25 ブチ切れたようです。
ソーム「ますたぁがおこなの…」
そしていつもより長い。
〜side マリア〜
「とっ…とととととと透⁉︎」
こいつこんなところで何をやっているんだ⁉︎
一人を除き、勇者たちも若干引き気味である。おそらく隣の金髪美少女が魔王だろうと当たりをつけて、本当に友人になるとは、とため息をつく。
にしても本人、棒読みにもほどがあるぞ?
「あーそっちがシグムントさんですか。どうも初めまして(笑)、透です」
「…あ、あー…ああ、シグムント・アルファだ」
そりゃ棒読みにもなるだろう。
緑金色の髪ドラグニアのキモノの上に無造作に垂らしてはいるが、とても美しい。若干化粧をしているのだろう、頬にいつもより赤みがさしている。
「僕はエルセリアの勇者で、異世界から召喚された白石蓮夜です」
「…眞月圭一」
「美優ですぅ」
「嶺緒…よ」
全員が同時に蓮夜に『まだ分からんのかこいつ』といった顔を向ける。彼女の美優がしょうがないなあ、といったかんじで前に向き直った。
「怪我の具合はど…いかがでいらっしゃいますか?」
シグムントのしゃちこばった質問の仕方に、透が無表情に近い顔になる。私はあの顔を知っている。
ーー奴め大爆笑手前ではないか。
「ええ、自作のポーションを」
「その、信じがたいのだが…いや、おま……御身ならば可能だろうが、レシピを教えていただけないだろうか?」
シグムントは若干勘違いしている。
透の『ものづくり』は、なんでも作れるが、何かをゼロから作り出すことはできない。
そして、原料さえあればいいというものではない。
武器ならばどんな形状で、どんな作り方をされていたか、そしてどういうギミックで動いたりするのか。
そういうものを完璧に理解していなければならないのだ。
透は「いいですよ?」と首をかしげる。いやこんな要求通るのか?もしかして材料が手に入って、作り方もどこかから持ってこれたからこそなのか?
「まずは、フェンリルの体をぶつ切りにしてーー」
「いやちょっと待てフェンリルって」
A級の災害指定種の体をぶつ切りに?冗談にもほどがある。
「いえまだまだこれからですよ?次はギガンテスの小指の爪一枚と」
「どっから取ってきたんだよ」
ちなみにギガンテスもA級災害指定種だ。くくり?
A級以上には通常種と災害指定種がある。
災害指定種は『食事など以外の目的で人間を大量に虐殺する種、あるいは存在自体が災害と言える』という定義である。
わかりやすくいこう。
A級の強さだが、食事など必要のないとき以外は人を襲わないのが通常種。
A級災害指定種は必要なくても楽しむために襲う。
まぁ、普通のAランクが束になってやっとだろう。
シグムントのツッコミをスルーしてさらに続ける。
「それからドラゴンの舌を十ほど」
「もういいわかった作れないことがわかっただけでも十分だ」
「ちなみに僕がこれを開発したのはノリでした」
「ノリでこんな秘薬作られてたまるか!」
冴え渡るシグムントのツッコミを少しウザそうな目で見て、ため息をついて視線を私たちの後ろで、傲岸不遜に立っている勇者たちに向けた。
「で、時に皆様魔王を倒しにいらっしゃったそうですね」
「ああ」
「…そのつもりなのが約1名ね」
嶺緒のつぶやきに皆が同意する。よくわかっていなかったらしい圭一は、嶺緒が説得したようだ。
というか、籠絡された。
説得にはけっこう時間を要したが。
「では、どの国にも益となる解決方法を提示いたしますね」
その場がざわつく。それはそうだ、この状況の解決法などあるわけない。
「そうは言うがな、あんたはこういう場に初めて顔を出すんだろ。すっこんでたほうがいいんじゃねぇの?」
圭一のそんな呟きもスルー。
「この場に解決方法を提示します。ではここに、『全世界バトルロワイアル大会』の開催を提案します、わーぱちぱち」
完全にその発言を無視して、透は話し続ける。
「…ちょい待った。それどういう解決方法だ…ですか?」
もはや取り繕うのも無理そうなシグムントに、透は心底何か腐ったものでも見るような目だ。
「えー?まだ分かんないんですか?頭悪いんですか?まぁいいや説明しますね。シグムントさん以外の人はわかってるかとは思いますけど、い・ち・お・う親切に懇切丁寧にこれ以上詳細に描けないほどお教えして差し上げますね」
私も分からんのだから、これはシグムントにたいする嫌味だろう。
案の定シグムントの額には青筋が浮かんでいるが、わからないらしく口を閉ざしている。
説明は次のようなものだった。
開催は、ドラグニア神国。観光を売りにしているこの国では、そういう貴賓のもてなしに長けているという。観光客の呼び込みを期待しての効果だ。
フェンリル公国。これは、会場で検査官などに当たってもらう。感覚が優れているため、薬剤での強化などに敏感だ。異質な魔石の感知も出来る。
ロアス王国。これは冒険者などの力を誇示し、強さを発揮する機会を与える。Sランカーの腕が鈍ったりすることを防ぐ。もちろん宣伝効果もある。
小国群ティリア連邦。医術が発達しているため、感染病が起こった場合などに対応してもらう。
魔国フェムト。戦闘時の結界、乱闘時の調停役など警備などを担当してもらう。来れない人のために魔法具で中継などもしてもらう。
そして、エルセリア王国。武具を『不正のないように』作ってもらい、その武具を使ってもらう。国内限定ではあるが、奴隷の売り込みもついでにできる。
「ま、要するにドラグニアにもフェンリルにもロアスにもティリアにもフェムトにも、もちろんエルセリアにも益のある提案だと思うわけですけど、その辺のところどう思います?」
私は舌を巻いた。
実にうまい。どの国も自分の持ち味をアピールできるのだ。ドラグニアで出入国管理をすれば、ドラグニア領内での人攫いもゼロに抑えられる。
「確かに…だが、あんたらの国じゃ奴隷制を容認はできないだろう?俺も正直奴隷制は廃止すべきだと考えてる。その考えは良くないんじゃ、」
「何言ってるんですか?」
心底ダメなものを見る目でシグムントを見下し。
「その国の代表としてきてるわけじゃないとは思いますけど、一応ここは国交の場ですよ、国の立ち位置も守れないんですか?立場をわきまえてらっしゃらないのはそちらです」
透は吐き出すようにそう言って、息を整える。そして大きく息を吸い、私の方をちらりと見て。
「あなたは一体誰、いえ何の味方ですか」
そう痛烈に、シグムントに言い放った。
「そんなつもりじゃ、」
「そんなに自分の国がいやならとっととクーデターでも起こして潰してしまえばよろしいのですよ」
『ハァ⁉︎』
横に控えていた宰相のような人までがそんな叫び声をあげた途端ーー。
「「天誅ッ‼︎」」
そんな声とともに背中にドロップキックを食らわせーーられなかった二人組が、透の前に転がる。
「いや流石に何言ってんだよ」
「ヒヤッとさせないで頂戴!」
こちらも肝が冷える。というか魔王のドロップキック床がえぐれてるぞ?
「何ですルリエ、レイさん。床に転がる新しい健康法ですか?」
「「あんたが避けたんだろう!」」
「全く油断も隙もねぇな!一応俺も国政の関係者だぞ!」
「だいたい何よ、クーデター推奨の神の孫って!」
「えへへ」
「えへへじゃねぇよ」
顔が全く笑っていない。何のプロだ。
「勇者の皆様はさっきの提案を他国が全て呑んだ場合には魔王と後腐れなく戦闘できますので、ぶっちゃけちょっとおとなしくしてくださいね」
「透ったら本当に問題解決したわね」
「俺も正直言ってびっくりだよ」
蓮夜の様子が若干おかしい。まぁ望んでいたのとは少々違う結果となっただろうが、納得はしてくれるはずだ。
「んじゃ、僕はこれでとっとと冒険者に戻りますね。神族なんて肩が凝りますし。あ、もう一人弟か妹がいても僕はいいと思いますよ?そしたら僕がどうこうすることもありませんし」
そんな爆弾発言の後にニコニコ笑って控えていた奥方が、「じゃあお父さん誘惑してくるわ❤︎」と出て行ったのが非常に印象深かった。
透、丸投げか?
何というか、あの人と夫婦になった人はわりかし大変そうだ。
「…はい、じゃーお疲れ様でーす」
そんな気の抜けた発言をして、彼女はこちらに歩いてきた。
「勇者様長旅でお疲れでしょう?宿まで案内しますねー」
「……ええと、ちょっと調べたいことがあるの。図書館まで案内してもらえるかしら?」
「俺も」
「じゃあ、あたしぃ先に蓮くんと戻ってるからぁ」
甘ったるい声を出して去って行った二人の元に、一人のドラグニルが駆け寄っていった。
「で?どういうことなのこれ?透くんーーいえ、透さん?」
「まーまー殺気立たないでください。あんまりカッカすると禿げますよ。……正直僕もそんなつもりはなかったんですが、お祖父様がなぜか神様になっていまして。ぶっちゃけ召喚神がお祖父様です」
「「What⁉︎」」
二人がよくわからない言葉で叫ぶが、おそらく「どういうことよ!」みたいな意味合いなのだろう。
「あそうだ。レイさん紹介しますね。レイさんちょっと来てください」
「…どうした?って勇者じゃねぇか!お前歓談してる場合か⁉︎」
「大丈夫ですよ、少なくとも僕よりずっと常識人です」
「お前ダメじゃねぇか」
ぐだぐたする会話を始める。と、私から見てだけだが、その首筋にちらりと紅い……え?
え?
重ねてえ?
「…というわけで、旅の同行者レイ・フォートリルですわーパチパチ」
「何かイマイチアレだな…シマらねぇな」
レイ・フォートリル。
こんな態度の透は初めてだ。そうか。そうだったのか。
厭世家が丸くなるはずだ。
「どうしましたマリア?」
「い、いや私はいま信じられないものを目にしているなと思ってな!…そうか、透も恋人が」
「何を言ってるんです?」
「だってその首の噛み傷、おそらくだがレイ・フォートリルにつけられたものだろう?恋人の証なんだぞ、見られたくないなら包帯でもなんでもーー」
透が大きく首を振って、レイ・フォートリルの胸ぐらを片腕でがっしりとつかむ。ちょっと浮いてしまうほどに。その細い腕のどこにそんな力があるのだろうか?
「レイさん、ルリエを呼んできてください。今・すぐ・に」
「…ごめんなさい」
「謝罪は要求していませんよ?ルリエのバカを呼んできてください。そう言ってるんです。そのお耳が飾りなら今すぐちょんp「呼んできます‼︎」
くるり、とあまりにも美しい所作でこちらを向く。
見たことのない、美しい笑顔。
「マリア?ちょっとお話を伺っても?」
「あ、ああ構わんぞ?」
ーーその笑顔は、私が今まで一番恐怖していた何よりも恐ろしかった。
マリア「一体私はどうなってしまうんだ⁉︎」
透「迂闊な自分を呪うことから始めてください」
ニコニコな主人公はごっつこえぇ…!




