13 対人戦のようです。
ジルベルトは両側を森に挟まれた所で立ち止まった。
「皆さん、申し訳ないがーー俺はここまでだ」
「ええ。わかっています」「何だよ、やっぱりか」「そうよねえ」
その言葉に貼り付けたような笑顔で応えるジルベルト。その目はどこまでも無感動だ。
「美少女一人、銀狼の獣人一人、スライム使い一人ーー商品価値は十分だ」
人攫い。分かってはいたことだけれど、がっくりくる。この謹厳実直そうな男は一体なぜこんな方向に足を向けてしまったのか。
「分かっていたんですよ。アルベルト・フーバー」
その言葉に彼の嘘くさい笑いが凍りつく。
「なぜ、それを」
「鑑定したんですよ。他人のステータスを見る忌避観は僕には欠如したものです。ですから、あなたの偽名も嘘だと分かっていたんですけど」
僕は彼が全く別の理由で名を隠しているかもしれない、その望みもあった。だから、レイが何か思っているようなこともあえて無視して旅を共にした。
「あなたは予想以上にバカですね。旅路を共にして高々数日、戦闘も単独ならあなたのしたことも特に無い。おおよそ獲物にかける手間などないと言った所でしょうか?」
「その通りだな」
わらわらとなだらかな丘の斜面の死角から、茂みの中から、人相の悪い男たちが出て来た。
「わー大変ですねー。僕は捕まらないよう頑張るので、レイさん、ルリエ頑張って下さ〜い。おっとしまった、エリル」
「る、ルリエ……まさかその子供!?」
「あら、あなた大丈夫?私は人間に手出しはしないわよ。まぁ、危害を加えられたら別よ?正当防衛ですもの」
ゴシゴシゴシ…
ルビがおかしい。
「おうてめぇら逃げんなよ?どうせハッタリだ!!」
「そうだぁ!怯むなっ」
「い、いやいやいや気持ち悪いッ!?あたしは細身の美少年がハァハァ(っじゅるり)じゃない来るなってんでしょう!?」
ルリエ…確かに兄は細身でいい顔立ちしてたけどさ。
あれはどうかと思うよ?
ジリジリと迫って武器を構える野郎どもは僕らを確実に追い込んでいく。うーん、いまいち緊張感が無い。
スカッ
スルッ
ゴキャ
「あっ…僕がスルーしたせいで味方を殴ってしまったんですねざまぁw」
「えげつねぇぞ」
「『斬』、いきますよ~。『瞬光斬』」
緊張感の無い声とともに盗賊の一人が傷も負わずに倒れた。この『斬』の技の一つ、瞬光斬は切れ味が鋭いが故に、いや鋭すぎて、表面的には皮膚は切られていないように見える。赤い線は残るけど。
要するに、内側だけがダメージを負う感覚。
「血抜きすべき獲物でもないですしね~」
「オイオイ。お前顔色一つ変えずこいつ斬り倒しただろ」
「ええ。ここはもう元いた場所じゃありません。真綿の様にくるんで来た安全のおかげで、目を逸らして来れた現実を認識できるんです」
死。
父は暗器の使い方を教えてはくれたが、使うことはなかった。祖父は殺す気でいっても、返り討ちにされた。
そして、僕は今戦いの場にいる。相手は僕らが手に入らないなら殺してでも手に入れたいと思っているだろう。
頭上を大刀が凪ぐ。と、いつになく危機感を感じる。
「ほう、避けたか。俺は珍しい『スキル無効』のスキル持ちでな」
「珍しい、ってことは他にもいるんですねぇ」
「今更どうでもいいことだろう!?」
結論から言えば、僕の正体を隠すためのそれが剥ぎ取られる。
「あーあ、高かったんですよ?」
緑を基調に、玉虫の様に七色に光を跳ね返す長髪がぱさりと背に落ちる。
一瞬のうちに僕の頭を撫でるように斬ろうとした大男は顔面蒼白になり、へたり込んでいる。
「どっ……どら、ドラグニルっ……」
「あーあ、だからやなんですよね~。僕だってマリアに見せた時えらい驚かれて傷ついたんですよ」
「そんっ、だっ、…人間……」
「あ、そうですね。僕はクォーターだったので問題なくヒトと表示されるはずです。まぁ人より寿命は伸びますしちょっとは頑丈ですけど、それ以外は普通ですよ」
僕の祖父はドラグニルーーこちらではそう言うらしいが、うちの方では神龍だった。まぁ神様の子供なんて神話があるのだから別にいたっていいだろう。
だから、マリアと風呂場で出会った時にものすごい驚かれ方をして逆にビビった。
「ど、どどどっっどどどどどど!?」
壊れた再生機のような声をだして、彼女は尻餅をついていた。乙女がはしたない。
「おい何でんな大事なこと」
「マリアにもエリアにも口止めされたんですよー…」
「ふーん」
あの二人はひとしきり驚いた後、「まぁいっか」とけろりとしていたのだ。僕に「滅多な奴には言うなよ」と念を押して。
「レイさん、下がりましょうか」
「え?」
「ルリエが焦れてます」
「面倒ねっ!?えーやりますやればいいんでしょ!『業火滅却』!!!」
熱波が襲い、引っ張り出した対魔装置20個中18個をぶっ壊してそれがあたり1km四方を更地に変えた。




