第一章 魔女狩りのセイラム⑤
住人たちの目がシャルロットに集まる。気圧されそうになりながら、シャルロットはヴァンフォートに毅然と敬礼した。
「大団長! 出撃の許可を願います!」
「ならん。マドレーヌは生屍の原因ではない」
「しかし!」
「それは恐怖に負けることだ、ノエリア師団長。恐ろしさから逃れるためだけに無辜の者を手にかければ、もはや止まれぬ。
マドレーヌを殺したあとは次の生贄。それを殺せばまた次の生贄。つかの間の安心のために誰かを吊るし続け、やがては友を、師を、家族をも手にかけねばならなくなる。
それだけは、それだけは避けねばならん」
「だとしても、もう皆を抑えきれません。せめて我々の手でマドレーヌを捕らえるべきです」
シャルロットに促されてヴァンフォートは住人たちを見やる。住人たちの目は不安に血走り、もはや言葉の届く状態でないことは明らかだった。
「お願いします大団長。このままでは貴方の身も危険です」
「しかし、湖畔は生屍の多発地帯でもある。隊を送れば多大な被害が出るやもしれん」
「それ、は……」
目を伏せ、黙り込む。シャルロットとて部下を巻き込むことは本意ではない。
無策で生屍に立ち向かうことが如何に無謀かは、彼女自身が痛感したばかりでもある。
そんな二人の会話に横からカイトが割り込んだ。
「だったら、俺も行くぜ。ヴァンフォートさん」
「カイト殿、貴殿はもう十分に戦ってくれた。我々のために客人が危険を冒すことはない」
「いやだね。俺が気に入らねぇんだわ」
カイトは不機嫌そうにヴァンフォートにシャルロット、そして住人たちを見回した。
「湖には生屍がウジャウジャいんだろ? それにマドレーヌって女が本当に凶悪な『魔術師』ならどうなる?
シャルロットが行けばシャルロットが! あんたらが行けばあんたらが死ぬ!
簡単に命を投げ捨てんじゃねぇ!」
行けば死ぬ、という事実を改めて突きつけられ、意気を上げていた者たちもわずかに怯む。だが彼らとて明日の生活が懸かっている。
「他所者が知った口を聞くな! このままじゃ暮らしていけないんだよ! 魔女を、マドレーヌをどうにかしなきゃ夜も眠れない!」
「だから俺が行くっつってんだよ。そのマドレーヌって女をここに連れてきてやるから、あんたらは大人しく待ってりゃいい」
ただしマドレーヌが本当に黒幕だとはっきりするまでは危害も加えさせない、と念を押して近くの青年を睨みつける。
「言っとくが、あんたらが百人束になっても俺には勝てねぇよ。だよな、シャルロット?」
「……ええ。カイトが一息で数十体もの生屍を殲滅するのを私は見ました。彼だけで一個師団なみの戦力とみなしてよいかと」
他ならぬ師団長の言葉に住人たちもどよめく。それを後押しするように、脇からシャルロットの知る声が、もう一人。
「随分と褒められてるな、カイト」
「遅いぜレン。イジメられるとこだったじゃねーか」
心にも無いカイトの言葉に、レオナルドも軽く笑って応える。その後ろにはシフィナもついてきていた。
残りのメンバー、妖精のフィリアは宿で眠っており、お調子者のチックと狼のガーカスも彼女についているのだろう。シャルロットはそう察して視線をレオナルドへと向けた。
「レオナルドさんにシフィナさんも、なぜここへ?」
「騒ぎが聞こえてな。地理が分からねぇもんだから時間を食ったが、間に合わなかったか?」
「いいや、一番いいとこだ。明日、湖にピクニック行くんだけど来るか?」
「弁当は?」
「いいハムもらったからサンドイッチにしようぜ。パンもあるしな」
「いいな。俺、参加で」
「緊張感のない会話しないでよ。私も行くから四人分ね」
命がけの作戦に向かうとは思えないほどリラックスした空気のまま、カイトは改めてヴァンフォートに向き直った。
「つーわけで、この件は俺らが預かる。力尽くで止めてみるか?」
「……いいや、貴殿の申し出に感謝する。どうかマドレーヌを頼む」
「あいよ。任されたぜ」
ヴァンフォートとカイトが握手する中、シャルロットは視界の端で従兄のリュシアンが部下と話すのを目にした。
「生屍…………壁……越え…………私……」
雑音に紛れて聞こえる内容から察するに、壁を越えて入ってきた生屍がいたらしい。通常ならばあり得ないことだが、それでも一、二体なら問題はない。師団長のリュシアンは生屍を仕留める技術も修めている。
「リュシアン兄様……?」
自ら対応に向かうリュシアンの背中が、シャルロットは妙に気になった。




