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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第四部 [ 霊子降霊編]
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『カインの使者』第四部第12章「聖霊の降臨」

収監された部屋で暴れる志門。傍らでは望美が志門の元を訪ね、兄の始を探しに霊子世界へ来た事がミカの処断に繋がってしまったと嘆く。それを慰める始の横にいた果南は、自分を迎えに来る人が助けに来る、と彼に言った。傍で聴いていたクライシストの局員たちは果南に近づき、彼女の言葉に耳を傾け、彼女を迎えに来る者が今回の降霊と関係している事を確信する。また、降霊の為の霊子ディスプライザーが臨界に達していた事を思い出し、部屋の脱出を図る。脱出に成功した局員と律法義委員たちは急ぎ都市地下部の成員培養棟へ向かうが、そこで見たのは機器の破壊寸前の中で降霊を遂げた強力な霊力を持った依代だった。一方、ミカの処断を知ったマーナは身重で気分のすぐれない身体を起こし、エステルやミカ達のいるサンヘドリンへ飛ぶ。


『カインの使者』第四部第12章「聖霊の降臨」




「なんでミカさんが死なないといけないのっ?! 何も悪い事してないのにっ! ……こんな事になるなら私は教授の家を訪ねてはいけなかった。私が無理にここへ来ようとしたから、……ウッ、ウウッ…ミカさんを巻き込んで…」、と望美は床に正座したまま上半身を折って手で顔を覆い泣いた。始は妹に寄り添い背中に手を置くが、何と慰めてよいか言葉さえ見つからなかった。その間も志門はおかしくなったように壁を叩いてミカの名前を叫んでいた…


来門と静香の所にいた果南はスッと立ち上がると望美の方へトコトコと歩み寄った。


「お姉ちゃん、ママは大丈夫だから。もう直ぐ私を迎えに来る人が助けてくれる。」、と果南。


「お迎え? 誰の事なんだい。」、と始は聞いた。

「私をママから産ませた人。」、果南の言葉に始は戸惑った…


(この子……、何を言いたいんだ?)


「それって……、教授、パパの事?」、と始は聞いた。

「パパとママに私が生まれるように決めた人。」、どことなく抽象的な果南の言葉に対して、始の頭の中に浮かんだのは「神」だった。


「神様なの? いつ来るの。」、と返す始。



その話を近くで聴いていたクライシストの局員二人が近づいた。全員、丸裸だったので始は歩いて近づく二人に慌てた。

「チョッと、お姉さんたちっ! 丸見え、……手で隠してっ!!」、始は後ろに向き直って視線を逸らす。


二人は始の驚きに目もくれず、果南の前に来ると腰を屈めた。



「風早志門とメサイヤのミカ·Elle·カナンが作った成員か!? お前の事は84回次元探査計画の記憶映像で聞いたことがある。お前はあの時、まだ居なかった、まだ未発達な魂だったはず。……お前が言う迎えに来る者とは降霊で来る者なのか?」、と局員は尋ねた。


「そうよ。私の霊は今から迎えに来る人の子供だったの。私は世界を変える使命を与えられてこっちの世界に降りたの。」、と果南は嬉しそうに言った。局員は二人で顔を見合わせて話した…


「霊子の記憶は真実だ……、この者が言う事が真実なら、我々が降ろそうとしていた霊は霊子界の深部の者かも知れない。」、そう言うと、もう一人の局員はアッ!と気が付いたように声を上げた。


「評議会の連中に拘束されて現場から離れる時、ディスプライザーの臨界霊圧を見た……、降霊グラフは臨界に達していたが霊子交感器(降霊アンテナ)は閉じていないっ!!」


「なんだってっ!! そのままだとオーバーロードだぞっ! ディスプライザーが破裂するか依代が持たないっ!!」

「どうしよう……制御モジュールに手を伸ばそうとしたが監視委員に引っ張られたんだ。」


「ウウッ、このままでは……」、そう言うと局員は立ち上がり部屋の壁を見回した。部屋はどの部屋にも閉鎖構造だが、万一の事を考え物理的脱出が出来るように壁の一部が黄色い枠で表示されている。


局員は先ず、壁に走り外部との転移システムを壁から浮き上がらせ、薄い光で表示された部分を触るが何の反応も無い…


「当然ダメか……、後は脱出口!」、局員は再び壁をグルっと見ると、黄色の枠が表示されているのは志門が狂ったように叫び叩いている所だった。


局員は走り寄って志門を退けると黄色の枠を調べた。


「ダメだ、クロスライザー(交感器)が空間遮断されているからロックが解除出来ないっ!……アッ!!」、と何かに気が付いて足元を見る局員。


横に座り込んでいる志門は局員に言ってみた。


「非接触式なら直接壁に頭くっつけてやってみたら…」、局員は志門を立ち上がらせると髪の毛をワシ掴みにをして壁に勢いよく押し付けた。


「痛たたたたたっ!! お姉さんチョッとやめてっ、頭潰れちゃうよぉーっ!」、と悲鳴を上げる志門。


「ドアを開けろっ!! 開けと念じろっ!」、と局員は怒鳴った。もう一人の局員はアーアッ、と言う感じで二人の足元を見た。局員の足はさっき志門が垂れ流した糞尿を踏んでいた…


「いっ、痛いっ、……開いて、お願いだから開いてぇーっ!!」、と悲鳴を上げる志門だった。次の瞬間…



  ”ガシャガシャガシャガシャッ“



壁の内部から金属のロックシャフトが抜けるような音が聞こえた。壁はドアの輪郭が浮き出して分厚い金属が部屋の内側へスライドした。局員が手を離し、床に崩れた志門は押されてドアと一緒に動いた。


「オオッ!!」、とそれを見ていた全員が声を上げた。


「こんな方法が有ったとはな、……礼を言う。」、そう言うと局員は足の裏に付いた糞尿を志門の背中でゴシゴシッと拭った。局員は拘束されていた律法義委員たちを連れて部屋を飛び出して行った。



志門の様子を見ていた来門と静香は呆れた感じて言った。


「情けない……、知っていたら何で先にやらなかったんだ。」

「これが私達の息子なの……なんか恥ずかしい。」、果南も哀れなものを見るような目で志門を見ている。


「パパ、ばっちい(汚い)……」、と果南。


「んな事言ってる場合じゃないっ! ミカを助けに行くんだっ!!」、と離れた所で志門は叫んだ。




      ◆




セイル地下の成員培養棟へ走ったクライシスト局員と律法義委員たちの目に映ったものは、煙を噴き上げ今にも爆発しそうな霊子ディスプライザーだった。


「急いで霊子交感器を閉じろっ!! 爆発したらセイルが吹き飛ぶぞっ!」、その声に別の局員が制御モジュールへ走り急いで交感器を停止させた。この時、ディスプライザーの対霊子圧力は機器の限界値直前だった。


「交感器停止したっ! 頼むっ、保ってくれよっ!!」、と局員は叫んだ。


霊子グラフの示す圧力は徐々に下がって行く…


「何とか間に合った、フウウーッ、……後で監視委員の奴、法廷に訴えてやる。」

「よく暴走しなかったものだ……だが、依代はもうダメかも知れんな…」



   ****************



ディスプライザーの熱が冷めるまで暫くの間律法義委員たちは聖典を詠唱していた。降霊の依代となるアダムα(ALPHA)は既に焼け焦げるか破裂していると思っていたからだ。



出ていた煙も収まり、機器の熱も触れる程度までなったので律法義委員たちはディスプライザーの開口部を手動でこじ開けた。周辺システムは既に壊れていた。


「もうこのシステムはダメだ、二度とElleスピリットの降霊は出来ない……」、と律法義委員は其々に呟いた。ディスプライザーの中は、まだ薄っすらと煙が残っていたが、それは依代や鉄の焼けるような匂いではなかった。それはまるで香を焚いたかのような芳しいものだった。委員の一人が言った…


「この匂いっ!? 金属が焼けた匂いじゃない。これは……、魂の匂いだっ!! まさか、この状態で降霊が成功したと言うのかっ?」、さらに他の委員が言った。


「間違いない! 私はElleクラスの降霊に何回か携わった、……その時の匂いだ! いやそれ以上に高貴な匂いがする、こんな事は初めてだ。」



委員たちが其々に言い合うなか、薄い煙の奥で声が有り、人影が浮かび上がる。その影は言う……



”私は聖である、私に触れてはならない。私に触れる者は霊になる……それ故、道を空けよ“



その人影から発せられる声は律法義委員たちの魂、身体を実際に揺さぶるくらい力に溢れていた。




      ◆




ミカの処断を知ったマーナは身体を起こし、直ぐにサンヘドリンへ飛んだ。まだ気分がすぐれない身体を走らせ、エステルの部屋に入ったが、既に彼女は収監された後だった。


マーナは霊子感応でエステルやミカが収監されている部屋を探し出し、その場所へ飛んだ。



(エステル、……クソッ、何であいつ……、ミカ…)



マーナは走りながら心の中でエステルやミカたちの事を思った。





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