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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第三部 [ 世界再創造編 ]
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『カインの使者』第三部第18章「望美と始の再開」

政務執行局員に連れられて都市セイルを見て回る望美とエディ、そして天の磐船の意識体のイズハヤ。

この時、局員から現時空間の特性、霊子の物質化を聞いたイズハヤは望美たちを離れ、エステルの所へ戻る。望美とエディはその後、始のいる部屋に飛ばされるが、そこで見たものは兄の始がカインの始祖、ネフェリーム·バリアントと行為に及んでいる場面だった。激しく混乱する兄の始に、望美は地上の彼女の話を持ち出すが、それを聞いていたネフェリーは族長が多くの女を娶るのは普通な事、と言って返す。

一方、イズハヤはエステルとロタと共に天の磐船の所まで戻るが、そこで見たのは消え掛かっている天の磐船だった。狂気のように慌てふためくイズハヤ…、ロタはクライシストのアクエラを呼ぶためマーナの部屋へ飛ぶ。


『カインの使者』第三部第18章「望美と始の再開」



一方、エディと望美はエステルの指示により、政務執行局員の案内で都市内を見て回った。これはイズハヤと霊子の魂の片鱗が感じられるエディへの配慮だった。


都市セイルは整備された広い道路と窓の無い高層ビル、都市中央には広場が在った。この都市の道路は巨大な円形のドーム内円に沿って渦巻き状に中心へ回り込んでいる。ドームの内円には楕円形のオブジェのような物が連なって配置されていた。全ての材質は鉛色の金属質の輝きを放ち、塵一つ落ちていない……、局員の説明では現在観ているのは都市の上半分で、正確な都市の形は地下部分も含めると球状になると言っていた。


望美は局員にUFOの事を聞いてみた。


「カインのUFOは? どこに有るの。」、と望美。対して職員は無いっ!、と答えた。


「船は形だけを残して動かなくなった……、途中でドームに沿って楕円形の物が置いて有っただろう。セイルが此処へ飛ぶときにエネルギーは使い果たした。」


「ここから出れないって事?」、とエディは聞いた。

「他に何処へ行くのか!? 我々はずっと此処で暮らして来たのだ……、もっともクライシストは空間や次元の調査も出来なくなってしまったが……、もう外からの知見は得られない。」


一緒にいたイズハヤは局員に言った。


「私が居るじゃないか!」


局員はフゥームッ…と少し間を置き、イズハヤに返す。


「此処は霊子と物質の境界層だ。お前の船の霊子エネルギーは物質の再生へ回されるかも知れない、そうなると船は動けなくなる……、私は専門のクライシストじゃないので詳しくは説明できない。もし、心配ならエステル長官の所へ帰って聞いても良いぞ。」


「……何か心配になって来た、私は戻ろう!」、イズハヤはそう言うと、その場から消えた。



イズハヤが消えたあと、局員は望美とエディに向き直って告げた。

「都市内の案内は終わりだ。望美の系譜(兄の始)の所へ連れて行ってやる。」



三人は消え、始の居る部屋に飛んだ。



   

   *******************




次に現れた所は約8メートル四方の部屋の中だった。壁全体が柔らかな白い光を発し、部屋の中央にはベッドの台のような物が床から生え、黒い幕のような物が台を覆っていた。局員は私は局へ戻る…、そう言い残して消えた。


「ここ、本当に兄ちゃんの居る場所なの?」、余りにも簡素すぎる、というか生活の匂いのしない部屋に望美とエディは訝しがった。


望美とエディは中央の台に近づき、黒い幕のようなものを触った。それは何かのステルスのようで手で触っても感触はない…

エディは人差し指を中に入れ、問題ないのが分かると中に腕を突っ込んだ。何か温かくて柔らかい物が手のひらに触れたのでエディは慌てて手を抜いた。


「のっ、望美さん、何か居るっ!!」、とエディは悲鳴にも似た声を発した。



少しして黒い幕は上から下に向けて消えて行った。台?の上に横たわっていたのは裸の始とガタイの大きな美しい女性だった。


「兄ちゃんっ!!」、と声を上げる望美。


ベッドの上にいた始はウワァーッ!と大声を発して体を起こし、勢い余って反対側に転げ落ちた。始は慌ててベッドの上に置いていたブレスレットを手首に着けると液状金属のような物が生き物のように身体を包んだ。


「なっ、ななななっ、何でお前が此処に居るんだっ!?」、と始は叫んだが望美とエディの目はベッドの上の裸の女性の方を見ていた。


「あなた、……誰? 兄ちゃんと何してたの!?」、と望美。その女性はゆっくりとした動作で始と同じブレスレットを手首に着けた。液状金属のような物が身体を覆った後、彼女は口を開いた。


「見て分からなかったか? 始と愛し合っていたんだ。」、と彼女は普通に答える。それを聞いたエディの顔は真っ赤になっていた。対して望美は知らない女に兄の始を取られたように感じた。その感情をクロスライザー(交感器)で感じ取った始は望美に落ち着くように言う。


「望美、先ず落ち着け! 正直、俺も驚いているが……」、始はベッドの横にテーブルと椅子を床から生えさせ、望美とエディを掛けさせると自分も彼女と一緒に腰を降ろした。


「お前が此処に居るのは事実だから、先ずこっちの事を説明する、……横にいる彼女は望美も写真で見たと思うけど、名前はネフェリーム·バリアントだ。彼女はこの都市に住んでいるカインの人の先祖だ。俺は四年前に長野の北信地方へ旅に出ていたときに彼女と出会った。その後、彼女と別れわかれになって、彼女の事を調べる為にT大学の鉱物学者の風早志門教授の所へ行ったのは、お前に伝えたよな。……その後、教授やその奥さん達とここに来たんだ、色々あって教授と奥さんは地上へ戻った。お前はどうやって此処に来れたんだ?」、と始。


「私は教授夫妻とエディに助けられて何とか此処まで辿り着いたのよ、この子がエディ。」、望美は隣のエディを紹介した。始は改めてエディを見た、髪の色はエメラルドグリーンでショートヘアに整えられた彼女……、始にはとても神秘的に感じた。カインでも神職を務めるロタなど魅力的な女性は居るが、雰囲気は何か相反するものがある。


「私は統合機動宇宙軍の脱走者なんです。軍人ではありません。メーカーから宇宙艦に派遣された機関操作員です、名前はエディ·スイング。」、とエディ。


「そうなんだ……、望美を助けてくれてありがとう。エディさん…」


「兄ちゃん、何でそこの人と寝てたの……兄ちゃんには良子さんが…」、望美が言い終わる前に慌てて始は制止した。


「望美っ!!」、始は大きな声で言うと人差し指を口に当て望美に迫った。気が付いたネフェリーは始に聞く…


「始、おまえ他に女が居るのか?」、それを聞いた始はネフェリーの方を向き言葉を詰まらせた。しかし、ネフェリーが次に言ったことに三人はエッ?と思った。


「始は何かの集団? 仲間たちのチーフテン(族長)だから他に女がいても不思議じゃないな。私の部族のチーフテンは何人も娶っていたからな…」


これを聞いた三人は硬まったが内心、修羅場にならなくて良かったと心の中で安堵した。


(フウッ、助かった……、ネフェリーが大昔の人間で。太古の時代は一夫多妻だったんだ…)




      ◆




望美とエディから離れてエステルの所へ戻ったイズハヤは、この次元の空間特性の事を聞いた。アクエラは志門らを連れてマーナの所へ行ったので部屋にはエステルとロタしか居らず、クライシストの空間技術者は居なかった。


「上手く説明しにくい、心配なら船に戻ってくれ。私たちも一緒に行こう!」、とエステル。




全員が船の所へ飛ぶと、そこに有ったのは消え掛かっている天の磐船だった。


「ゲアアーッ、船がっ、船がああーっ!!」、イズハヤは叫びながら船に走って触ろうとしたが、突出した手は薄い陰の中にスカッ!と抜けた。


「エッ!!」、驚くイズハヤは、その抜けた手を顔の近くまで持って来ると、次に抓ったり叩いたりした。


「何がどうなったのだっ!?」、アクエラは聞いたがイズハヤは気が付かない…


ロタがエステルに言った。


「これはマズい事になったかも……、エステル、船の意識が人間の形に物質化したんだ、多分……、私はアクエラを呼んでくる。待っていてくれ!」




天の磐船の陰は次第に薄くなって行った。





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