第二章 消却者と反逆者①
「『アンチホープ』……?」
マドレーヌの言葉を反芻しつつシャルロットはレオナルドを見やる。
ここまでの道程を見られている以上、名前くらいは知られていて当然だ。
しかし『アンチホープ』なる単語は一度も出ていない。レオナルドも想定外だったのか不機嫌そうに眉を顰めている。その様にマドレーヌの口角が少し上がった。
「くく、魔女に隠し事はできぬと絵本で読まなかったかな?」
「生憎と、教養の類とは無縁でな」
「それは失敬。もっとも種を明かせば簡単よ。妹から貴様のことを聞いただけだ」
妹。その言葉にシャルロット以外の全員が反応した。シフィナが言葉を選ぶようにゆっくりと尋ねる。
「『アンチホープ』を知ってるってことは、あなたの妹が?」
「左様。自身こそが消却者だと名乗りおった。名をサフィールという。そして……」
そこで言葉を切り、マドレーヌは両腕を広げた。
「この先を聞きたければ、取引だ」
「取引?」
カイトが首をかしげると、魔女はにやにやと感情の読めない笑みを浮かべてみせる。
「レオナルド・ヴェルメーレン。貴様の身の上と、消却者について知る限りのことを話せ」
「なんでそんなことを聞く。目的はなんだ?」
「質問しているのは我だ。貴様らは話してサフィールの情報を得るか、話さず手ぶらで帰るか、二つに一つ。言うまでもないが、妹についてならば大概のことは知っておるぞ?」
マドレーヌの言葉に嘘がないか、シャルロットはじっと見極める。
「言っている意味は私には分かりかねますが、偽りはありません。彼女は真剣です」
「そうか。だがな……」
レオナルドがシャルロットをちらと見て頭を掻く。
自分の前でどこまで話すべきか悩んでいるのだ、とシャルロットも容易に察することができた。
レオナルドたちは何か自分の知らないことを知っており、知らないものと戦っている。それがおそらく、知ればもう戻れないものだ。
わずかな沈黙ののち、カイトが見かねたように手を挙げた。
「受けようぜ。こんなとこで腹の探り合いしたってつまんねえよ。それに聞いてる感じ、マドレーヌも消却者の敵なんだろ? 敵の敵は味方、腹を割って話すほうが建設的ってもんだ。シャルロットにも聞いてもらったほうがいいと俺は思う」
シフィナはまだ迷いがあるのか不安げな表情を浮かべる。
「でも……。この世界の人を巻き込んでいいの?」
「もう巻き込んでんだろ。シャルロットも仲間だ。レン、俺からも頼む」
カイトの意見が気に入ったのか可笑しいのか、マドレーヌはレオナルドに向かってくつくつと笑う。レオナルドも「それしかないか」とため息をついた。
「くく、顔は同じでも、あちらはずいぶんと素直なものだな」
「余計なお世話だ。何から知りたい?」
「全て……と言いたいが、あまり長いと文字通りに日が暮れてしまう。貴様が消却者と戦う理由と、彼奴等について知ることを聞かせてもらおう」
「言っておくが、面白い話じゃあねえぞ」
そうして淡々と語りだした彼の身の上は、シャルロットの理解をあまりに超えているものだった。




