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カインの使者  作者: 天野 了
『カインの使者』第三部 [ 世界再創造編 ]
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『カインの使者』第三部第17章「衝撃のミカと来門」

来門はマーナに会いたいとアクエラに申し出、アクエラは一度、サンヘドリンのエステルに一行を会わせる。ミカの娘、果南を見た際、その魂には何かあると感じ、後で調べるようにロタに言う。また、志門の両親の来門と静香に前の世界線のタイムラインを見せ、魂の底に沈んでいた記憶を現在の記憶として覚醒させる。来門はマーナに会いたいと言うが、ロタはその後の衝撃に危険を感じ、予めカインとアベルの慣習や概念について来門に話す。

アクエラは一行を連れてマーナの部屋に飛ぶが、そこで来門が見たのは志門の子を身籠ったマーナだった。


『カインの使者』第三部第17章「衝撃のミカと来門」



「私はマーナ君に会いたいのだ! 彼女は何処にいる?」、と来門はアクエラに聞いた。


聞いたアクエラは眉間と鼻筋にシワを寄せた。


(マーナッ…、あいつ次元探査計画の責任を私に丸投げにした上、地上で男まで作っていたのかっ!! しかも此処では志門と……)



アクエラは深く呼吸し、取り敢えず怒りの矛を収め、エステルに霊子感応で報告した。



”承知した、私の部屋へ送ってくれ“



エステルの声が返って来るとアクエラはロタに話し、全員でサンヘドリン政務執行局の長官室まで飛んだ。




  *********************




全員が長官室に現れたが、まだエステルの姿は無かった。



暫くしてエステルが現れた。エステルは床から椅子を立ち上げさせ、全員を座らせた。


「アクエラ、ロタ、ご苦労だった、……ミカ、志門、久しぶりだ、よく帰れたな、おやっ?」、とエステルは果南の方を向く。果南の小さな身体を観てエステルは首を傾げた。


「その者は……誰だ?」、とエステルは尋ねた。

「私と志門の子供で名前は果南です。」、ミカは言うと果南を自分の前に持ってきて膝の上に乗せた。


「そうだったのか、私は初めて見た……カインのように最初から同じ大きさではないのだな。」


エステルが言うとミカの隣に座っていた志門が言う…


「エステルお姉さん、地上では成長期間と言うのが有るんです。少しずつ自分らのように大きくなります。」


エステルはミカの膝の上に座った果南と視線を合わせ、果南も視線をズラさなかった。



「……この者の魂は何か違う。」、とエステルは呟くように言った。そしてロタの方を向くと後で果南の事を調べるように命じた。



エステルは次に来門と静香に目を向けた。


「君たちは……確か志門の”親“と言う奴だったな。前の世界の記憶だ。名前は確か……」


彼女が言いかけた時に来門は自分で名乗り出た。


「風早来門、こっちは妻の静香です。」



エステルは空間に、第84回次元探査計画の時、回収に成功した前の世界の記録を全て展開させた。部屋全体に渦を巻くようにタイムラインが示され、それを仰いで見ていた来門と静香の魂の奥底に有る前の世界の記憶と同期し、それは確かな現在の記憶として固定された。


「前の世界の第84回の次元探査計画で船が作った亜空間に巻き込まれた後に回収、……カインに初めて家族という概念を残した者だったな……、そこの静香という、そこに居る奴がカインへ着いた時にサンヘドリンの憲兵を数名打ち倒した…。来門はクライシスト(カインの技術部門=次元探査局)の責任者、マーナ·マグタレネに対し、カインで初めて男と女の関係を認識させた……、だったな。」


エステルの言葉に来門はウムッと頷き、身を乗り出して彼女に乞うた。


「彼女に、マーナに会わせてくれっ!!」


来門の言葉に、横にいた静香は鬼のような形相になって行く…


「貴方、これ以上言うと殺すわよっ!! 六十が近いジジイの言う事じゃないっ!」、と激しく凄んだ。



端に座っていたアクエラがゆっくり腰を上げエステルに次のように言う。


「長官、会わせてやって下さい。この者に現在の世界線を認識させる為です。……そこの来門、だったか? お前の頭の中に描いているものが違う世界の事だと思い知らせてやる。」


エステルはテーブルに両肘を突き、項垂れ目を閉じて考えた。


(我々カインにとっては何でもない事だが、地上の者の慣習を考えると結果がどうなるか……)



椅子に座っていた志門の表情は青ざめ、身体を小刻みに震わしていた。彼の意識を見たミカは屈み込んで志門の顔を覗き込んだ。


「志門、あなた大丈夫? どこか具合が良くないの?!」、とミカ。

「す、すっ、凄く、……良くない……」、と志門は顔に汗を噴き出しながら途切れ途切れで捻り出すように言った。



この状況を見ていたロタは志門の気持ちをある程度察した。また、律法義委員として聖典にも通じている彼女は、今後起きるであろう衝撃的な出来事を抑える為に声を上げた。


「志門の両親の来門さんと静香さん。我々カインと地上人のアベルは恐らく生活慣習が大きく違う……、カインが使うこの聖典はーー、」


そう言ってロタは脇に抱えた聖典を手に取り二人に見せ、その一部を読んだ。


「『男は父母を離れ、女と固く結び合う……』、聖典にはこう記されています。だが、我々カインには〈男〉という概念が存在しませんでした、その存在を知ってはいましたが、遭遇したのは最近の話なんです。我々は長い間女性を選び、この姿で過ごして来た訳です。カインの成員は人工的にその数を維持してきました。貴方がたアベルの子供を作る、とは概念が根本的に違うのです……、ミカのメサイヤ(パイロット)のパートナーにElle·シャナという者がいますが、彼女はミカに子供が出来たのを知って非常に興味を持ったのです。自分も子供が欲しいと……、つい今し方、そこに居るアクエラも志門の子供が欲しいっ! そう言ってました。」、そう言ってロタはアクエラを見た。



「確かにそう言ったが何か……?」、と表情を変えずに返すアクエラだった。ミカはエエッ!という顔をする…



ロタは来門に向き直った。


「来門さん、アベルならどんなリアクションですか?」、とロタ。

「ウウーンッ、先ず言わないだろうね。」


「そこです! カインと貴方がた地上人のアベルとでは生活慣習や概念が大きく異なる……、その点を覚えておいて下さい。あと一点…、現在の世界線は貴方の記憶の世界線とは違うと言う事を。」



ロタはエステルの方に歩み寄った。エステルはロタの方を見て浅く頷くとアクエラに全員を連れてマーナの部屋に飛ぶ事を許可した。




全員が消えた後にエステルとロタが残る…


「この後、惨劇が起きなければ良いのですがね、長官。」、とロタ。


「私には分からないが、地獄の業火に水を撒かないよりはマシだろう…」




       ◆




その頃、マーナは自室のベッドで身を横たえていた。志門とベッドで身体を重ねてから数ヶ月、気分の悪い日が続いていた。身に纏ったボディスーツが身体の異常を検知し、吐瀉しないよう胃の中のものを空間転送で体外に排出していたが、それでも吐気が彼女を襲った。

クライシストは都市セイルの霊子界移行で、空間に起きる現象の調査などやるべき仕事が多かったが彼女は携わる事が出来なかった。都市民の全員が健康を維持する中、マーナに起きた事はカイン史上きわめて異例なことだった。



マーナが寝ていると部屋の外からアクエラの声がした。


“マーナ、私だ! 入るぞ。”



マーナは身体を起こし部屋の方へ目を向けた。そこへ現れたのは……


「志門っ、ミカッ!!」、マーナは大きな声を上げた。


志門は走り寄り、目から涙を溢れさせ頬を伝う……、そして膝を折って屈み、マーナの下半身に手を回すと何度もマーナの名前を呼んだ。


「マーナッ、マーナッ!、…お姉さん、お姉さんっ!! …会いたかった。お姉さんと別れた時、どんなに辛かったか…どんなに寂しかったかっ!」、志門はまるで子供のように自分の気持ちを露わにした。


志門が余りに下半身を強く抱くため、マーナは志門の肩に手を突っ張り、自身から間を空けた。


「志門っ、きつく抱かないでくれ! お腹の子供が…」


マーナの言葉に志門はハッとした。直ぐに体を離し、顔を上げてマーナの顔を仰ぎ見た。


マーナは優しく左手を下腹部に置いた。次にこう言う…


「志門、あなたの子供よ。」、志門は一瞬固まり、まるで人形の様にぎこちなく後ろを振り返った。それに気が付いたマーナも志門の見る方へ視線を移す……、其処には志門の両親が立っていた、駆け寄る志門の陰でミカ以外気が付かなかった。


「らっ…、来門さん………」



まるで彫刻のように固まっている来門と静香だった。ミカは恐ろしい目をして睨んでいた。






マーナを身ごもらせてしまった志門。 

ファンタジーでは絶対に有り得ない禁じ手が、この物語では幾らでも出て来ます。ジャンルはSFローファンタジーですが、より人間らしい現実という汚泥の中でこそ輝く物も有る事を理解して下さい。


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