『カインの使者』第四部第14章「血の罪の代価」
収監された部屋で隣の部屋の監視執行室に向けて喚き散らすミカとElle·シャナ。
隣の部屋では監視委員と副議長のメトセラによって議長のエルメラが連れて来られ、まさに刑が執行されようとしていた。エルメラの嘆願と警告を無視するメトセラだったが、刑の執行官は刑の執行を拒絶し、席から床に倒れるともがき苦しみ出す。執行官の身体が変態してゆく、その様子を見ていたメトセラも余りの驚きと恐怖で気を失う。その直後、部屋に入ってきた志門たちはミカたちの無事を確認し急ぎ隣の収監室へ走る…
『カインの使者』第四部第14章「血の罪の代価」
志門たちがミカを捜している時、最高評議会の審問室で議長エルメラと副議長メトセラは監視委員を挟んで向き合っていた…
エルメラは今回の件を認めながらも、Elleスピリットの処断という、今までカインでは無かった決定について激しく警告を発した。
「……そもそも、カインでは長い歴史の中で罪に預かる者は居なかった! いや、居たとしても石打で死に処せられた者は居ない。ましてElleスピリットを持つ者の石打ちなど聞いたこともないっ! Elleスピリットは霊子世界から承認を得て降りてきてもらった者だ、次元探査計画という我々人間の計画の為にだ。それを処断する事は霊子世界の恩を仇で返す行為だっ!! これは災いと大きな罪を被る事になる! 考え直せっ、メトセラッ!!」
必死に訴えるエルメラに対し、メトセラは足を組んでフフンッといった感じで彼女に返す…
「これは評議会の律法なのだ。私の意思ではないっ! 律法はヤーウァが作ったものだ。Elleスピリットが処断されるなら、それはヤーウァの意に沿ったものだと解釈する。それだけの罪を犯した、と言う事だ。」
(ダメだ、こいつに何を言っても分からない…)、とエルメラは膝に置いた拳を強く握りしめた。
「エルメラ、お前の処遇は議長特権により処断は免れる。だがっ、処断される者の死を見届ける義務が有る……、それを見て自身を反省するのだな、他の者たちの”血“で。」、そう言うとメトセラは口元を緩ませた。
「……今、少し笑ったな。人の死を前に……、メトセラ、お前は本当にカインの最高意思決定機関の評議委員なのかっ?! お前の思いはハーシュタン(ハーサッタン:悪魔、または反対者)だっ!!」、とエルメラは叫んだ。
「……言い開きはそれだけか? 監視委員、エルメラを刑場へ連れてゆけっ!!」、そう言ってメトセラは彼女を拘束し、席を立たせて部屋から出した。
◆
刑執行室へ移されたミカとElle·シャナはエステルとアクエラ、ロタを除き、部屋を監視している者にヤジを飛ばしていた。
「コラァーッ、ウマシカァーッ(馬鹿ぁーっ)! 此処から出せーッ!! 言う事を聞かないと部屋をブチ壊すぞっ!!」、と喚くミカ。Elle·シャナも意味不明な言葉で罵りながら壁を叩いたり蹴ったりしたが部屋全体に張られた強力な霊子感応バリヤでその力は抑えられていた。
ミカは何回も拳で壁を叩いたので手は傷だらけになり血が垂れていた。
(ダメだ……、ネックレスの霊子物質を取られていなければこんな壁くらい…、クソッ! こんな所で死んでたまるかっ!!)、とミカは思う…
一方、Elle·シャナは自分がやりたい事もせずに処断される事を罵った。
「私はまだ子供も産んでないんだぞっ!! 私は志門とするんだぁーっ!! 私に子供を産ませろぉーっ!!」
部屋の隅で床に腰を落としていたエステルとアクエラは互いに寄り添い、呟くように話をしていた。
「すみません……、私のせいで。エステル長官…」、アクエラは自分のひざに顔を埋め謝罪する。
「むしろ、お前まで巻き込んでしまった私が……、私一人が責を負うべきなんだ。皆を巻き込んだのは私だ…」、と横に座った彼女は返した。
部屋の中央にはロタが正座し、ひたすらに聖典を詠唱し祈りを捧げていた。収監された時、聖典は没収されなかった。
「ヤーワァ、どうか私達を猛獣の牙からお救い下さい……、猛々しい獣を貴方が抑えられますように…、私達の行いに於いて裁かれますように…」、ロタが祈っている時、霊子感応で刑の執行が始まることが各人に告げられた。
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ミカたちが収監されている部屋に隣接する刑の執行室では議長のエルメラが連れて来られた。空間に投影された収監室の全裸の五人を見てエルメラは副議長のメトセラと刑の執行官へ嘆願した。
「お願いだっ、やめてくれっ!! メトセラ、私が罪を肩代わりする、五人を生かしてくれっ!」、そして執行官に対しても声を上げた。
「その手を血の罪で汚すなっ!! 災いは自身に降り懸かるぞっ! その席から離れよっ!!」、メトセラの激しくも真実な言葉に執行官は身体が強張り、額から汗を垂らして狼狽えた。そしてメトセラへ嘆願する…
「副議長、私は今まで人を死なすような刑の執行は有りませんでした。私が何故、血の罪を負わなければならないのですか……、私はやりたくありませんっ!!」
「お前にはヤーワァの信仰がないのかっ!? 聖典においても殺らなければ罪になる事が有るのだっ! これは律法に基づくものだっ!! 」、とメトセラは激しく苛立った。それを聞いた執行官は突然、手で胸を押さえ席から崩れ落ちると苦しそうに身体を痙攣させ始めた。
エルメラは執行官に駆け寄り様子を見た。すると執行官の身体は歪な形に変化しようとしていた。顔には血管のような黒い筋が幾つも現れ、それは首から下に伸びてゆく。また身体の関節や節々が固くなり角のように尖った部分が霊子金属のボディスーツを突き破った……。それを目の当たりにしたエルメラは絶句した。
(バカなっ!!、霊子金属のボディスーツが裂けるなんてっ!?……)
「いやだっ、嫌だぁーっ!! 誰か助けてくれえぇーっ!」、と叫ぶ執行官。
執行室内はパニックになり、同行していた監視委員たちは直ちに執行官を囲いメディカルへ飛んだ。部屋にはエルメラとメトセラが残った。
メトセラは激しく動揺し壁に後ずさりして腰を床に落とす。ハアッハアッと呼吸が荒くなった…
「……此処では思いが自身に実体化する、……お前も今、見た筈だ、…メトセラ、考え直せ。」、とエルメラは言ったが、彼女は目を大きく見開いたまま、ガクッと頭を垂れて死んだようになった。
そんな中、志門たちが執行室の壁を通り抜けて入って来た。エルメラを見つけた志門は床に崩れたメトセラを見て何が有ったか彼女に聞いた。
「この部屋は? エルメラ議長、何が有ったんですっ!? ミカたちは無事なんですかっ!?」、志門の言葉に対しエルメラは深刻な顔で黙ったままだった。
部屋の中央に映し出された隣の部屋のミカたちを見つけた来門は他の者に向かって声を上げる…
「みんな大丈夫だっ、まだ刑は行われていないっ!! ミカさんも無事だ! 映し出されている部屋は何処にあるんだっ?」、来門は言うとエルメラに走り、肩を掴んで揺すった。
「チョッと、……大丈夫か、あんた。顔が青い……、ミカさんのいる部屋は何処だ?!」
「隣の部屋だ……」、と呟くように返すエルメラ。
聞いた全員は直ぐに執行室を出て隣の部屋へ向かった。入れ違いでマーナが部屋へ入った。
「エルメラ議長っ……、これはっ!?」、とマーナ。彼女はメトセラに近寄り屈んで彼女の様子を見ると目を大きく見開いたまま気を失っている。マーナは急いでメトセラをメディカルへ飛ばせた。
「此処は浅いとは言え霊子の次元なのだ……罪は入る事が許されない…」、顔に汗を浮き上がらせ、血の気が引いたような表情でエルメラは言うと、マーナにミカたちの解放を指示した。もはや評議会議長の権限は関係なかった…
「マーナ、五人を解放してくれ……、私はメトセラと倒れた執行官の様子を見てくる。もう評議会の議決を待つ必要はない、とエステルに伝えよ。」
「分かりました、議長。」、そう言うとマーナは部屋を出て行った。




