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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第三部 [ 世界再創造編 ]
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『カインの使者』第三部第21章「幽閉空間の中で」

カインの意思決定最高機関のケルブとセラフィムの議長エルメラの元へ飛んだエステルとアクエラらは現在、都市セイルの閉鎖空間の脱出について話し合う。残された脱出のカギは志門がアベルの軌道プラットフォームから奪取した霊子物質”ヒヒイロカネ“とミカの持つ霊子の魂の能力だった。

一方、志門たちは始らと一緒に一つの部屋に纒められ、そこで娘の果南の魂をロタに診てもらう。その横では志門の父、来門がエディが語る身の上の事を聞いていた。余りに壮絶な過去に来門は今の世界線を作った息子の志門に対し、責任を追及しようとするが…


『カインの使者』第三部第21章「幽閉空間の中で」




エステルは志門らが現場を去ったあと、アクエラとイズハヤを伴ってカインの最高評議会ケルブとセラフィムへ飛んだ。外部との往来が出来なくなりつつある今、この問題は直ぐにカインの意思決定最高機関である最高評議会のエルメラ議長に報告しなければならなかった。



職員に伴われ、議長室に入ったエステルは直ぐにエルメラへ報告するが、彼女の声は非常に重かった。また、顔色は元々、抜けるような白さだったが、それを通り越して生気を失ったように見えた。


報告を聞いたエルメラは短い溜息をフウッと吐くとテーブルに肘を突き、垂れた頭を手で支えた。



「何という事……、私たちはアベルの追手から逃げるために此処へ来たのに。この都市空間から出られないだなんて……」


「まだ希望は有ります。」、そう言ってアクエラは前に進み出た。


「霊子界の船、イズハヤは現在人の形になって霊子の力はもう有りません。ですが、後で入ってきたミカは自身が持っている霊子物質との同期で船になることが出来ます。それと、霊子物質として形を残しているのはミカの持ってきた物と、以前に志門がアベルから奪取した同位体”ヒヒイロカネ“だけです。まだ、脱出の希望は有ります、議長。」


エステルはアクエラに聞いた。


「志門が持ち帰った同位体はループストライカーに保管してあるな……、船の起動は可能か?」


「同位体には個別の波動が有るのでメサイヤ(パイロット)のミカとElle·シャナに適合するかはやってみないと分かりません。まあ、幸いな事に同位体と同期出来る者はイズハヤが運んで来てくれましたが…」、とアクエラは返す。横にいるイズハヤは呟くような声でボソッた。


「私は霊子界の者を乗せて霊子と物質(原子)の間を行き来するように作られていた。此処に長い間、寄らなければ霊子界に帰れたんだ……」


「イズハヤ、お前なにか特別な能力は残ってないのか? 人の形でも。」、とアクエラは彼に問うたが、それは無い……、と彼は言う。


「私は意識の形として人間の姿をしていたが、元から人間じゃないんだ。お前たちのように、この空間で意識を物質化させるような芸当は出来ない…」、イズハヤの言葉を聞いたエステルは深いため息を吐く…


「要するにイズハヤは自動機械と同じなんだ、我々と同じように喋っているが意識から発せられたものじゃない。船の霊子エネルギーが人間の形に転化されてしまっただけなんだ。」、とエステル。



エルメラは机をバンッと叩くとエステルに命じた。


「時間が限られているっ! エステル、直ぐにクライシストと協働で対策を立ててくれ。この空間にいる限り我々カインに永続的な未来は無い! ……私が思うところだが元の物質次元に戻るか、更に霊子界の奥深くへ進むかしか道は残されていない、急いでくれ。私は評議会委員を招集して緊急会議を開く。」



「承知しました、エルメラ議長。」、とエステル。




      ◆




志門たち一行は外部から来た者として大きなホールのような部屋へ送られた。現場にいなかったネフェリーム·バリアントも同じ部屋に移動となった。部屋はステルスシールドのような幕で志門の家族とエディ、始の兄妹とネフェリーとに分けられた。


この時、ロタは志門たちの部屋の中で志門の娘、果南を調べていた。果南と向き合い、額の上に手を置き、霊子感応で彼女の魂を調べた。


「間違いない、ミカと同じ霊子の魂だ。この者は確か前の次元探査計画の最終局面で何か言っていたと思う……」、そう言うとロタは志門の方を向いた。


「ああっ、あの時……、ループストライカーがアベルの軌道プラットフォームから攻撃性の波動を受けて霊子プログラムが損傷した後の事ですね。」、大切な話の為、志門はロタに近づいた。それを見ていたミカは、コイツ、またか……、という顔をした。それを見たロタはミカを注意した。


「ミカ、いい加減にしろ! これ以上、マーナの件を引き摺るとお前自身が痛い目を見るぞ!」、ロタの言葉にミカはフンッといった感じで外方を向く…


「ごめんよ、ロタお姉さん……」、と謝る志門だった。


「……まあ、ミカの気持ちも少しは理解してやらないといけないかな、それは志門の仕事だ……、果南の事だ。この者は霊子界の極深度にループストライカーが達した時、志門に何か伝えただろう。」、とロタは言った。


「あの時、この子の魂はこう言ったんです。」、志門は娘の果南の顔を見ながら返した。


「必ず、あなたを助ける……だから絶対、私を産んでね、お父さん…って言いました。」、言うと志門は果南を引き寄せ、抱きしめる。



ロタはそれを見て、とても羨ましい気持ちになった。それは今まで生きてきた間、感じた事のない初めての感情だった。同時に、この状態で不満な態度を取るミカに少なからず憤りを覚えた。ロタは取り直し、志門に告げた。


「これは志門、誓約だ。勿論、当時の君達を助けるために言っている部分も有るが、彼女の魂の言葉に”絶対“が入っているのは、生まれた?後に何かをする、……いや、しなければならない事が有ると言う事だ。」


「しなければ、………ならない?」、志門は腕を組んで考えた。

「そうだ、それが何か私にも分からないが……、これは私の推測だが、……もしかすると、84回目の次元探査計画は続いているのかも…」、とロタは返した。






離れた所にいる両親の来門と静香、そしてミカは別個にエディと話していた。


「なるほどな、……ミカさんから送られた記憶で君の事も知っっていたが、志門との出会いはそういう事だったのだな……、しかし私の家に来た軍属の者、R·ランドーが君のお兄さんだったとはな……、君は軍属じゃなかったから戦闘の経験は辛かったろう。」、と来門はエディを慰めた。


「はい、私の職種は元々、機関の制御操作でメーカーから派遣された者です。戦闘の現場の生々しさは……」、エディは言葉を止め、前の世界線で起きた月面のカインの都市、セイルで起きた地獄のような惨劇を思い出し、思わず吐きそうになった。


「ウッ、ウェッ……」、手で口を押さえるエディ。それを見た静香はエディの背中を擦った。

「チョッと大丈夫なのっ、エディさん!?」


エディは俯いたまま、片手を伸ばし大丈夫、と合図を送った。




少し間をおいてエディが落ち着くと来門はエディに聞いた。


「君のお兄さん、……ランドー君は心配してないのか?」、来門の言葉を聞いたエディの目は霞んだ。


「……ここに来たから全てお話します。私と兄は人工人、日本で発掘された太古のミイラをバイオクローニングで再生した人間なんです……、私はミイラと一緒に発掘されたTXマテリアル、カインの言葉では霊子物質を用いた特殊機関、TX機関の開発のために私は協力して来ました。私と兄はほぼ同時期に作られて四年くらいは一緒に開発メーカーのGEバイオエレクトリックに居たんですが兄の方は軍属としてアメリカ統合機動宇宙軍に配属されました。兄はとても優しい人でした……、だけど軍に入って彼は人が変わってしまった………、私が志門にヒヒイロカネを渡した事を知った兄は私に銃さえ向けたんです。私を庇った人が撃たれました…」



エディの語る壮絶な話に来門と静香は暫く黙った…



暫くして来門は志門の方へ歩み、こう言った。


「おいっ、志門! お前の作ったこの世界はなんだっ!! これはお前が望んだ世界なのかっ?!」、来門はエディの方を指した。



志門はロタと話し合っていて、来門の声がよく聞こえなかったのか、はあっ?という感じで父の来門を見た。その態度に来門は憤りを感じ、前に詰め寄ろうとした。



この時、来門の憤りを察したのか、果南は志門を離れ二人の間に入った。



「ジィージッ、戦争ダメ!」、と叫ぶ果南。






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