34 幼馴染のようです。
初登場。
「そうよ、言ってなかったっけ?」
「初耳だよ!ってことは母さんは…」
「あの子は普通の子よ?私はバステトだけど、生き女神って感じだもの」
「む?じゃあ、現人神ってことですか?」
「そうね。…産まれてから神になったから、透みたいに家系じゃないわ」
「なるほど」
僕たちの事情を聞いたバステトが尻尾をヒュンヒュン左右に振りながら、ふふっと笑う。妖艶である。
「そうだったのか。で、何の神なんだ?こっちでは」
「ん?旅の女神ね」
だからフラフラと定住もせずに、とレイがぼやく。
「そういえば、透のこと、神界で話題になってたわよ」
「は?僕がでしょうか?」
バステトはええ、と頷く。
「神様の中でも討伐依頼が出されてるの。
現人神で、場所に縛られてるものが多いから動けるのは『旅』、それに『夢』くらいなんだけど…それに祖父とはいえ、神格を貸すなんて滅多なことじゃないわ」
「それもそうですけど、本当のところは?」
ただ神格を貸すだけなら他にもいるだろう。僕自身に注目するほどの何かがあると考えるのが自然だ。
「勘が良すぎるわよ。…ウヘルモノ、だっけ?あれのここでの職能は——『恐怖』、決して消えない物よ。それに、『転移』も、取引の上で力を貸してたって判明してるわ。
そいつはつるし上げ食らってるわ、本当にユグドラシルで吊るされてるらしいけど。
でも、『恐怖』それ自身と戦うなら、相応の覚悟が必要だわ」
それでもあなたは戦うの——?
そんな言葉にならない問いを発して。
「確かに邪神は恐ろしいわ。神ですらそれを壊さねばと躍起になるほどに、ね。あれを壊し損ねたのは確かにあなたたちの責任よ?でも、今やこれは全世界の問題」
ウヘルモノは、普通の神とは違う出自である。
邪神の名にふさわしく、生贄の恨みから生まれ、村人の旱魃という天災への嘆きから生まれた小さな民間信仰。
消えかかって、その形すら危うくなったそれが、神の血を引いた少女に望まれた。
ウヘルモノは人格を取り戻した。
そして、己の出自を思い出して、それを呪うよりも先に——少女を望んでしまった。
結果は惨敗であり、そして勝利もした。
少女の力だけが半分手に入り、そして神としての力が半分減った。
ウヘルモノは体を失ってなお、少女が欲しかった。
それゆえに、彼は『恐怖』に見出された。
『やぁ、こんにちは。突然だけど、僕を殺して異世界の神になってよ』
おぞましいそれが言葉を発して、彼はその言葉に迷うことなく頷いた。
本当であれば、きちんとした後継者もいたのだという『恐怖』を、止めることができなかった。
そして、その後釜に据えられたウヘルモノの制御を、元が弱い神だからといって、怠った。
その出自を考えることなく。
その欲望を考えることなく。
体を失ってなお存在していた執念を鑑みることなく。
「本当ならばアレを止めるのは神々の仕事…だから、あなたは神の失策の尻拭いをしなくてもいいのよ?」
「それでも、僕はやりますよ。大元の原因たるや僕とその親族。本当なら十年以上前、下手するとそれ以前に終わっていたかもしれないんですから」
バステトは小さく「そう、」と言って、僕にそれ以上その話を持ちかけてはこなかった。
「見えてきたわ、あれが国境よ!」
ルリエの声が弾んでいる。
「懐かしいなぁ…おい、今首都ってどこにあるんだ?」
「幸いなことにこの辺りの国境近くね」
僕は首をひねる。
「首都って、移動するんですか?」
「あぁ、この国じゃ大公が気まぐれでちょくちょく移すんだ。ひどい時は半年で移動させてた。まぁ親父とも呼べねぇが…な。母さん元気にしてっかな」
「ほうほう。さぞお美しい方なんでしょう」
「ああ。エキセントリックな性格をしてやがる」
「レイさんの母親ですから、きっといい尻尾なんでしょうね」
「あの訓練は地獄だったな…」
「ふたりとも会話が噛み合ってないわよ?」
「いいんじゃない?どうせこのデコボコンビに何言っても無駄よ」
と、国境警備兵に通行証を求められる。僕はさっと三人分の通行証を出して、ギルドカードも見せる。
「し、失礼いたしました!魔国フェムトの統治者魔王ルリエ様とドラグニル神国のお孫様であらせられましたか!」
地味にレイ・バステト組はスルーである。僕をスルーして欲しかった。
「今はお忍び中だから、騒がないでちょうだい」
「はぁ、そうらしいですね」
警備兵が変な顔をするが、職務を思い出したかのようにハッとなる。
「あの、到着なさいましたら、旅の疲れを癒すべく王都へご案内するようにと言われまして」
『ソームお腹すいたのー』
「は⁉︎す、スライムッ…!あ、いえなんでもございません…え、えと。とにかく王都へのご案内は…ですね、」
「れええええええいいいいいいっ!」
そんな言葉とともに、レイが吹っ飛んだ。
僕は『斬』に手をかけ、神経を張り巡らせる。警備兵がぽかーんと口を開けていたのが一瞬で把握できた。
砂埃の中から現れた虎の尻尾の少女は、レイに抱きついていた。
きゅっと吊り上がった目は金色に輝き、きらきらとエフェクトがかかっている。
可愛くはあるけど、登場からして残念な香りと幼馴染臭がぷんぷんする。
断崖絶壁美少女が現れた。
…なんか会うひと会うひとぺたーんかばいーんのどっちかだなぁ。
「会いたかったよぅ、寂しかったよーう!怪我とかしてない?変な女に引っかからなかった?…すん、すん…んん?女の匂いがする…華やかな匂いが」
それはルリエだ。絶対そうだ。
「まぁいいやっ!あそこの魔王と同じ匂いだもんね!ごろごろごろ〜」
やはりそうか。ってか僕の匂いはしないのか。びっくりだよ。
「ちょ、離れろ!」
「え?なんでよ。昔はシェルシェル〜ってよくくっついてきたくせに。ね、レイ。えへへ〜」
ルリエが僕の方を見ながら顔を引きつらせている。失敬だな。
「や、やめろよマジで!ガキじゃねぇんだからな、シェル」
「ぶー!ひどいよレイ。あたしレイに会いたかったのにぃ…」
「わ、悪かったって…今日は王都の案内しなきゃいけねぇんだって!」
「えー、そんなの上司に任せちゃおうよ。レイはあたしと…そ、その、指輪でも見に行かないっ?」
僕の手の中にあった針が鉄の塊に変わる。おかしいな、ちゃんと研いだはずなんだけど。
「へー、お前彼氏できたのか。こっちの用事が終わったら祝ってやるよ、指輪はそいつと相談して決めろよな」
「は⁉︎ちょ、ちがっ…あたしは、」
「へーへー、イイコイイコ」
その言葉でようやく平静——とは行かないまでも、若干頭の中が冷えた。
僕の口元が弧を描くように吊り上がる。ルリエが口もとを引きつらせて僕を見た。
そんなに怯えなくても取って食いやしない……はずだ。
僕はレイに抱きついている幼馴染と思しき女の子を見やり、ただひたすら存在を消しながら不自然に釣り上がる口元を押さえていた。
シェル「初登場☆シェルちゃんでーす!」
透「テンションがうざいですね。滅べ片恋絶壁幼馴染」
シェル「何その位置付け!シェル心外なんだけど⁉︎」
透「あ、残念っていうのもつけるべきでしたか…うっかりしてました」
透ちゃん手厳しくないですか?
透「あれ?いたんですか作者。死んだと思ってました」
フグッ…!刺さる…
次回は、フェンリル公国王都の見学です!




