26 お試しのようです。
「きょどるな!」
聞くまい聞くまいと思っていたことを、突きつけられた気分だ。
首筋の咬み傷。
気づいていた。
レイ・フォートリルが僕のことを好いていると気づいていた。
なお遠ざけたのは、ただ怖かったのだ。
そうであると知り、それを受け入れて、僕は裏切られることを恐れている。
これまでは恋を見なかったふりをしていた。
恋を通り過ぎていた。
今さら目を向ける?そんなのは怖い。怖すぎる。
見なかった自分の心を知ることがこんなに怖いなんてーー
僕はなんてレイのことを愛しているのだろうか。
******
「マリア、僕は今非常にデリケートな問題を結構重鎮が集まった場でぽろっと口にしてしまったうっかりさんにとっても腹を立てているのですよ」
「そ、そうか……」
「そのうっかりさん、仮にマリアさんとしましょうか。謝りもせずのうのうと僕の前に座り僕から逃げようとしているのか逃げられないと知ってなお足掻こうとしているのか、ともかく……きょどるな!」
「はっ‼︎」
軍隊仕込みの返事。
いいお返事だ。
うっかりマリアも嫌いじゃないけど、それは口にしていいと思ってないよね?
「僕は、怒っているんです。わかります?相手が怒っているなら何をすべきか」
「まことに申し訳ない。私のおしゃべりな口を縫い付けてくれてもいい」
「こっちはそうしてもいいんですよね?アレありますし」
マリアの顔がひくつく。
「本当に、すみませんでした」
「あは?許してもらえると、」
「つ、連れてきました……」
「な、何よ、私を罰するの?……生半可な痛みは通用しないんだから!」
「ええ本当に、いいタイミングでありがとうございます!マリアのお隣に座ってください。…どうしました?マリアのお隣に二人が正座で座るだけという指示すら聞こえないんですか?」
そんな言葉を聞いた瞬間、二人は座った瞬間も見えないほどのスピードで座る。
いい正座だ。
「では、マリアの質問はそこそこ終わっているので、ルリエに行きましょう。レイさんは、その次です」
「ご、ごめん透…」
「第1問!レイさんが僕を噛んだ時にどうして『教えて』くれなかったんですか?」
ルリエが「何でわざとって分かったの⁉︎」と小さく呟く。聞こえてますよ?
「……あとで誰かに見つかってからかえば、その鉄面皮崩れるかなと思って」
「ぶっ ころ す」
「…許してください」
「第2問。ルリエは兄から僕の話を聞いていたそうですね。何かまずい話を聞いたんですか?」
「いえ、妹が可愛いという話しか…」
「ならいいです。忘れてください」
僕はため息をついた。
「では、レイさん?」
ビクッ。耳と尻尾が硬直する。見ていて面白いけど、今はそれどころではないのだ。
「なぜ、僕の、首を噛んだのか、10文字以内で答えてくださいハイ時間は10秒」
「はぁっ⁉︎」
ここでヘタレたら、思い切り殴るのもいい。
「ーー勢い余って!」
「あは、それは答えとしては10点中3点です。感情面もきっちりと答えてくださいね?」
「ぅ…!」
意地悪な質問だ。けれど、僕は意地が悪くていい。
狡猾でいい。
何と言われようと、僕はレイさんの『言葉』で僕の心に楔を打っておきたいのだ。
「ーー透が、好きです」
「……そうですか」
あっさりと僕は答え、中空に手をついと伸ばした。
そこから引きずり出したのは、僕がエリクサーの残りの材料から作り出した謎のお薬①②③。鑑定では、細かな効果のほどはわからない。
効力の実証をしてもらおう。
「お好きなものをどうぞ」
「これは、一体…?」
「思っていることを素直に言ってしまう薬、何を見ても感動する薬、痺れた足が突かれたくらいの痛みが常時体を襲う薬の三つです」
「随分とひねくれた取り合わせだなおい⁉︎」
「…最初のだけは当たりたくないわ」
「同意する…!これでシグムントと会おうものなら私は…!」
「三本混ぜてどれがどれだか分からなくなってしまったので(嘘)」
「は?」「え?」「マジか…!」
「生体に悪影響はないので飲んでください」
キュポ、ゴクゴクゴク。
「甘い!」
「本当にあれの余り成分で作ったのか……⁉︎」
「にしてはおいしいわね」
「…3、2、1、0」
「…特に何も起きないーーふぉおおおおおすごいわこの造形美!芸術品よっ!」
「にぎゃああああああいだいいいいい」
「透はほんろうにきゃわいいにゃ…!スベスベモチモチのお肌なんれうらやますぃー…!」
「検証終了」
っていうかマリア酔ってる。
効力は高々3時間だからな。
こほん。
レイが痺れ薬で、ルリエが感動薬。マリアが素直薬か。
なかなかの出来栄えである。ただし、マリアは酔っ払った。改良の余地がありそうだが、材料が足りない。今度は自分で狩りに行こう。
「地味だっ…地味すぎる!なのに立てねぇ…!」
「この畳の目!正に至高!」
「ふぇええシグムントに会いたいぃ」
収集がつかなくなってきた。
僕は絆創膏を首筋に貼ってさっと部屋から出ると、二人の勇者の元へと歩を進めた。
ルリエ「すごいっ…すごいわああああこの机!落書きもさることながらこの脚の直線美!」
レイ「み゛ゃああああ」
マリア「らからぁ?シグムントらぁしょんなのらめっていうからぁ」
透「何たるカオス」




