八話 本当の地獄はここから
早朝。祖父から賜った「魔力を勝手に吸収する拘束衣」を身に付けた華は、魔力を吸って重くなった足を必死に動かして修行場に現れた。
華は少し前までは魔力無しで動いていた為、運動の際にある程度の魔力に頼るダイヤマト人よりかは動けている。
しかし、いくら鍛えているとはいえ小柄な華に、魔力を吸った拘束衣はだいぶ重いようだ。
花樹は華の側を歩き、いつ何が起こってもいいように身構えている。
「な、何とか来れました……!」
「歩けるだけで満点だ!」
魔力を体内に留め、外に魔力を放出しないよう必死になりながらも、華は祖父の前に姿を現した。
僅かでも気を緩めたら、華は衣類と足袋の重さによりあっという間にその場に倒れてしまうだろう。
「よし! 今日はその格好のまま散歩するぞ!」
「はい……!」
祖父は華を連れて山の中の散歩を開始した。
「魔力を体内から出さぬよう、内に留める基礎は学んでいたな?」
「はい……!」
「今、必死に外に出さぬよう頑張っているな? それをもっとギュッと! 引き締める感覚で! それが基礎だ!」
「はいっ……!」
祖父は拘束衣を完璧に着こなす基礎を教えながら快活な足取りで歩いていく。華はそんな祖父を追うので手一杯だ。
数十日後……
華は拘束衣を身に付けたまま修行をこなせるようになっていた。
「ほっ、ほっ、ほっ……」
「随分と早く馴染んだなぁ! 流石は華!」
祖父と華、花樹は縦に並んで山の道を駆け抜ける。この程度なら華でもある程度はこなせるようになっていた。
次は拘束衣を身に付けたままで技を磨く。
「やあっ!」
「よし! いい技だ!」
足技を素振りする華を、祖父は元気よく見守る。
「ある程度慣れてきたら、少しだけ魔力を吸わせろ! 自分の決めた量だけ吸わせ、残りは吸わせないように頑張れ! 身体強化で重さを支えるのも忘れるな!」
「はいっ!」
華は元気よく返事をすると、足袋にほんの少しだけ魔力を流す。
「あっ……!」
しかし、流したところから魔力を吸われたらしい。足袋の重さに華は思わず転びそうになったが、何とか踏ん張り立ち上がる。
「ぐっ……!」
「その調子だ! 放出するなら、流すのではなく放っておく感じで! 分かるか!?」
「説明が独特で分かりません!」
「そうだな! ごめん!」
祖父は素直に謝罪をした。
「姫! 魔力を流すのではなく、体内に閉じ込める魔力の量を僅かに減らせばいいのです! 余った魔力は放っておく! とのことです!」
「自然に任せる感じだね! 分かった!」
花樹の助けにより理解できた華は、拘束衣に一定の魔力を載せると重さを乗せた足技を放った。
「やった……!」
足技に重みが加わり、華は大喜び。最強への第一歩を踏み出した。
数日後、魔法の訓練にて。
「今日は魔法弾を放つ特訓だ!」
「お爺様、魔法を放つ前に魔法そのものが消えてしまいます!」
「魔法なら、拘束具に吸収される前に放てばいい! ほれっ!」
魔力を取られる拘束具と拘束衣を身に付けている祖父は、じつに簡単そうに、見事な魔法弾を放った。
制度も魔力量も完璧な見事な魔法弾が放たれた。
「わぁ……!」
祖父の魔法弾は的のど真ん中に見事命中。華は更に目を輝かせた。
今までより遥かに過酷になった魔法の猛特訓。
普通なら、過酷な環境よりもはるかにましな勉学を天国だと思う筈だ。
しかし、華の勉強嫌いは変わらなかった。
「あーあ、早く特訓の時間来ないかなぁ……」
「姫ってば……勉学より、まだ地獄の特訓の方が勝るのですか……」
自分の為、そして家族との再会の為に順調に強くなる華。
そんな華の知らないところで、菜乃家に突如として現れたご令嬢の話は、一部で話題に上がっていた。
現世から来た、とんでもない魔力を持つおてんば姫。
噂によると、有名な魔法学園に受かったらしい。
世間から好奇の目を向けられる一方で、一部からは良からぬ感情を向けられていた。
「魔力も無い現世から来た女が、あの有名な四季魔法学園に受かった……!?」
とあるお屋敷。様々な魔法関連の書や魔導具が並ぶ部屋の中で、1人の令嬢が華の噂を聞いて怒りを露わにしていた。
「本当は私の席の筈なのに……! 私が四季魔法学園に通う筈だったのに……!」
そのご令嬢の前には、噂を持ち込んで来た一人の女性の術師。彼女は目の前で怒り狂う令嬢を静かに見つめていた。
「華姫……! 魔法もないつまらない世界から来たあの女、絶対に許さない……! 四十!」
令嬢は目の前にいる術師に顔を向けた。
「あの女に決闘を申し込んで! 私が優れていることを世間に示して、四季魔法学園に選んだ相手が間違っていたと知らしめるのよ!」




