになった。


「ミカ、どこでそんな事覚えて来たの?」、と志門。

「スーパーの薬局ブースの薬剤師さんが言ってた…」、ミカがそう言うと志門は自分がやってしまった事(マーナと子供を作った事)に痛みを覚えた。


(地上の生活なら自分は万死に値するな…)



聖エルシアーナは言葉を続けた…


「彼等、私の方向性を逸脱した反対者たちが矛先を向けたのは人間だった。彼等は人の形を模して地上へ降り、人間と交わってその系譜を破壊しようと企てた。人間と彼等の間に出来た子供は……」、そう言いかけると始の隣に座り込んでいたネフェリーへ視線を向けた。


「人間とは構造が異なる。霊子の要素が物質に対して大きい……。ここからが何故、私が霊子と物質との境界層を作らなければならなかったのか、人の困難が増大したのかについて話す。当時の宇宙は高密度の霊子の中に物質が漂う…、例えで言うならば電波を用いて人は通信や情報の交換を行う。その電波密度は物質に対して非常に小さなものだ、この逆を考えてくれ。高密度の電子、光子の中に物質が浮かぶ感じを…、それと同じように高密度の霊子の中に物質が浮かんでいた。人間は自分の思うところの物を即座に物質化出来た。これを意識体は利用し人の形を整えたが、そのうち意識の変化で形は変化した。これが聖典に伝えられる巨人たちの事だ。地上は混乱した! 更に追い打ちを掛けたのは霊子世界で私から離反する者が多く地上へ降りようとした……、私は私に従う者たちに彼等を制止させようとしたが争いとなった。霊子世界と物質の世界の両方で私と反対者たちの戦争が広がった。私は彼等反対者たちを追い詰め、物質世界と霊子世界の往来が出来ないようにした。これは霊子世界で反対者へ迎合した者を下野させないためでもあったが、同時に反対者と戦っていた多くの仲間が物質世界に取り残されてしまったのだ……、これらの者と反対者たちは地上に固定されるか物質の違う次元(高次元)に留まった。」



聞いていたロタは息を呑んだ。


(聖典に記述は限定的なのは知っていた。だがっ……、これは全く話が違うっ!!)、そう思った彼女は聖エルシアーナに尋ねた。


「人の困難は、いつ始まったのですっ?! 何故、聖典の内容が貴方様の言葉とこうも違っているのですか。」


「……人の困難は私が霊子世界と物質世界を分ける為に境界層を作った時から始まった。霊子の密度が極端に薄くなった物質世界では、人が思うものを実現させる為には過大な労働が必要とされた。また、それによる様々な問題が人間の死を加速し始めた……、最初に私が創った地上では思考が即時に身体の不調を取り除くため死は無かったのだ……、世界を分離した後、人は身体は不調を積み上げるしかなかった、その先で待っているのは”死“だ。」


志門とミカの後ろに居たマーナはカインの技術部門、クライシストの立場から聖エルシアーナの説明を考察した……


(…成る程、私たちが纏っている霊子金属のボディスーツも全く同じ原理で機能している。これが物理空間にまで作用を及ぼすとはどのくらいのエネルギー量なんだっ!?)


聖エルシアーナは、さて……、という感じで果南の方を向いた。

「私はこの世界を元の形に戻そうと思う。だが、それだけでは足りない。元の世界でも戦争は起きたのだから…。新しく創る世界には争いを起こせない為の強力な指向性がなければならない。力の示す方向性は使うものに依って本来の目的を達しない。私はその為に志門とミカの間に出来る子供に私に近しい魂を送った……、かつて争っていたアベルとカインの間に生まれた者でなければ私の霊(分け御霊)は入らなかったのだ。私はカインのミカを地上のアベル、風早志門と会わせたのだ…」


果南は嬉しそうに聖エルシアーナの元にタッタッタッ…、と走り寄った。お互いに視線を合わせると聖エルシアーナは果南に言う…


「もうよい、貴方が動ける姿になりなさい…」




      ◆




クライシストに戻ったエステルとアクエラらは空間監視センターに着くと、監視員から直ぐに報告が有った。


「この次元空間内にアベルの船を確認しましたっ!! 波動は大きくマイナスッ、攻撃性波動を準備していますっ!」、と監視員は叫んだ。


「霊子感応遮断シールドは展開しているかっ!?」、とアクエラが言うと監視員は既にっ!と返す…


「とうとう此処まで来たか、アベル…」、とエステルは吐くように言った。






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