『カインの使者』第三部第20章「霊子と意識」
志門たちはロタと共にイズハヤの船の消えた現場へ飛び、そこで望美と志門は再会する。お互いに喜び合う二人。しかし、ミカは志門とマーナの事もあり気分はくすぶり続ける。現場で志門や望美は隈野出津速雄の消失をエステルから聞く。その後、ミカは自身が船になり、地上で自分たちを助けた軍属の五十鈴摩利香から受け取ったネックレスの勾玉(霊子物質)をエステルに見せる。それはイズハヤの船のような消失は免れていた。
一方、都市セイルの霊子エネルギーと、かつて志門がアベルの軌道プラットフォームでエディから渡された霊子物質”ヒヒイロカネ“はそのままの状態を保ち続けていた。ヒヒイロカネと再会したエディは他の霊子物質とヒヒイロカネのエネルギー放射特性についてアクエラたちに説明する。
都市の調査が終わり、アクエラたちと一緒にエステルのいる所に飛んだメサイヤ(ループストライカーのパイロット)のElle·シャナはミカを見つけ、絶望的だった再会に喜ぶ。また、ミカが連れてきた娘、果南に興味を示し、その場に居た志門に、ミカやマーナのように子供が欲しいと申し出る…
『カインの使者』第三部第20章「霊子と意識」
「エステル、どうだ。詳しい事は分かったか!?」、とロタは彼女に聞いた。エステルは暗い顔で、今アクエラに都市内の調査に行かせた……、と歯切れの悪い感じで返した。
その場に残っていた望美は志門を見つけて声を上げ、走り寄った。
「風早教授っ! 来ていたんですね、良かった……、どうやって此処に飛んだんですか?!」
志門はミカが……、と言うと後ろに立っていたミカらを指差した。望美はミカを見たがとても暗い顔をしてキツい目をしていた。
「ミカさん……、どうしたの?」、聞いたが彼女は黙ったままだ。ロタが仲に入ると、チョッと色々あった……、と言って、それ以上の詮索を止めさせた。
志門は望美にエディは何処に居るか聞くと、エステルは彼女、エディがアクエラ達と都市内の霊子エネルギーと志門から受け取った霊子物質”ヒヒイロカネ“の現状を調べに出たことを伝えた。
ヒヒイロカネの事を聞いた志門の脳裏に、前のアベルの軌道プラットフォーム潜入の記憶が蘇った。
(エディが仲間を裏切ってまで僕に渡してくれたヒヒイロカネ……、自分は何も出来ていない。)、志門は自分の不甲斐なさを感じた。
「望美さんたちが乗ってきた隈野出津速雄は何処?」、と志門は聞いた。あそこにっ! と言うふうに望美とロタはサンヘドリンの憲兵の方を指した。
数名の憲兵に取り押さえられ、地面に座り込んだイズハヤはフウッ、フウッと肩で息をしながらも、やや落ち着きを取り戻していた。
「船は何処なの!?」、とミカは志門から離れた所からエステルに聞いた。
「船の霊子物質はイズハヤの意識を物質化させるのに使われた、船は消失した……、これが意味するところは我々は外界との移動手段を失う、という事だ。ミカ、アクエラから聞いているがお前は船になれるのか?」、とエステル。
「はい、私はアベルの軍人から霊子物質を譲り受け、隈野出津速雄に会った時に自身の霊子の魂が覚醒したんです。物質と魂の同期で船を形作りました…」、そう言うとミカはネックレスを首から外し勾玉の形をした霊子物質を確かめた。それはミカの魂と同期しているのか、そのままの形を保っていた…
◆
アクエラたちと都市内の霊子エネルギーの調査に出ていたエディは都市インフラ系のエネルギーを調べた後、ヒヒイロカネを保管しているループストライカー84号機の所へ来ていた。
楕円形の燻し銀のような船?は四本の尖った足が地面を捉え、底部中央は昇降用なのかエプロンのように地面に垂れ下がっていた。
アクエラたちはエプロンのような物に進むと、それは生き物のように彼等を船内へ引き上げた。初めて見るエディはカインの技術力に大きく目を見開いた。
(これがカインの船なのっ!? まるで生き物……、メカニカルな構造じゃない!)
中へ入ったところで、床から生えたコンソールのような台に立っていた女性が振り返り、アクエラに声を掛ける…
「アクエラ、遅いぞ!」
「すまないな、都市内の調査で少し時間が掛かった。ヒヒイロカネを出してくれ、Elle·シャナ。」
「今から保存されているカインの剣の同位体をデッキに上げる。」、彼女Elle·シャナはそう言うとコンソールに薄い光で映し出されたオプティトロニック?な表示に手を置く。すると、前方の一段下がった円形のデッキ部の床から迫り出すようにカプセルのような物が現れた。
「私のヒヒイロカネッ!」、と叫ぶエディ。カプセルに走り寄るとエディは懐かしさにアアッと声を上げる。透明のカプセルカバーに手を当てるとヒヒイロカネの波動が彼女に伝わってきた。
「この同位体は大丈夫だったようだな。」、とアクエラが言うと他の空間技術者は何故消失を免れているのか其々に話し合った。
「アクエラ主任、これだけ何故、消失を免れているのでしょうか?」
「私にも解らない……、Elle·シャナ、メサイヤ(パイロット)のお前の意見はないか?」、そう聞かれたが彼女も首を傾げるばかりだ…
エディは言った。
「ヒヒイロカネは私を通してエネルギーが発生される、……意思を増幅してマテリアルから放射される外の物とは少し特性が違うんです。」
「ウウーンッ……」、とアクエラは考え込むと、次に霊子感応で状況をイズハヤの所にいるエステルに報告した。
”……そうか、実はこちらでも似たような事例がミカにも起きている。ミカは霊子物質を持っているがそれは消えていない。持つ者との同期で形を保っているのかも知れないな……、アクエラご苦労だった、こちらへ戻ってくれ“
エステルの声を聞いた後、アクエラたちはヒヒイロカネをループストライカーに残し、Elle·シャナを連れてイズハヤの居る現場に戻った。
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イズハヤの現場に戻ったアクエラたち…、Elle·シャナはミカを見つけるとワアーッと叫んで彼女に抱きついた。
「ミカ、ミカァーッ!! もう会えないと諦めていた、私は凄く嬉しい!」、しかし、ミカは志門とマーナの一件で表情はくすんでいた。
「どうしたんだ? こうしてまた会えたのに…」、とElle·シャナはミカの態度を訝しんだ。
「……悪いが私はとても気分が悪いんだ。」、とミカは返した。意味が解らないElle·シャナだったが、視界に果南が入るとミカから離れた。
「お前がミカと志門の”子供“と言う奴なんだな。名前は確か……、カナンだったな!」、そう言うと彼女は果南の顔や身体を触ったり抱き寄せたりした。。果南にとって初めての対面だったが、ミカと同じ匂いを感じたのか、お姉ちゃん!と言って果南自らもElle·シャナに抱きついた。端で見ていた静香は余りの遠慮の無さに注意した。
「貴方は誰なの? いきなり孫に触らないで。」
「私はミカのパートナーだ。私はミカの事は知らなければならない。前にミカと一緒の時に果南のことは聞いていた。」、そう言うと彼女は腰を上げ志門を探し、見つけると彼に走り寄ると首に手を回した。次に言った事は……
「志門、私もミカやマーナみたいに子供が欲しいんだ……、私にも……してくれないか?」、と彼女は志門にせがんだ。
それを聞いた来門、静香、ミカは沈黙した……
暫くして来門が口を開いた。
「……いいじゃないか、此処はカインなんだ。マーナ君が志門の子供を身籠ったのは正直ショックだったが、それでも他の男じゃなかった事はせめてもの救いだと……思いたい。ミカさん、君は志門と結婚して四年間、どっぷり地上の慣習に染まってしまったんだ、自分が気が付かない内にね。……静香はどう思う?」
「貴方は新しく女を見つける為の口実にしようとしているわね、今言ったこと!」、と返す静香。
「君は私のコパイロットをやってた割に頭が固いな。もっと柔軟になったほうが楽だ…」、来門の言葉に静香は貴方が柔らかすぎるっ!と言って腕を組んだ。
エステルは局員に命じて、此処へ来た全員分の霊子エネルギーのボディースーツのブレスレットを各人に渡させると一先ず、用意された部屋に戻るよう告げた。




