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吸血姫アルヴィナンテ  作者: 執筆野菜ブロッコリン
第一章 帰郷
13/14

旅人よ、自らを省みる時を大切にせよ‐6

 ◆


 走る。

 走る。

 泥に塗れ、木の根に足を取られながらも尚、闇夜の中少女は走り続けた。

 ――背後で膨れ上がる殺意。

 身を翻し、しかし、酷使し続けた足はもつれ、ぬかるんだ地面へとその身を投げ出す格好になってしまった。それが少女の身を結果的に助ける事になる。

 轟、と。少女の上半身があった周囲を巻き込んで、岩の砲弾が通過した。遅れてやってきた突風に吹き飛ばされながらも砲弾の行く先を見やると、視界に入るのはまるで爆撃された後かの様な光景。直撃したであろう木々は根元から消え去っていた。

 

「……自分の思い通り如何様にも、とはいかないものか」


 呆然と目の前の光景を眺める少女の背後。少々の困惑が見える声色での呟きが聞こえた。

 岩の砲弾が飛来してきた方向から現れたのは、オールバックの男。泥だらけの少女に対し、纏うスーツには汚れ一つ見当たらない。


「ローウェル……。何のつもり、なの?」

 

 男――ローウェルは少女の質問にまるで頓着せず、慇懃無礼に宣う。


「さて、アルヴィナンテ嬢。貴女にはまだまだ絶望してもらわねばなりません。早々に次へと行って頂きましょう」


 翳すその手に殺傷度の高い魔術式を展開させ、放つ――その直前。


『うわ、心折にきてるやつじゃんこれ。趣味わりーなあ』


 気の抜けた、というよりも。

 元よりやる気が存在していなかった様な、そんな声が辺りに木霊した。


 ◆


 地脈の探索――発見。

 接続の開始――終了。

 術式の行使――可能。

 アルヴィナンテを見送って数分、戦闘準備を整えた彗一は大型の自動二輪で以て猪苗代湖へと向かっていた。

 普段であれば地脈との接続などせず、大気中の霊力――様々な派閥を統合し、名を改めた退魔師風に言うのであれば“マナ”か――のみで十分に戦闘が可能である。しかし、今回に限っては“澱み”の真っただ中での戦闘が予測される。更に言えば、あそこまで規模の拡大してしまうとマナは存在しなくなる。その為、地球の血管とでも言うべき力の奔流たる地脈と自身とを、命綱宜しく結んだのである。

 しかし――


(どんだけ持つかねえ……)


 地脈との接続などここ数年、まともに行っていなかった。全力での戦闘行為など、最大で二○分。しかしそれは体への負担を全く考慮していない数字であり、一〇分を超えた時点で肉体は悲鳴を上げ始める。

 地脈との接続とは、狭い通路に無理やり大量の水を一度に流そうとする様なものであり。常日頃から身体に馴染ませておかなければ、内側から弾け飛んでしまう可能性すらある手法である。家を出る前までは毎日の様に行っていたとは言え、数年のブランクは決して無視出来るレベルではなかった。


「ま、何とかなるべ」


 言って、彗一は大型自動二輪のハンドルを道路の外へと向けた。外壁の隙間に張ってあったバリケードを突き破り、中空へと飛び出す。一瞬の浮遊感の後、感じる重力。傾く車体。されど涼しげな顔に恐怖一つ浮かぶ事もなく。

 柔らかな衝撃。

 傾いでいた車体が喰らいついたのは地面ではなく、淡く光る曼荼羅模様。退魔師の基本中の基本である結界術。攻勢術式を阻む他にも足場としても用いられるそれは非常に使い勝手がよく、彗一自身もまた、好んで使う一人だった。

 

「……はあん?」


 空のドライブも終わりに近づいた頃、彗一は猪苗代湖周辺の様子が可笑しい事に気が付いた。

 ――湖の浄化術式が全く機能していないのである。定期的に行われている“澱み”払いとは別に、日頃から湖を浄化する為の仕組みは整えらている。しかし今は、それら全てが機能を失っていた。


「おいおいおいおい、まじかよ……」


 そうして目に映ったのは、猪苗代湖の湖面に浮かぶ巨大な魔方陣だった。

 それが為すのは、広域一帯における“澱み”の集約。即ち、大規模な災害が起こる事を意味していた。

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