37 病んだようです。
若干(?)シェルが病みます。苦手な方はランナウェイ。
しかも長い。
——手に入らないんだったら、奪えばいいんだよ。
「……あ?」
俺は確か、あの後透と色々話し合って、旅が終わったら二人で暮らすことを前提に付き合うという結果になった。
そしてそのあと寝て、そして今は何でかわからんが地下牢っぽいところに監禁されている。
もう一度言おう。
手枷足枷に加えて、ついでになぜか猿轡までかまされている。
——ドウシテコウナッタ。
「あ、おはようレイッ♪」
耳によく聞いたことのある声が届く。その声はどこまでも場違いなまでに明るい。
ひたりひたりと革の靴がむき出しの岩の床を歩く音が聞こえて、俺はおもわずびくりとし、鎖をじゃらりと言わせてしまった。
「いやーもう本当に参ったよー。レイがあの男と付き合うって聞いたときはびっくりしちゃった。でもね?」
首を可愛くかしげて、彼女は——俺の幼馴染のシェルはその唇を歪ませる。
「私がレイを好きなのは30年も前からなのに急に出てきたあのドラグニルにかっさらわれて腹立たしいことこの上ないよねというかあたしがレイを毛先一本だって変なやつに触れさせるわけないでしょあたしはレイを愛してるドロドロに甘やかしてあたしなしじゃ生きられないように堀を埋めて囲っていこうと思ってたのにどうしてどうしてどうしてどうしてあんな何の特徴もないやつにただのドラグニルにあんな優しそうに笑うのその笑顔は私だけに向けてればいいあたしだけのあたしのレイにいいいいいいいいいッ!!!!!」
おぞましいまでの執着心。俺は背筋が薄ら寒くなった。
「…ぁ、」
声は出なかった。薬でやられたんだろう。それにしても目の前のこの女が幼馴染のシェルだとは見えない。が、何か納得がいく。
「…だからね!あたしが隅々まで消毒してあげる。ありとあらゆるところを触って舐めて、あたしだけのものにしてあげるんだっ♪」
どこぞのキチのような発言を始めた。
「っ……⁉︎」
「動かないでね。せっかくレイを捕まえたんだもん」
俺はぞわぞわと毛が逆立っていくのを感じる。恐ろしいほどに精神が削れていく。自由に動かない体が、今はものすごく恨めしい。くそ、どうして力が入んないんだよ。磔状態でまともに動けるかバカ!
その手が俺の身に着けていた装身具を外していく。チョーカーや、腕輪。足のベルトにくくりつけていた大ぶりのナイフ。
俺が必死に体を動かそうと奥歯を噛みしめるが、全く効果はない。
「無駄だよー。解毒剤はあたししか持ってないんだからねっ」
「ど、……」
毒?そう問うと、顔をほころばせて彼女は笑った。
「うん、毒。レイはこれであたしのものだよ、一生。解毒剤を飲まなきゃ動けもしないんだからね」
彼女はニコニコと邪気のない笑みを浮かべて、俺の服に手をかける。装備品を身につけていないから、それはあっさりと破れた。
「あはぁッ……レイの匂いっ」
俺は逃げたくても逃げられず、恐ろしいほどにこの女が何を考えているのかわからない。
透。
透、会いたい。
みっともなくていい。
助けてくれ、——透!
ズガァァァアアアアアアン!!!!!
パラパラと俺の体に礫が降り注ぎ、シェルが驚きに口をぽかんと開けている。がれきがもうもうと土煙を上げ、その中にいた人物がそれを踏みしめて、ガラリと音を立てた。
陽光が差し込み、雲の隙間から降り注ぐがごとき光に照らされて、その人物は妖艶に笑う。
金緑色の腰まである長い髪は、光を跳ね返して不思議な色をまとい。
口元は淑女か悪魔かのように引き裂いた上品な笑み。
意志の強い目元が、今は爛々として少し怖い。
あちこち汚れた服装なのは、探し回ってくれたからだろう。
「迎えに来ましたよ、レイさん」
俺は心底安心した。
「なんで……ここが」
「あぁ簡単な話ですよ。犬に首輪はつきものでしょう?」
実際には、腕輪。
迷子になったのは俺の方だったか。
「た○ね人ステッキ以上の効果でした」
「何よそれ。なんでもいいけど、とにかく邪魔し」
カカカッ!
シェルの足元に針が5本突き刺さる。
「チッ」
二人は向き合った。同時に俺は手の鎖が引きちぎれたのを感じる。気づけば透の腕に抱きかかえられていた。
柔らかい。
「あ、薬まで嗅がされてるんですか。こりゃますますやばいですねー」
そう言って彼女は俺を横たえて、剣に手をかける。が、その瞬間に斬りかかってくるシェル。
「レイを、はなっせぇぇぇ!!!!!」
「それはこっちのセリフです」
その斬撃を受け切って、彼女は剣を抜かずに鞘で受け止める。
「は!怖気づいたの?」
「いやだって『斬撃無効』スキル持っているのにそんなのやってどうするんですか?」
彼女は剣を鞘ごと振り上げた。
「今から行うのは『暴力』ではありません。しつけです」
その笑みが、今までで見た透の笑みで一番に怖いものだと強く思った。
まっすぐ突っ込んできたシェルを殴る。殴る。殴る。べしんべしんと。
「まずは反省しろ。容赦のない痛みで」
「ぎゃんっ⁉︎いた、ふぇ、ぎにゃっ!」
ばしばしばしばし。
気絶などさせない力加減で、でも痛みは感じるくらいでべしべしと。
「こ、のぉ⁉︎」
体を凪いだシェルの爪は、透をすり抜ける。彼女は金色の瞳を見開いて、「うそぉ」と漏らした。
バックステップで飛びしさりながら、足首に仕込んだ針を投げる。そのほけた面にもかかわらず一瞬で持ち直し、その全てを打ち払う。が、透は動じない。
その打ち払われた針全ての黒い糸をさっと引くと刺さったようで。透の唇が吊り上がる。
悲鳴に近い声を上げるが、透はやめない。
徒手空拳で殴る。蹴る。殴る蹴る殴る蹴る。もはや空中で衝撃を逃せもせずに浮いている。
「かはぁ、」
殴る殴る殴る。
蹴り上げ、たたきつけ、肘鉄を決めて。
気付けばボロ雑巾のようになったシェルが転がっていた。
「立て。お前の思いはそんなものか?」
「ぐ、ぅ」
ゆら、と妖鬼のように立ち上がる。
「わたしは、ぁぁああああああ!」
強烈な気合。透はその一歩一歩に油断をしない。
何のために追い詰めたか。
そんなことわかりきっているだろう?
「殺す…!」
「上等」
透は手の平を上に向け、魔力を流し込んでいく。
「あんたがどうしてレイに執着するのかは知らない、でも一撃で決める!」
「こちらも…魔法を使わせてもらいます。半径五十メートル以内は跡形もなく消し飛びますんで」
「ほざけ!『流星拳』ァ!」
透は属性全てを突っ込んだ玉を生み出す。わずか一センチほどのそれはおぞましいほどに力を放つ。
「うぉぉおおぉおおおおおおおおお!」
「あ、死なれちゃ困っちゃいますね」
ふっと気づいて魔力遮断布をシェルに被せ同時に俺を抱えあげるとバックステップ。その次の瞬間——半径二メートルほどが闇に覆われた。それはあたかも物質全てを削り取るように動き、飲み込む。
そして、収束。
大きなクレーター。それは凄まじい爪痕を残した。極小の隕石のレベルだろうか?
逆風がなだれ込み、透はふっと笑みを漏らした。
「僕の勝ちですね?シエル」
「ぐ、ゲホ…ぁ、まだわたしは、たたかう…」
透が例のブツを口に流し込むと、シェルが己の現在の格好に気がついた。
「ってきゃああああああ⁉︎」
ビンタを避ける。すっぽんぽんをさすがに男に見られてたと思えばその反応も自然。
まぁわかっててやったけど。
「なに!見てる⁉︎」
「シェルのぺったんこ具合です」
「失礼な!ちょっとはあるもん!」
「僕のどこを見てそう言ってるんですか?」
ここでようやく気付いたらしい。
「へ……お、んな?」
「正真正銘生まれたときから女ですよ。ほら」
服の襟を下げて谷間をちらりと見せると、レイの顔が熱くなった。ウブである。
「……じゃ、じゃあレイ、側室にしてよ」
「知ってるでしょ?この国ではハーレムは不許可だって」
彼女は痛々しい顔をして、目を閉じた。牢の片隅の穴を掘り出して、彼女は小瓶を投げてきた。それを受け取ると、疲れ切った顔でふう、とため息をつきつつ「解毒剤」と言った。
鑑定の結果そうだったようなので、普通に口に含んで嚥下能力のなさそうな俺に飲ませるべく唇を寄せる。
や、マジでやんの⁉︎何の報復だよ!!!!!
「…ん、ッふ……」
「……ぷはっ!ふう、これでよしと。レイさん立てますか?まだお姫様抱っこ継続しますか?僕的にはそれがいいんですが」
「……お、下ろせ」
羞恥でプルプルしてる。これは重症だ。
立ち直れない。
「なるほど、米俵担ぎの方がいいと」
「より恥ずかしくねぇか⁉︎」
そんな言い合いをしていると、シェルがふふっと笑みをこぼした。
「透さんつっよいなぁー。あたしね、透さんが手加減バリバリしてたの知ってるんだから。でも、手加減して、こうしてボロ雑巾みたいにやられなきゃ、あたしきっとまだ絶対に叶わない相手に恋してたから」
彼女はふへ、と気の抜けたように微笑み、そして頷いて立ち上がった。すでにその顔は何かを吹っ切った雰囲気だ。
「あたし決めた!今日からあたし、透さんの恋人目指すんだから!」
『ブフォ』
全員で同時に吹いた。
「…な、なぜその結論に。というか僕実際のところ女なんですが」
「え⁉︎……ん、うーん…なんか、アリかも」
ぞわぁ。
「アリかも、というのは……?」
「今度は、恋人がいても積極的に行くんだから」
トオル は 身の 危険 を 感じた ▼
「レイさん。ぼくは変なスイッチを押してしまいました。時間を数分前に巻き戻してしまっていいでしょうか?もしくはスルーで」
「できるもんならやって見やがれ⁉︎俺の所為じゃねぇから!なんか目覚めたこいつも悪い!」
「そうでしょうか?ぼくは今回の件レイさんがその道へ進ませたことにあると思っていますが?」
「一理どころじゃなくあり過ぎるから嫌なんだが⁉︎」
と。
「一体どうしたんだこれはっ⁉︎」
「あ、公国騎士団の……ういーっす」
「じょ、上官っ!すいません、透さんと決闘しててフルボッコにやられて今全裸なんですぅ⁉︎」
「ちょま落ち着けおま⁉︎全裸ってその下はまさか」
「めくるんじゃねぇっっだぁらオラオラオラオラ((ry‼︎‼︎」
うんうん、学んだかシェル。
「めくっていいのは透さんだけだああああああああ‼︎」
「何言っちゃってるんですかそっちに目覚める予定は全くありませんから普通に止めてくれませんかね⁉︎」
「透さん!うふふ、レイは羨ましいね。でも、ダメ、透さんはそう簡単にはあげないんだから」
「ちょ、レイさん助けて。僕の貞操を先に奪っちゃってください」
「何を言っとるんだどさくさに紛れて⁉︎」
「く、クレイジーサイコれ…ゲフンゲフン、逃げますよレイさん!」
次の日俺たちは疲れ切った顔のルリエからたっぷりお説教と「ようやくくっついたのね、ハァ」という小言をいただき、今回の件は終着した。
レイ「今回俺何でヒロインなんかやらされてんの?」
シェル「当然透さんに乗り換えるために!」
透「レイさん後は任せました(ビシッ)」
あー逃げちゃった……って、殺気を感じる⁉︎
レイ「今回の話は若干作者がヤンデレ欲しさに書いちゃった奴だからな」
ってファイヤーボールが⁉︎に、逃げるんだよォ!
次話、一応ダンジョンに入る予定。




