第一章 魔女狩りのセイラム⑦
まもなく辿り着いた古城それ自体はありふれたものだ。
ツタの絡みついた白壁に、上質なアルドワーズで葺いたブルーグレーの屋根。
入口には鉄の門扉が嵌められており、レオナルドが軽く手を触れると重苦しい音を立てて勝手に開いた。
「歓迎はされてるらしいな」
古びた外観とは対照的に、城の中は美しく整えられている。ただし調度品の色は全て黒。絨毯、カーテン、花瓶や燭台まで黒で統一されている。
「城全体が喪に服しているよう……」
シャルロットが思わずそう呟くと、どこからともなく声がした。風が吹く前に聞こえたものと同じ声だ。
『察しがよいな。我が愛猫スーリヤの葬儀を終えたばかり故、内装については許されよ』
「それは、お悔やみ申し上げます」
シャルロットの言葉の後、わずかばかりの間があった。
『……うむ。死を悼む者は多いほうがスーリヤも喜ぼう。あれは寂しがりだった』
出所の掴めない声に、レオナルドは天井を見上げながら問う。
「あんたがマドレーヌか。喪中のとこ悪いが、こっちも大事な用があって来た」
『知っているとも。城の最奥、謁見の間まで来るがよい』
言われるがまま、黒に埋め尽くされた廊下を進む。その突き当り、黒檀の重い扉を開くと、そこには一人の女が玉座に横柄に腰掛けていた。
歳はレオナルド達より少し上、シャルロットの従兄リュシアンと同じくらいか。服装は城と同じく黒のドレス。黒と白の髪を結い上げ、ワインレッドの瞳でこちらを見据えている。
「ようこそ我が城へ。城主のトリキルティス・マドレーヌである。諸君らの奮闘ぶり、実に楽しませてもらったとも」
ここまでの道のりも知っている様子に、シフィナも不気味そうに体を抱く。
「しっかり見られてたってわけね。趣味悪い」
「くく、許せ。なにせ退屈でな。して、かくも過酷な道を辿ってきて、我に何を求める? 何を問う?」
シャルロットは一瞬言葉に詰まる。生屍発生の黒幕かと問えば真偽は明らかになるかもしれない。だがもし違えば、生屍の調査はまた振り出しに戻ってしまう。
たとえ黒幕だったとして、果たして捕縛などできるのか。この超常の力を持つ女を。
「答えろ」
そんな逡巡は、レオナルドの言葉で途切れた。
「あんたが『消却者』か?」
「ほう、言うに事欠いて『消却者』ときたか」
「セイラムで聞いた話じゃ、生屍とかいう化物は一ヶ月くらい前に突然現れたらしい。
自然現象とは思えねえし、そもそもセイラムは『悪魔』の世界だ。そこにゾンビがご登場なんざ、消却世界から持ち込まれたって方がしっくり来る」
「ふむ、このマドレーヌを、失われた並行世界の生き残りであると推理したか。その無念から生屍を持ち込んでこのセイラムを消却しようとしている、と。仮説としては面白いが残念。ハズレだ」
ロスト、ロストワールド。
突然使われだした耳馴染みのない単語にシャルロットは戸惑う。
いったいレオナルドとマドレーヌは何の話をしているのか。両者の言葉に嘘偽りはなく、真剣に本当の話だけをしている。その事実がますますシャルロットを混乱させていく。
「それにしても我が消却者か。スーリヤの喪中でなければ八つ裂きにしている暴言よな。レジスタンス……いや」
くつくつと笑いを漏らしながら、マドレーヌはレオナルドを指さした。
「『アンチホープ』、レオナルド・ヴェルメーレン」
次のエピソードからようやっと第二章に入ります。
次回更新は1日間をいただいて11月2日 19:00となります。
本エピソードで登場したマドレーヌとスーリヤの前日譚については、BOOTHにて無料公開中の「Project:OVER シチュエーションボイスコレクション 第1弾『Miss.マドレーヌの日常』」にて展開中です。
もちろんこちらを聞かずともこのあとの第二章以降もお楽しみいただけますが、より高い解像度で物語を楽しみたいかたはぜひお聞きくださいませ。
引き続き第二章もお楽しみに!




