20 想像の枠外のようです。
内臓ミキサー。
「魔王…!?」
「ちょっと待て、じゃああの商人って」
僕は小さく舌打ちをして、シュナイダーさんの背後へ、元の脚力と縮地を使っただけで回り込み、亜空間収納から引っ張り出した短剣を喉元へ突きつけた。
「な、にを」
「危害を与える気はないです。人質になった、そのポーズだけでいい」
察してくれたようで、僕の掴んでいる手からは力が抜けた。
「ちょっと透…!?」
レイにちらりと視線を送ったところ、はっと気づいたように表情を変え、息を大きく吸い込みつつ馬車の荷台から飛び降り、そして。
≪がああああああああああああああ!!!!!!≫
大気がビリビリと震えるような『咆哮』。
レイのスキルの中にあり、敵を数秒怯ませる効果を持つ。もちろん自分よりはるかに強かったり、耐性スキルを持っている者にはききにくいがーーこういう場ではかなりの威力を誇る。
その威圧に当てられ動けない冒険者たち。
僕はその隙に重力喪失装置を亜空間収納から取り出して、五メートル四方の布一枚に乗せる。起動時間は5分、しかも一度使ったら壊れるクソな出来である。
「乗るわよ!」
「おう!」
この装置が作動したのち、僕しか重力操作はできない。今地面を離れるわけにはいかないのだ。
だが、僕は少し読み違えていた。
「魔王…殺すぜ!」
そんな声とともに、突っ込んで来た一人の青年ーーダレスト・フィディリャク。鑑定スキルで見ても、たいした事はない相手だ。
しかしながら僕は、『スルースキル』を使うわけにはいかなかった。
重力喪失装置は、僕が触ることで発動する。いや、もう起動『した』。斬を差している右側は既に装置に触れていて、動かせない。
左手は刀一本であれを捌き切る程の技巧はない。
僕が透過すれば仲間や装置に危険が及ぶかもしれない。
だから、気がつけば。
「ごふっ…」
口からは大量の血。消化管が傷ついている。胃か?
腹部から槍の先が生えている。肯定だよ。
別に僕がこんな内臓ミキサーな状況を冷静に見れる程痛みに強い、なんてことはない。
痛すぎて、脳が情報を受ける事を拒否している。
どこか遠い所で、幻痛があるような。
だから僕は腹筋に力を入れた。そしてそのまま装置ごと後ろに飛んで、ぼたぼたと地面に零れる、というよりはちょっとした水たまりくらいは形成しつつ、レイに引っ張り上げられて乗った。
動くたびに体が軋む。
痛みはじわじわ僕自身を蝕んだ。装置に命じて半分笑って空へ、国境を超えろと命じた。
「えり、く…さー」
呂律が回らない。
顔がひどく強張ったレイの手をぎゅうっと握りつつ、ルリエに槍を引き抜いてもらうことにした。
槍の柄に華奢な手が触れる。わずかな振動に、僕はもともとしかめていた顔を苦悶に歪める。
その後、僕は強烈なまずさとあの柔らかな感触を、全く動かない体と働きもしない頭で、他人事のように……。
すぅ~すぅ~……。
寝息が聞こえる。僕はあの時腹に大穴を開けられたはずなのだけども。少なくとも感じる限り、欠損はない。身体の内の魔力もまったく問題ない。
だるさに鞭打って、身体を起こしつつベッドの端でぐーすか寝ている物体にちらっと目をやった。
「むにゃ」
「…っ!!」
レイがぐっすり寝てる。
頭をぽふっと撫でると、にへっとだらしなく笑う。耳の後ろをかきつつ、僕はぼんやりとあたりを見回した。
和室に無理矢理置かれたようなベッド。本がぎっしりみっちり詰まった本棚。テーブルに無造作に置かれたいくつもの金属細工の数々。教科書は積まれて横に避けられている。
男か女かどちらが住むか分からない、そんな部屋で、僕は呆然としていた。
こんなことはありえない、そんな思考回路を頭を振って打ち払う。
「どういう、ことだ」
ーーここは僕の部屋じゃないか。
透「マジ痛かった死ぬかと思った」
すんません。でもほら、レイに役得だsぶべりゅっ!?
レイ「死んで、詫びろ」
みぎゅあぁぁぁ(以下ちょっとアレな画像)
ルリエ「よーしゃないわね」
透「それよりもどうして僕の部屋にレイさん入って来てるんですか。兄の不法侵入を除けば初男子ですよ」
???「そりゃないだろう、透、おj」
あーあ、ダメですよまだ本編出てきてないのに、そんなことするから。次回は「何で僕の部屋に!?編です」
NOOOOOO……!




