36 お宅訪問のようです。
ただのお宅訪問ではない。
「ただいま……ッデェ⁉︎」
駄虎は国境警備の途中だったというのでツヤツヤ尻尾の銀狐さん(もふりたい)に首根っこを掴まれていったので、レイが家の扉を開ける。
それと同時に暗器が飛んできて半分開いた扉の真ん中に突き刺さる。惜しい。
あと二ミリで皮一枚殺れたのに。
中からはくすくす、という上品な笑い声が聞こえてきた。そこにいたのは、ザ・楽園の女神。見事なフサツヤ尻尾の白い狼さんである。余談だが、超絶美人だ。あとおっぱいは大きい。さすがバステトさんと姉妹だけある。
そういえば、獣人って種族はどうなってるんだろう?猫獣人のバステトさんとレイの御母堂が姉妹だってことは…うーん、わからん。あとで聞こう。
アーモンド型の瞳が澄んだアイスブルーでレイを射抜いた。
「やーね、そこは『わん』でしょ?レイおかえりなさい」
「た、ただいま…なんか今更ながら透を泊めるんじゃなかったか…こいつら似た者同士すぎるぞ」
ちなみにルリエは国賓なので、王城に泊まるらしい。僕は辞退させていただいたが。
だって、レイの家なんて遊べ…愉し…楽しそうなところ逃す手は無いし国賓の扱いなんかされたら、いろいろ探検とかできないし。
レイの家はログハウスで、上にカントリー風のクッションが幾つか乗ったちんまりとした革のソファーがリビングに置かれ、それぞれの部屋がありながらも超おくつろぎ空間だ。
「で?そこの女の子は誰なのかしら?彼女?彼女なの⁉︎」
「ぅぇっとそのぉ…おい何か言ってくれよ透!母さんが暴走しそうなんだけど⁉︎え、ちょ、マジで黙りなスタンス⁉︎」
僕は意外にもその言葉に動揺していないのに気づいた。さっきの下りでは少々動揺したが、レイさんは心変わりしたわけじゃ無い。そう思うと心臓がどきりとはねる。
だから、せめてもの意趣返しにこう言った。
「彼女です」
「——ほぇ⁉︎」
「あらまぁ!」
レイが僕の肩を掴んで揺さぶる。こういう時はあーーーとか言ってどれだけのスピードで細切れになるのか試したくなる。あ、うちのボロい扇風機並みだ。早いな、レイ。
「あああああああああ」
「おい⁉︎いつの間にそうなったお前⁉︎」
「おや、断るんですか?断るんですか?」
「——断わらねぇけど‼︎いやむしろウェルカムだけども‼︎何がどうしていきなりその結論に至ったのかをお聞きしたいんだけど⁉︎」
「ははは、それマジで言ってます?」
「マジに決まってんだろ⁉︎」
「はいそうですかと話すわけないじゃないですか。バカですか?」
僕は唇に笑みを湛えて、レイに指示を出す。
「おすわり。正座」
「きゃいんっ⁉︎」
素直でよろしい。実に素直でよろしい。
「御母堂までしなくても…」
「な、なんとなくやっちゃった…なんか逆らえなくって」
「で、なぜ僕がレイさんの告白を受けようと思ったかというとですね」
「はい」
「ノリです」
静寂。
「…一ついいか?」
「どうぞ」
「なんで俺が正座しなきゃならねぇんだ⁉︎アホか‼︎」
「他の女にあっさりゼロ距離を許しておいてそれはないでしょう?」
「あ、あれは妹みたいなもんだし、」
「おや、女と言ったのに通じたんですね!あは?」
その顔から血の気がざあっと引いていく。尻尾がくるりと丸まっている。股の間に入れると何か落ち着くんだろうか?
そういえば、メガネをひっきりなしにずり上げるのも緊張を和らげるために自分の体に触れる行為と同等だって言ってたなぁ。今関係無いけど。
その人相悪い顔が青ざめるのもかなり楽しいのだけど、と呟くときゅうきゅう言いながら頭を抱え始めた。何この可愛い生き物。写真写真、ぐへへ。
…っといけない。ついキャラ崩壊が。
有無を言わせず、僕はレイさんの膝の上に一本の瓶を置いた。
「…これ、は?」
「痺れた足が常時突かれるくらいの痛みが続く.ver1hです」
「いぃっ…⁉︎」
僕はニコニコしながら瓶を口元に持っていくが、バビュンと言いそうな勢いでそっぽを向かれる。早い。残像が出たよ。
でも飲ませる。あの駄虎は気にくわない。
「拒否りますね…口移しがいいんですか?国境で僕に口移しして薬を飲ませたんですもんね?」
当てずっぽうでいったところ、レイの顔から血の気が引く。
まぁ、あの状況で僕が呑みくだすだけの意識はなかっただろう。それに国境で周囲のドラグニルの人々が、やけに生暖かい目でこっち見てたしな。
「なぜにばれた⁉︎」
「やっぱそうですか」
「諮ったなこのやろ⁉︎」
そのあと1時間は、レイが変な声を出しながらリビングで悶えていた。
レイ「なんか告白受け入れられたのに後処置が酷い気がするんだが」
透「仕様です」
仕様だね。
レイ「理不尽すぎるだろおおおお⁉︎」
次話は所変わっての閑話にしたいと思います。




