『カインの使者』第三部第14章「飛翔」
囚われていた地下工廠から、軍人の五十鈴摩利香の協力で脱出した志門とミカ。二人は志門の実家へ飛び、そこで両親の来門と静香、そして愛娘の果南と再開を果たす。突如現れた二人に父親の来門は、以前聞くことを控えてきた志門の秘密を聴きたいと申し出る。ミカを通して二人の真実を知る来門と静香は激しく動揺する。その後、地下工廠から脱出する際、五十鈴摩利香から渡されたネックレスの勾玉(霊子物質)の力を借り、宇宙船と化すミカと娘の果南。志門と両親は軍の追手から難を逃れる事に成功する。
一方、エディと望美を乗せた霊子世界の船、隈野出津速雄は霊子世界の境界層でカインの都市セイルの波動を探していた。
『カインの使者』第三部第14章「飛翔」
ミカの光の中へ飛び込んだ僕は瞬時に身体の平衡感覚失った。次に身体の感覚がなくなり思考だけがのこっている感じ……
ミカの意思が向かっている所、それは同時に自分の意思に伝わる。
”果南! 僕の実家かっ!!“
僕たちの意思は瞬時に実家の上空に在り、家の中と外の状況を考える間もなく察した。
気が付くと僕とミカは実家のリビングに立っていた。そこには父の来門と母の静香、そして愛娘の果南が居た。
果南以外、両親はその場に固まって目を大きく見開いて居た。
ミカは走り寄って果南に抱きつく、僕も走り寄った。
「果南、果南……良かった、大丈夫だった!」、とミカ。僕も膝を崩して果南を抱いた。
「良かった、みんな無事だった…」、と僕はフウーッと大きく息を吐きながら言う。両親は我に返り、父の来門は僕たちに尋ねた。
「何処から湧いた!? 何処に居たんだ!」、と来門は取り乱した。母の静香はミカと果南に走り寄り、僕たちの無事を喜んだ。
「この街の隣に地下施設が有って、そこで取り調べを受けてたんだ、父さん。……僕たちを捕まえた男が父さんお母さんに僕たちの安全は保証する……、そう言ってたけどこの家に来たの?」、と僕は両親に聞いた。
来門は苦い顔をして言った。
「R·ランドーという軍属?の者が来て、お前の事を色々聞かれたんだ。詳しく突っ込んで来るから身分証を見せるように言ったけど、私の知らない機構だった……、その後、隊の方から自宅で謹慎するように言われた。監視付きでな……、ところで志門、おまえ前に世界を改変するくらいの事って言ってたよな、確かミカさんに半殺しにされて担ぎ込まれた病院で?!」
来門の言葉を聞いたミカは少し、ウワァ、あの時のこと……、という顔をした。
「あの時、父さんは聞いてくれなかったよね…」、と僕は呟くように返した。
来門はウムッと目を瞑り頷くとその場に腰を落として次のように言った。
「私は恐れて居たんだと思う……、後で母さんとも話した。だけど今、お前たちが突然現れたのを見て聞かなければならない時だと思う。話してくれないか、志門。」
志門は追跡の手が近づいているのを感じたので、ミカに霊子感応で今までの経過を両親へ送るようにお願いした。
ミカは頷くと両親へ向き、今までの記憶を全て来門と静香へ送った。それは単に情報と言うより、経過した世界を包含した全てと言ったほうが正しい…
来門と静香はミカからそれを受け取るとウワァッと声を上げた。特に母の静香は激しく狼狽える、夫の来門の言ってきた事を妄想として片付けてきた静香には思考を混乱させるに十分な事だった。
「お義父さん、お義母さん……これが私と志門が歩んできた全ての出来事です。」、とミカは言った。
慌てていた来門は、やっぱりかっ……、という顔でミカに近寄り肩に手を置く。そしてこう言った…
「志門と結婚してくれてありがとう、君は良い娘さんだ。私の直感に狂いは無かったようだ……、マーナ君も君と同じ月の人だったんだな。今どこにいるのだね? 私はとても会いたいのだ。」
それを聞いた志門は難しい顔をした。
「………父さん、それは後で。今は此処から脱出する事を考えよう、もう直ぐ追手が来る。」、僕はそう言うとミカの方を見て次の事を聞いた。
「ミカ、この家からカインのセイルまで飛べるかっ?」、聞いたミカはエエッと驚いた。そして、地下のドックから脱出する際、協力者の五十鈴摩利香から貰ったネックレスを見た。手に巻いたネックレスの勾玉の形をした霊子物質は強い波動を発している…
(強い霊子波動……、これなら行けるかも知れない!)
「これなら霊子次元まで行けるかも知れない……、だけど志門、私たちが行けるのは霊子世界と物質世界の間まで。その先は空間接続技官が居なければ無理なのよ…」
志門は少し考え、顔を上げた。
「ミカの言う事が正しければセイルも多分その辺りに居るんじゃないか!? ……どう、行けそう?」、と僕。
「やってみるね、志門。果南、お母さんのそばに来て……、貴方にも霊子の魂が少し有るかも知れない、ママを助けてちょうだい!」、ミカが言うと果南はミカの膝の上に座った。
静香はミカにセイルの場所を尋ねた。
「セイルって月の裏側でしょ! そんな所まで飛べるのっ?」
それを聞いたミカは落ち着いて答えた。
「お義母さん、大丈夫です。霊子の世界に距離と時間は関係有りません。確かにセイルは今でも月の裏側に有るけど……、存在はするけど実在しないだけです。霊子の世界では波動の同期でどんな場所でも繋がるんです。」
静香は尚も首を傾げたが、隣にいる来門は目を輝かせる。
「やっとマーナ君に会えるんだっ! 私は彼女と話がしたい!!」、とはしゃいだ。それを見た僕はああっとため息を漏らす、同時にお姉さん(マーナ)と居た時の記憶が浮かび上がる…
(これは何かマズい気がするなぁ……、僕とお姉さんの事を知ったら…)
ミカは五十鈴摩利香から貰ったネックレスを手に巻き直すと果南を抱くようにしてネックレスを身体に近づけ、自身の波動と同期させた。するとネックレスとミカの身体は輝き出し、その光球は天井に着くくらいの大きさになった。
見ていた来門や静香もだが志門も驚きを隠せなかった。カインのループストライカーでさえ、その建造には長い時間が掛かり、プログラムを船体に施すにも数ヶ月を要する……、それが時間も掛からず船になったのだ。
(あの五十鈴お姉さんから貰ったネックレスの霊子物質の純度はループストライカーの霊子金属の純度を超えているのかっ!? 船に使う霊子金属は人工的だけど、これは霊子の結晶そのものなのかっ? これはカインの剣と同じ力を持っているっ!)
光球は中央に穴が開き、ミカの声が聞こえた。
”志門入って、お義父さんとお義母さんもっ!“
僕と両親はミカの声に従って、その光球の中へ進んだ。内部の空間は外で見る光球の大きさを遥かに超えていた。それは白い光りに包まれた、それは大きさで例えるなら学校の講堂ほどの広さを有していた。
「ふぇーっ、凄いなコレッ!!」、と驚く来門と静香。
志門も初めて見るその船?に驚嘆した。
「霊子物質だけで船になるとこうなるのかっ! ループストライカーのようにオプティトロニックなメーターやモニターさえ無いぞっ……、ミカ、何処にいるっ?」
”私と果南は船と同期している、一体になっているの“、とミカの声が頭の中に届いた。
僕は入口を閉じるように言うとセイルの波動を探すように船のミカに言った。
船は輝き出し、更にフラッシュを焚いたように光ると部屋から消失した。
志門とミカを探していた軍の関係者が部屋に入ったのはその直後だった。
◆
一方、望美とエディを乗せた隈野出津速雄は霊子世界との境界層でカインの都市セイルの波動を探しながら二人と話していた。
「エディとか言ったな、お前の魂は元々霊子世界の住人の痕跡が残っている。そっちの人間をセイルというところで降ろしたら霊子世界まで連れて行っても良いぞ。」
隈野出津速雄の言葉にエディは思うところが有った。
(私は太古のミイラからバイオクローニングで再生された人工人……、私の元になった人が超次元〈霊子世界〉の住人だったのかしら? でも今は……)
「私も望美さんと一緒におろしてちょうだい。」
「それは残念じゃな……、向こうへ行けば自分が何者かも分かると思ったんじゃがな。」、と出津速雄は少し残念そうに言った。
望美は出津速雄にセイルはまだ見つからないか尋ねた。
「おじさん、まだ兄ちゃんのいる所見つからないの?」
「焦るな! ワシは地上へ降りてからカインの事は聞いておらぬのじゃ、お前たちの話と魂の波動からそれを見つけ出している……、もう暫く待て!」、と出津速雄は言う。
エディは出津速雄に尋ねた。
「貴方の世界には偉い人は居るの?」
「勿論、霊子世界の最高階層の者たちじゃ、私はその者たちのお付として霊子世界と物質の世界を行き来していたのじゃ……」
「何で地中に埋まったままだったの?」、と望美は出津速雄に聞いた。
それを聞いた隈野出津速雄は厳しい表情を浮かべた。
『カインの使者』執筆再開しました。リンク作品のSFミリタリーアクション『USSF機動空母リベレーター戦記』が先に終わってしまいましたが、そちらもよろしくお願いします。カインとアベル(地上人)、双方から見たストーリーをお楽しみ下さい。




