旅人よ、自らを省みる時を大切にせよ‐5
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どうやら少し微睡んでいたらしい。
夕暮れが窓から差し込んでいて、部屋の中はすっかり茜色に染まっていた。強張った体を伸ばしながら、少しだけ冷たくなった風に暫し目を細める。
そうして大きく伸びた所で部屋をノックする音が響いた。入室を促すと、顔を出したのは屋敷で働いている顔馴染みの女性給仕。。
「アルヴィナンテお嬢様、夕飯の支度が整いましたので食堂へお越しください」
「はーい。所で今日は、」
「奥方様はつい先程ご帰宅されましたよ」
ふふ、と笑いながら女性給仕。なーによー、いーえー等々楽しげに会話をしながら二人は食堂へと歩を進める。
「――母様っ」
扉を蹴り破りかねない勢いで飛び出してきたアルヴィナンテの先には、金髪の麗人が待ち構えていた。それを見やり、彼女は胸元へとダイビング。そうして顔を上げ、
「おかえりなさいっ」
「はいはい、ただいま帰りましたよ」
嬉しそうに笑うアルヴィナンテと、彼女を穏やかに見つめながら抱き留める母親。
――そんな微笑ましい光景は、唐突に終わりを告げた。
「え、」
金色のショートカットから覗くピアスの鈴が、ちりん、と鳴った。
転がった麗人の頭部から流れ出る血に、むせ返る様な鉄の匂いが広がる。あったはずの空間に広がるのは紅、ただ一色。
自分を抱き留めていた母親の体が崩れ落ちるのを、アルヴィナンテはただ呆然と眺めていた。
◆
「――悪趣味ね、相変わらず」
力なく項垂れるアルヴィナンテが呟く。吸血鬼としての力を奪う魔術式が、暗闇の中彼女を仄かに照らし出す。
「効率的、と言ってくれるか。手を汚さず、悪夢で勝手に自滅してくれるのを待つだけ。非常に簡単だ」
くく、と暗闇の中堪え切れないといった様子の笑い声が聞こえた。そうして魔術式の明かりの中に現れたのは、オールバックの男。大仰な仕草で宣う。
「しかしまあ、なんだ。こうも上手く罠に掛かってくれると、私が逆に嵌められているのではないかと不安になる」
「……うっさいわね」
アルヴィナンテを捉えた男は、この異様なまでの“澱み”の濃さは自分の手によるものだと語った。そしてこれは邪魔な彗一を先に始末する為の餌でもあると。
ちら、と視界の隅にある起動していないゴーレムを見やる。男が普段好んで用いているヴァルキリータイプではなく、マッシブなシルエットを持つ見た事のないものだった。ここに集めた“澱み”を媒体に作り上げたらしく、彗一を始末する為に用意したと言っていた。
「さて。それではもう一度、夢の国へと旅立ってもらおうか」
男の指先に灯る暗い光を最後に、アルヴィナンテの意識は消え去った。
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