閑話 勇者嶺緒(レオ)の葛藤
勇者③の心の中。
私が、恋人の眞月圭一とこの異世界に来て三ヶ月。
お前誰だって?
…どうやら作者、あたしの名前出し忘れて…え?わざと?
こほん。
それはさておき、今は迷宮がある、王都からはずっと離れた都市ディアナに向かいがてら、魔物を倒す練習だ。あたし達は城で培った技術を如何なく発揮ーー
出来なかった。
『グギャアッ!!』
「ヒィッ…クサイ!?」
すくんだ美優を責められる者は勇者四人にはいなかった。
殺し合いどころか、裏路地に入ったことすらないあたし達に生き物を殺せなんて、そんな酷薄なお願い。
だけど、やるしかない。
城で教わった魔法。呪文はイメージを確固たるものとし、技名はそれを発言させる。
言霊のようだ。
「炎の精霊よ、我が身に宿りし魔力を糧とし火球を為せ、『ファイア』!」
噛みそうになったのはご愛嬌。圭一があんぐりと間抜けに口を開けていたのは分かった。
踏ん張りのきかない場所で魔法を撃ったために後ろへ吹っ飛ばされたのだけれど…。
「やったか!?」
あっ、フラグじゃなかったよ?そうじゃないんだけどさ。
「……グロい」
焼け焦げた子供くらいの身体は上半身を吹き飛ばされて、中身を飛び散らせていた。
きもち、わるい。
胃の腑の中身をなくなるまで吐き出した後、ぼんやりした頭で考えながら、私は気絶した。
「…きろ、起きろ!」
「はっ…!?」
キィン、と剣の音。ゴブリンがその数を増している。ゆうに十数体。ついて来た女騎士のマリアと他の数人の騎士が剣をふるっているが、全くダメである。
震える足に鞭打って立ち上がり、呪文の詠唱を始めようとする。
「…っ…!?」
声出ない。
怖い。恐いコワイコワイコワイーー!
「ハァッ!!」
マリアの剣が一瞬煌めいて、魔物数体を一閃する。他の騎士もあっという間にそれらを屠り始め。
「…ぁ、」
結局あたしはなんにも分かっていなかった。
騎士達がゴブリン相手に手間取っていたのは、私たちを戦わせて成長させるため。
私たちが褒めてもらっていたのは、剣の腕ではなく、チャンバラごっこだったのだ。
「貴様らそれでも勇者のつもりか!?」
「だ、だって」
「ほう。命がかかっているというのに成長もしないのかこの愚図」
マリアの豹変に顔から血の気が引いていくのがありありとわかる。さすがヘタレンヤ、君は期待を裏切らないね。
「三人は攻撃すら出来ずに引いたそうだな」
「「「ヒィィッ!?」」」
「残り一人は一匹吹っ飛ばして気絶…先が思いやられることだ。奴なら少しは違ったかもしれんが…」
「奴?」
誰の話だ?この世界の住人?そんな訳ない。
今話をしている相手が異世界人だから、知っている中でその人のことがぽろっと出たんだろう。
「トオルのことだ。奴はあれで剣術を結構いいところまで引っ張って行くことができたのだ」
「じゃあなんであたし達を!?殺したこともないのにっ!もう嫌、返してよ!」
積もり積もったそれが、ゆっくりと溢れ出して。
来たばっかりの時、あたしらははしゃいでいた。勇者?願ったり叶ったり。憧れもあった。魔法を使えると聞いてワクワクした。
一ヶ月で魔法を習得した。その時出て行った彼を、見送ることすらしなかった。訓練は実際思っていたよりずうっとキツかった。
二ヶ月目、剣を一時間素振りできた。喜んでいたら、実戦形式でいたぶられるようになった。一ノ瀬がいないことを恨んだ。
三ヶ月目、夢から覚めた。
「…我々の都合だな、申し訳ない」
マリアは悪くない。わるいのはあたし。
逆らえないマリアに鬱憤をぶつけ、悦に浸る卑しいガキ。
何を間違えたんだろう。
何がどうして、こんな事になっているのだろう。
マリアはあたし達を馬車に乗せて、自分たちは馬車と並走し始めた。
とんでもなく、自分が惨めだった。
地の文では一度たりとも名前出てないはずの嶺緒の胸の裡。
次回の勇者をお楽しみに!




