『カインの使者』第三部第15章「高天原(霊子)の使者」
望美の兄、独 始の居るカインを目指す太古の遺物、天の磐船(隈野出津速雄)に乗ったエディと望美は船の中で船の魂、隈野出津速雄に太古に有った物質世界と霊子世界の騒乱の話を聞く。
一方、月の裏側に居たカインはアベル(地上人)の攻撃から逃れる為、霊子世界へ飛んだ。しかし、カインの国都市セイルは霊子界の物質世界の境界層に留まっていた。都市民たちの身体は人間の形を保っており、前と同じように過ごしていたが、この空間では思考の物質化が起きていた。カインの意思決定最高機関ケルブとセラフィムの議長エルメラと政務執行局長官のエステルが話し合っている時、霊子界の船の接近の報を受ける。
『カインの使者』第三部第15章「高天原(霊子)の使者」
「ワシらの間でイザコザが有った……、ワシら高天原の者の中に葦原中国(地上世界=物質世界)を支配しようとする勢力が居た。高天原の最高階層はそれを抑えるために最高階層の側近、天照に軍を派遣するよう下令したのじゃ……、そこの望美という人間が言っていたカインの事は恐らくそれ以前の出来事じゃったのだろう。……話がそれた、ワシらは反対者たちと戦っていたが、高天原は被害が及ぶのと反対者たちに迎合して下野する者を止めるため、高天原と葦原中国との間に境界を作ったのじゃ………、地上に取り残されたワシら高天原の魂は次第に葦原中国(物質)の姿になり活動出来なくなった……高天原に帰る途中で境界に弾かれた者はワシらとは違う物質の階層に留まった…」、話した隈野出津速雄はフウーッと大きなため息を吐いた。
「なるほど、それで長い間土に埋もれていた訳ね。何で起きたの?」、と望美は出津速雄に聞いた。
「長い眠りから目が覚めたのは、エディ……、お前の声だ。」、と出津速雄はエディの方を見た。
「エッ、私なの!? 貴方を起こしたのは?」
「久しぶりに聞いた高天原の声じゃった。ワシは何とか応えようとしたが身体が中々動かなかったんじゃ……チョッとすまぬっ。」、そう言うと出津速雄はエディの頭の上に自分の手のひらを静かに置いた。
「…………フムフムッ、そっちの状態と知識と言葉に合わせる。…………そっちの言葉でインターバルと言うやつですね。」、と出津速雄。エディと望美は出津速雄の敬語に違和感を覚える…
(急に敬語? なんかキモッ!)、と望美。エディも(ウェッ、気色悪ぅーっ!)、と思った。
「なんか気持ち悪いから、格好も私たちに合わせてくれない、おじさん。その格好は今の時代に合わないから…」、と望美は彼に申し出た。
申し出を受けた出津速雄は、仕方ないなぁ…、という顔をして姿を一瞬で変えた。エディに感応して得た情報で出津速雄は現在の宇宙船のパイロットのような姿に変身した。また顔は二十五歳前後のイケメンになった、その変わり身の速さに拍手するエディと望美だった…
「ワアーッ、おじさん凄い事出来るじゃん!」、と望美は笑った。
「ついでに名前も変えた方がいいかなぁっ!」、とエディも笑いながら言う。
「私の名前はとても大切なのだ、名は体を表している……そうだな、出津速雄だから”イズハヤ“と呼んでくれないか。」、と出津速雄は言った。
「私が呼びかけた時は熱しか出してなかったけど、今のように動けるのはミカさんと直接リンクしたから?」、とエディはイズハヤに尋ねた。彼は頷いて言う…
「明らかに高天原の魂でした。ミカと言う者の魂は……、そっちの世界の言葉で霊子世界、超次元ですか? かなり位の高い者だ。彼女とリンクした時にそう感じました。同時に私にも彼女の力が流れ込んで来た、そのお陰で私は完全に覚醒したのです。そちらの言葉では共振した? 彼女もエディ、貴方のように霊子世界の記憶は魂の底に封印されていたが今は多分、霊子の魂が目覚めている筈です…」
言い終わったあと、イズハヤは何かに気が付いたように別の方向に顔を向ける…
「望美さんの兄ちゃんとかいう者が居る空間の波動が近いですね………、波動を捉えた!」
◆
月から霊子世界の境界層へ逃れたカインの国都市セイルでは恐れていた人体の変容は起こらず、都市民たちは一様に安堵を保っていた。月の裏側で暮らしていたのと同じようにして都市民たちは生活していたが、その生活の中で異様な事も起きていた。
想像する事柄が実体化する現象が多発したからだ。幸い都市民たちの思考は争いを好まない傾向が強かった事と聖典の信仰によりマイナスなイメージを抱く者は少なかったので、それによる傷害事件のようなものは無く、起きた問題は聖典に記された事象の映像化や物質化だった、それは短い時間で現れたり消えたりした。
カインの意思決定の最高機関、ケルブとセラフィムの議長エルメラは議長室で政務執行局サンヘドリンのエステル政務執行長官と話し合っていた。
「我々が心配していた生命自体の変容は幸い起きなかった……、我々は今も人間の姿を保っている。だが、この先をどうするか……」、エルメラは壁に映し出された都市の風景を見ながら後に居るエステルに言った。
「この霊子世界に入った我々をアベルは追ってこれないでしょう。しかし、逆に言えば私達もこの空間に幽閉された、とも言えます。……クライシスト(次元探査局:カインの技術部門)の調査で都市セイルが留まっている空間は霊子世界の境界層だと言ってます。都市内で思考の物質化やイメージの投影のような事象が起きているのもその影響だそうです。」
「都市民の生存に必要な水やエネルギーは確保出来ているのか?」、とエルメラは聞いた。
「それは大丈夫です。以前は都市のエネルギー空間転移システムで必要な水は月の極地や地球から供給していましたが今は使えません、此処は閉じた別次元ですから……、此処の空間特性(思考の物質化)でそれらの物は確保しています。」
そんな会話の中、職員が現れ緊急事態を告げた!
「議長っ、クライシストの空間監視部がセイルに接近する波動を見つけました!」
それを聞いたエステルは目を見開いて固まった。
「アベルかっ!?」、とエステルは声を大きくした。
「詳細は分からないと……」
エステルはエルメラ議長に向き直り、直ぐにクライシストに行きますっ!、と告げるとその場から消えた。
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クライシストに飛んだエステルは直ぐに責任者のアクエラに問うた。
「アベルかっ、アクエラ!? レギオン(戦闘部隊)を都市内に配置しなければ……」、エステルが言い終わらる前にアクエラは答えた。
「監視部の報告ではアベルの波動ではないらしいです。非常に強力な霊子波動で霊子界の極深度に近い波動と言ってました。次元探査計画から得られた過去データーとも整合すると…」
「極深度? ヤーワァ(ヤハウェ:神)の領域から……、しかし我々は言葉を受け取ることは有ったが実際に見た事もないし、神は形として定義出来ない。」
アクエラはエステルを連れてクライシストの監視センターへ飛んだ。部屋の中では監視員数名の者が床から生えたようなソファーのような椅子に身を沈め、顔を覆うバイザーと椅子から伸びたコードが全身と繋がっていた。
空間に展開されたオプティトロニックモニターには監視員の生体霊子グラフが表示されている…
「どうなんだ、アクエラ。」、とエステル。
「今、向こうの波動と同期しているところです。」
「問題は向こうの方向性だ! 感情パターンはどうなんだ!?」
「いづれもプラス側、攻撃的意図は無いようです。」、とアクエラは返した。
その時、一人の者がセンター内に現れた。アクエラはその者に対して、遅いっ!! という感じで声を掛けた。
「何をしていたんだっ、待っていたぞ。ロタッ!」
「すまない、律法義委員会で祈る事柄が多すぎるんだ。都市民からも現状の問い合わせが多くてな…」、と律法義委員の責任者ロタ·Elle·ファトは返した。
ロタはさっそく空いているシートに身を横たえるとコードが生き物のように彼女の身体に融合し、頭部にバイザーのような装置が形成された。
目標の波動とリンクしていたロタは、身を横たえたままエステルとアクエラに言った。
「これは霊子界の船だな……、かなり遠いところで別の波動も感じる…」
「天使たちかっ、だが何故だっ? 彼らが自ら出向いて来るとは?」、エステルがそう言うとロタは機器の接続を解いて起き上がり、次のように進言した。
「理由は分からないが現状の我々には助かるのではないか……、霊子界から直接の使者だ。エステル、アクエラ、歓待の準備をしよう!」
久しぶりに筆を起こしました。SFローファンタジー『カインの使者』。長い世代を超え、地上人アベルと反目してきたカイン。主人、公風早志門とヒロインのミカ·エルカナンの活躍に期待して下さい。 作者 天野了




