『カインの使者』第四部第13章「救出と聖エルシアーナ」
部屋を出た志門たちはミカを救出する為、全員で彼女が収監されている部屋を捜す。その間でイズハヤとエディ、ネフェリーを見つけ出す。
都市セイル地下部の成員培養棟では律法義委員とクライシスト局員たちが依代アダムαに降霊したElleスピリットと話し合う。この時に降霊したElleスピリットが霊子世界の究極階層である第10階層から降りてきたものだと分かる。
依代の前でひれ伏す律法義委員と他の者たちに、依代アダムαは”聖エルシアーナ“を名乗り出る。
『カインの使者』第四部第13章「救出と聖エルシアーナ」
マーナはミカとエステルを探す為に霊子感応を試みたが、反応は無い…
「クソッ、遮断されている…」、そう言うとマーナは通路を走り部屋の一つひとつを捜し始めた。
幾つかの室内を確認して通路へ出た時、彼女は志門たちと出くわした。
「志門っ! みんな無事かっ!? ミカたちは何処に連れて行かれた?」、とマーナ。志門は走り寄ると何か臭かった。
「僕たちも捜しているんだ、お姉さんは分からない?」
「私も捜している、……志門、なにかクサい!」
マーナは改めて全員を観ると全員ブレスレットを外され全裸だった。マーナの視線は自然、男性の始や来門へ向いた。
「ミカの事を聞いて、ショックで……下が緩んで…、どうにもならなかったんだ…」、と志門は言った。
「それでか……、全員はだかは良くない、身体の栄養供給と体内残渣の処理が追い付かなくなる。皆、待っていて!」、マーナはそう言い全員の視界から消えた。
少し経ってマーナは全員分のブレスレットを持って帰って来た。
「さあっ、みんな着けて!」、とマーナは各々にブレスレットを渡した。志門の父、来門と向き合った時、彼女は何と言って良いのか分からず、複雑な表情を浮かべた。察した来門はマーナの肩に手を置き、次のように言う…
「気に病むことはない……マーナ。誰が誰を好きになったってそれは自由だ。私は此処に来て、この事で改めて考え直した。地上では殆どが一対の夫婦しか許されない、だけどそれは地上の局所的な考え……、言い方を変えると社会が作り出した考えじゃないかってね。私は君が素晴らしい女性だと思うし、今でも君が好きだ。誰が誰を好きになっても、それを許すことが出来るなら戦争なんて起きない…、違うかい?」、来門はマーナに言うと妻の静香の方も見た。
聞いた静香は短い溜息を吐いた。
「じゃあ貴方、私がよその男の子供を作ったらどう思うわけ!?」、と来門を詰めた。
「……難しいところだな、今の私達の考えでは。」、言いながら来門はマーナから手渡されたブレスレットを左手首に装着すると、そこから生きた金属のように膜が広がり全身を包んだ。
「マーナさん、ミカさんやネフェリーが監禁されている場所は分かりますかっ?」、と始は問うた。
「多分だけど、貴方たちが収監された部屋の、この通路の何処か、としか言えない……、霊子感応が遮断されているの。」、と返すマーナ。
始と志門は通路を見た。それは合せ鏡に映ったように奥が霞んで見えないくらいの長大さだった。
「外で見た建物の大きさを完全に超えている……、この空間はどうなっているの?」、と望美は言うと、それにマーナが答える。
「霊子金属はイメージを時空間に転換投影できるのよ。でも困ったわ……、居場所が分からないと砂浜で落とした十円玉を拾い出せと言うのと同じだから…」
「とにかく手分けしてでも探し出すんだっ!!」、と志門は叫んだ。
◆
一方、都市セイル地下部の成員培養棟ではElleスピリットの降霊に成功した依代アダムαは律法義委員、クライシストの局員たちの話を聴いていた。
「……なるほど、そういう事だったか。余りにもそちらからの呼び出しが大きいので直接私が降りてきた訳だが、……まあ予定の内だ。」、とアダムαは言った。
「貴方はどの階層から来られましたか?」、と律法義委員の一人が尋ねた。
「霊子世界の最深部、宇宙の全ての情報と記憶が補完される場所から来た。」
それを聞いた律法義委員たちと他の局員はお互いに顔を合わせ呟いた…
「そんな事が有るのか? 今までの次元探査計画でもギリギリ第9階層だぞっ!? 記憶のコアから何か出てきたと言うのか?」
「依代の言っている事は第10の最深部から来たと言っている……、ちょっと待て、彼女が触れると霊になる、っと言ったのは次元探査計画と整合の取れる発言だ。」
「確か、彼処へ入った物質は元の形には戻らない……、間違いなさそうだ、名前を聞いてみるか?」
律法義委員の一人がアダムαへ名前を尋ねる…
「貴方の名前は?」、それを聞いたアダムαは首を横に振った。
「私自体に名前は無い。名前とは形作られた者が便宜上使うものだ。……今ある私はこの依代に従って、お前たちの解る言葉と姿で話をしている。」
全員、再び互いの顔を合わせた。少し話し合ったあと、アダムαに次のように申し出た。
「僭越ながら貴方を”聖エルシアーナ“と呼ばせて戴きます。」
「かつてこの世界に降りた霊子世界の魂の名前か……本来ならその者が戻る筈であった……、良かろう、私はその名前を引き継ごう。」
全員はそれを聴くと彼女の前にひれ伏した。
◆
降霊の件でミカたち以外に唯一、拘束を免れた者が一人だけいた。それは人の姿になった天の磐船、イズハヤだった。彼は消えた船の現場で取り乱したため、集団から一人隔離されていた。沈静作用のある飲み物を飲まされ一室に置かれた。部屋から出ることもできたが外へ出る方法が分からなかった。また彼には交感器を額に埋め込まれなかったので周囲で何が起きているかなど分からなかった。彼の扱いは船(機械)が人間に変わったと言うことで服は前のまま、ミカたちが身につけているようなカインのボディスーツも与えられなかった。
「船の姿に戻ることが出来れば、こんな所から直ぐに出れるのに……、昔は人の姿でも力が使えたのにな。完全に人の形に物質化したのか…」
ベッドに腰を掛けて考えている所に望美が入って来た。イズハヤを見つけた望美はチッと舌打ちして残念そうな顔をすると再び部屋の外に消えた。
「何なんだ? 望美のやつ…感じワルぅ!」
イズハヤがそう感じていたとき、部屋の中に志門と始、来門と静香と果南が壁を抜けて入って来た。
「イズハヤ、君も僕たちに力を貸してくれ! ミカたちが危ないんだ!!」
志門はそう言ったがイズハヤには訳が分からなかった。
「何か起きたのか? 悪いが私には何の…」、言い終わる前に志門は彼を引き起こし部屋の外に連れ出す。
「この回廊の何処かの部屋にミカたちが収監されている、一緒に探してくれっ!!」
嘆願にも似た志門の要請にイズハヤは黙って頷くと皆と一緒に回廊に接した部屋を探し始めた。
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長い時間、志門たちは長大な回廊に接している部屋を調べた。遠くが霞んで見えない回廊の先には目もくれず、ひたすら部屋の中を確認する志門だった。彼の額から幾筋もの汗が流れ、焦りの色が顕わになる…、また始や望美、来門と静香も必死でミカを捜し彼女の名前を叫んだ。
もう何キロ捜したのか分からない……、イズハヤはクソッと思いながら次の部屋に入ると、そこには…
「志門っ、居ったぞおーっ!!」、と叫ぶイズハヤ。その部屋に居たのは重禁錮を科せられたエディとネフェリーだった。
部屋に飛び込んだ志門はエディに抱きつき無事を確かめると二人を部屋から出した。
部屋の外に居たマーナは既に疲れ切ったのか肩で息をしている……、それを見た来門はマーナに近づいた。
「マーナ、君はここで休んでいろ。後は私達に任せるんだ。」
「ありがとう、来門さん……必ずミカを見つけて。」、床に腰を落としたマーナの肩に手を置くと来門は頷き、皆と共にミカを捜しに走った。




